第38話 届かぬ言葉
屋敷にいる人間は、だいたい殺すか半殺しにした。
使い道があるかもしれない領主と役人は、とりあえず足を斬って動けないようにして放置してある。
逃げるのなら後で殺すし、失血で死んだらそれまでのこと。
町の方は相変わらず騒がしい。火事と、魔物騒ぎで。
とりあえず五体満足な二人に案内させて、屋敷の横にある厩舎に来ていた。
「こ、ここに……」
若い男が震える手で示す。
領主の息子なのだとか。名前は聞いたが覚えていない。
イリアが記憶する必要性を感じなかった。
女の方は、先ほどから話していたクロエだ。
漏らしてしまっていて下半身が濡れているが、着替えさせてやることもない。
マルセナが求める翔翼馬を隠そうとしていたのだから、即座に殺されないだけでも感謝してほしい。
(この二人が翔翼馬の主人だって言うんだから、まだ殺すわけにはいかないけど)
二人の距離が微妙に近い。
何かしら親密な関係にあったのだろう。どうでもいいけれど。
「まあ! 見て下さいイリア」
楽しそうなマルセナの声を聞けば、イリアも嬉しくなる。
厩舎の中は、意外なほど綺麗に掃除をされていて、そこに二頭の翔翼馬が繋がれていた。
漆黒と、純白と。
「これは……変異種なのね」
イリアは野生の翔翼馬も見たことがあるが、こんな色は初めてだ。
茶色系統のものしかいないと思っていた。
「角があるのも変異なんでしょうか?」
「たぶん」
こんな近くで見るのは初めてだ。
変異種だからなのか、丁寧に扱われているせいか、毛艶が良くとても美しい。
目を奪われた瞬間だった。
「こいつらを蹴りこ――」
後ろから上がった声に、イリアが焦ることはない。
「バカね」
敵地だ。油断などしていない。
見る必要もなく、後ろ手で男の心臓に短剣を突き刺した。
後ろ手だったので、鳩尾あたりの腹から、肋骨の裏を潜るように心臓を。
「ぶ、ひぇ……」
「ニカノル!」
「マルセナ、白い方の呪枷が――」
「大丈夫ですわ」
イリアが見た時には、既にマルセナは純白の翔翼馬の呪枷を千切っていた。
その手にした黒い呪枷が、灰となって崩れ落ちる。
「ニカノル! なんてことを……」
クロエがしゃがみ込んで嘆いているがどうでもいい。
マルセナは今、イリアが男を殺す前に呪枷を引き千切った。
いともたやすく。
「無粋ですもの。この真っ白い体に黒い呪枷など」
「でも、それじゃ……」
呪枷を主人の意志に反して外そうとすると激痛が走るのではなかったのか、という疑問。
それと、呪枷から解放された翔翼馬が魔物としての本能のままに暴れるのではないかという危惧。
どちらもイリアの杞憂だったようだ。
「……大人しくなさいな」
マルセナの目を見つめる純白の翔翼馬。
もちろん厩舎の柵に繋がれてはいるものの、この魔物が本気で暴れ出せば縄も柵も、この建物さえ壊せるはず。
暴れるようであれば、イリアが殺す。
「……」
呪枷を外された恩義なのか、あるいは力関係を感じたのか。
頭を垂れ、臣従を誓うようにマルセナの足先に口をつけた。
「そんな……呪枷もなしで、そんなこと……」
「魔物にはわかるのでしょうか。序列というものが」
「マルセナは女神の化身だから」
「本当に、イリアったら……」
慄くクロエを余所に、自分を賛美するイリアの言葉にマルセナが苦笑する。
つい、と。指を目の前に差し出された。
イリアは何の疑問もなく、それを口にする。
「あむ……」
特に意味はなかっただろう。翔翼馬を手に入れて機嫌がよくなったからという戯れの褒美。
うっとりとマルセナの指に舌を這わせるイリアに、血泡を零して死んでいるニカノルの死体の横でクロエは言葉を失っていた。
「本当にイリアはおべっかが上手ですわね」
「は……ぅ、おべっかじゃない。マルセナは」
「わたくし、馬は乗れませんの。残念ですけれど」
大人しくなった純白の翔翼馬に、マルセナが濡れた指を指し出した。
翔翼馬がそれの匂いを嗅ぐ。
「イリア、貴女が乗って下さるかしら?」
「え……うん、いいけど……」
乗りたかったのではないのか、と目で問いかけた。
マルセナは頷いて、
「わたくしを抱っこして、です」
素敵な提案だ。
この翔翼馬は大きい。二人で乗ることも可能だろう。
また、マルセナを後ろから抱きすくめての騎乗など、実に素晴らしい。
「クロエ、こちらの漆黒のは貴女のなのですよね?」
「あ、あ……」
血塗れの死体に触れるでもなく、その傍で震えているクロエ。
マルセナは、まるで奴隷にでも言うように命じた。
「一緒に来なさい。飛び方など聞きたいですから」
二体の翔翼馬が三人の女を乗せて、混乱を深めるトゴールトの空に飛び立った。
※ ※ ※
プリシラは、ごく普通の村の娘だった。
つい先日、村が襲われ怪しげな呪術師に囚われるまでは、特別な力のない貧しい家の娘でしかなかった。
――気に入った。
そう言われた。
――何も持たぬゆえ、気に入った。
プリシラの家族も、プリシラを時折遊び半分に虐げていた村の人々も、次々と死んだ。
黒ずみ澱んだ外套を纏った呪術師は、それらを殺すとプリシラに首輪を嵌めた。
ぬるりとした感触で、プリシラの首に絡みついた赤黒い首輪
そうしてプリシラは呪術師ガヌーザの奴隷になった。
赤い首輪は、話に聞く奴隷の首輪とは違う。
着けたからといって、主人への絶対的な服従を強制するような感じはなかった。
力が湧く。
今までにない力がプリシラの中に生まれる。
今まで出来るはずのなかったことが出来るような万能感というのだろうか。
プリシラは戸惑う。自分が自分でなくなってしむような感覚。
自由。
貧しい家で育ったプリシラは、今まで自由などという言葉を実感したことはなかった。
不自由だったということさえ思わない。考えたこともない。
何もない草原に放り出されたような、大海原に投げ出されたような、何も寄るべきものがない恐ろしさを感じさせる自由。
家族も死んだ。自分がどうすればいいのかわからない。
これが自由なのか。闇夜を何にも掴まらずにに歩けと言われているようだ。
だが、わかる。
自分に力を与えたのはこの赤い首輪で、もう切り離すことも出来なくて。
これをプリシラに嵌めた相手が、自分よりずっと強い力を持っていることが感じ取れる。
主人として強制されるまでもなく、心に刻みつけられた。
逆らえないと。
プリシラは、ただ広大なだけの自由を導いてくれる呪術師ガヌーザに臣従を誓った。
その手に、その足に、その身に隷属を誓う。
翌朝、村を出る際に、時折自分をいじめていた男を見た。
怯える男の首を掴み、熱く挨拶を交わす。
頸椎まで焼けただれた男は、ごろりと頭を落としてプリシラを見送った。
ガヌーザは喉の奥で嗤い、プリシラの顔を渇いた指で撫ぜてくれた。
※ ※ ※
「思うた、より、も……存外、力となる、か……」
赤い首輪を試みたのは三度目になる。
相性もあるのかもしれない。やはり下調べは大事だと。
肉の味を知り、その心中を知れば、合うか合わぬか何となくわかる。
赤い首輪を使ったのはガヌーザが初めてだろう。人類史上初の試み。
魔物から得た魔石の中で、稀に使えないものが混じる。
町の水流や光源としての活力として消費することもできず、魔具の加工にも使用できない。
屑魔石と呼ばれたり、贋物として廃棄される。
もっともそれほど数があるわけでもなく、大きな町でも数年に一個程度だが。
大抵が割と重量のある魔石なので、何者かが金になると考えて贋物を作成したのだろうと思われることもあるのだが。
だがそれは、紛れもなく魔石だった。
見た目にはわからぬ希少な魔物が残す魔石。
見出したのはガヌーザではない。
ガヌーザの師であるダァバ。
この魔石の利用方法があると、ダァバは言った。
その理論を聞いていたガヌーザが実現したのだ。
魔物の力を人間に宿すことを。
師ダァバに力や知識が足りなかったのではない。
このことに関しては、ガヌーザは改めて師に敬意を覚えていた。
足りなかったのは材料だ。地の利と言ってもいいのか。
「清廊族……その処女の血、あらば、か……言われ、たとおり……まさに、まさ、に……」
仲立ちする溶媒として、カナンラダに生息する種族の生き血が必要だった。
ロッザロンド大陸にも奴隷としているが、処女となれば難しい。
ダァバの理論はそこで頓挫しており、こうしてガヌーザがここで実践したのだ。
今回はひどくうまく適合したのか、思わぬほど力を発揮している。
加工できぬ屑魔石も希少で手に入りにくいから、いつでも実験できるわけでもない。
「ひ、ひゃ……」
ガヌーザに従う娘――プリシラという名前だと覚えた。
薄汚れた娘だったが、直感を信じてみて正解だったと思う。
マルセナとの巡り合わせが、こうした部分でもガヌーザに都合が良い転がり方をしているのかもしれない。
まさに女神の導きだと、感謝する。
「あな、がち……ざれ、ごとでも……な、いか……」
師の顔を思い出そうとして、そもそも覚えていなかったことを思い出す。
ぼんやりと翳るような印象のない姿だけしか記憶にない。
ダァバから教えてもらった知識は余さず記憶しているが。
「にひゃ、く……ねんを、生きる、か……」
大げさな箔付けの法螺話かと思っていたのだが、それも嘘ではなかったのかもしれないと。
師から受け継いだ成果が、自分の身を舐るのを感じながら、改めてかつての師に感謝を捧げるのだった。
※ ※ ※
「ねえ、マルセナ……マルセナ、お願い」
「見ていなさい。そう命じたでしょう」
マルセナの下で、荒い息で呻いているのはイリアではない。
トゴールトを救ったと、今町で噂の女天翔騎士。
黒翔のクロエと呼ばれるようになる女だ。
「だって、マルセナ……」
「彼女に、きちんと立場をわからせてあげているのですわ。これから、色々と必要ですもの」
マルセナの持つ乗馬鞭が、びしりと音を立てた。
「ひぅっ……?」
打ってはいない。音を鳴らしただけだ。
条件反射で身を縮めたクロエに、マルセナは肩を竦めた。
「わたくしも、別に好きで鞭打つわけではありませんの」
言いながら、クロエの背中に浮かぶ赤い痕に指を這わせた。
「い、あ……」
「隠し事はなしにしましょうと、わかっていただきたくて」
背中の傷に手を這わせながら、クロエの体に覆いかぶさるように首の後ろから囁く。
「ねえ、クロエ。わたくしの言いたいことがわかります?」
「は、はい……はい、すみません」
「謝ることはありませんわ。わたくしも、出来れば手荒なことは好きではないものですから」
逆らったら殺す。逃げたら殺す。
そう言われてただ鞭打たれるクロエをイリアは見ていた。
見てなさいと命じられたので、そうするしかなくて。
「マルセナ、私……」
「イリア……わたくし今、この子を罰しているのですけれど」
なおも口を挟むイリアに、呆れた顔で応じるマルセナ。
「貴女が欲しがったら罰ではなくなってしまいますわ」
マルセナからもらえるものなら、鞭でも何でも欲しい。
構ってほしい。
イリアがそういう表情で見ているのを、マルセナは困り顔で、クロエは涙目で見ていた。
無事だった建物の客人用の寝室で、一度休息をということだったのだが。
南門で兵士を嬲っていたガヌーザを、クロエに拾い上げさせた。
西門の魔物というのはガヌーザが拾ったプリシラという娘だったが、こちらは適当に暴れた後に逃げて町の近くに潜んでいる。
町で噂された西門の魔物はそれだとして、南門の魔物というのは……ガヌーザのことだったか。
ガヌーザを拾わせたのは、戦っていた町の者に、黒い翔翼馬に騎乗するクロエがこの呪術師をどうにかしたと見せる為に。
そのまま領主の屋敷に戻り、治癒の魔法薬で傷を癒して逃げようとしていたピュロケス達を再度捕えた。
そして、呪いを刻んだ。
黒い呪枷と同様だが、その首の後ろに直接刻む。
マルセナの血を使い、ガヌーザの呪術でそれを黒い墨のように変えて、隷従の印を刻み付けた。
そういう手法があることをイリアは知らなかったが、呪術師とすれば珍しい技ではないのだという。
むしろこれが本来の形だと。
呪術師がその場に居合わせなくとも使えるようにしたのが、黒い呪枷なのだと言う。
イリアの首に巻かれているこれにも、主人となるマルセナの体液が混じっているのだとか。
呪術師本人は、自分の血で隷従の呪いを他人に刻むことは出来ないらしい。理由まではよくわからない。
ガヌーザの言葉はぽつりぽつりとしていて、イリアにはその程度しか理解できなかった。
町の有力者たちをマルセナに隷属させる。
黒い呪枷が目につくわけにはいかないから、直接首の後ろに刻んだのだと。
彼らに、町の混乱を収めるように命じた。マルセナに一切の不利益がないよう制限をつけて。
町を襲った者は全て片付けた。
ピュロケスの息子ニカノルは殉死。最大の功労者は黒翔騎士クロエである。
そう喧伝しながら、この町の守備隊の責任者になるパシレオス将軍にもそう伝令を送った。
後の処理を彼らに任せて、マルセナは休息を取るということにしたのだが。
「貴女にはこの町をまとめる役割をしていただくわけですから、大事でしょう? 信頼というのは」
マルセナはクロエを剥いて、その身に刻んだ。
呪いではなく、親愛を。
イリアにはそう見える。
泣く必要などない。イリアなら喜んでそれを受け止めるのに。
「う、うぅ……」
「よく考えてみたら、別に町を支配したいわけではありませんの。都合よく使えればそれでいいものですから」
だから飾り付ける。
クロエという代役を、このトゴールトに用意する。
無論、マルセナに従うよう躾は必要だろう。
「汚れましたわ」
マルセナの指が顔の前に差し出されると、クロエはおずおずとそれを口にした。
厩舎でイリアがそうしていたのを覚えていたからなのか、それとも条件反射か。
この娘にも呪枷を刻めばいいと思うのだが。
(何か理由が……それとも、反抗的だったこの女を折りたいだけなの?)
マルセナは楽しそうだ。
それは何よりなのだけれど、イリアの目の前で他の女に触れる姿は見ていたくない。
(この女を気に入った、とか……)
考えると、涙目でマルセナの指を舐める姿に強い憎悪を覚える。
「マル――」
「イリア、わたくし思ったのですけれど」
唐突にマルセナがイリアに向けて首を傾げた。
「貴女も、わたくしに隠し事があるのでは?」
急に何を言い出すのだろうか。
「隠し事なんて……私は、何も……」
「ああ、こう言えばよいのですわ」
立ち上がり、クロエから離れてイリアの前で微笑む。
「包み隠さず、全て話しなさい」
「あ……」
イリアの意思が、マルセナの言葉に上書きされた。
先ほどクロエに清めさせていたその指で、イリアの唇をなぞる。
「……あの時、わたくしに呪枷をつけようとした。そうですわね?」
「うぁ……はい」
「それで、どうしようと思っていたのです?」
言ったはずだ。あの時、イリアの本心を。
「すぐに外して……マルセナに私の気持ちを、わかってもらいたくて……」
「あの時もそんなことを……」
マルセナの瞳がわずかに揺れる。
今のイリアは命令を受けている。逆らえない。
(これは……ああ、なんて素晴らしい)
信じてもらえる。
もう一度、イリアの気持ちを伝えることができる。今度は嘘ではないという確証も伴って。
「本気で、言っていらっしゃったの?」
「うん……マルセナ、私は本当に、貴女を……」
「……信じられませんわ」
それでも真実だ。
今、自分で命じた言葉はわかっているはず。
包み隠さず話せと。
「嘘を言うのは許しません。イリア」
「嘘じゃない。本当なのマルセナ、聞いて」
「嘘です!」
びしりと、マルセナが別の手に持っていた鞭がイリアの腿を打った。
「っ」
鋭い痛みが走る。
けれど、今は最後のチャンスかもしれない。マルセナに本当の気持ちをきちんと伝えられる。
「本当に、すぐに外すつもりだった。私はマルセナのことを心から愛しているの」
「そう思い込んでいるだけではありませんの?」
「違う! 本気で……」
マルセナは、どうしてかは知らないが、人の好意やそういった気持ちを信じることが出来ないようだ。
常に他人を疑い、そこに隠された悪意を見出そうとしている。
確かにそういう人間は多いし、誰もが何かしら利己的な気持ちを抱いて生きているだろう。
けれど、イリアのマルセナに対する気持ちはそうではない。
「本当に貴女を愛して――」
「では、ほんの少しでもわたくしを呪枷で縛りつけようという気持ちがなかったと言えますか?」
「――っ!」
言葉が詰まった。
「わたくしを隷属させ、その情欲を存分に果たそうと思わなかったとでも?」
「あ……あ、ぁ……」
それは……それは、少しも、思わなかったのかと問われれば。
「答えなさい、イリア」
「か……かんがえ、まし、た……」
あの時、脳裏を過った気持ちの中に、なかったのかと聞かれれば、あった。
すぐに否定したけれど、少しも考えなかったのかと問われれば、間違いなく考えたのだ。あの時イリアは。
マルセナは、何か安堵したように息を吐いてから、優しく微笑んだ。
「ほら、ごらんなさい」
安心したというようにイリアの頬を撫でる。
「あ、あ……違う、マルセナ。違うの。それは考えたけど、すぐに……」
「黙りなさい!」
言葉を遮られた。
命じられれば、イリアはマルセナに逆らえないのだから。
「……」
「……イリア、もうこの話は言わなくていいですわ」
「……」
「聞いたわたくしがどうかしていました」
そう言って、マルセナはイリアに口づけをする。
ごめんなさいと聞こえたような気がした。
「……」
「もう喋っても構いません」
「あ、マル――ん、むぁ……」
そう言っておきながら、再び口づけを。
イリアの唇はマルセナで満たされて、小さな体を優しく抱きしめる。
(違う、違うの……聞いてほしい、マルセナ……)
命じてほしい。
もう一度、全てを包み隠さずに話せと。
イリアの気持ちの全てを知ってほしい。それが出来るのだから。
「……イリア」
けれど、その話をすることはもう終わりとされてしまって。
イリアはただ優しくマルセナを抱きしめるだけ。
言葉には出来なくても、本当に心から貴女を愛しているのだと伝えられるかもしれない。
「人の言葉なんて、信じられませんもの……」
せめてこの温もりだけは、誤魔化さずに伝えられないかと。
「それでも、貴女を愛してる……」
「それは嬉しいですわね」
マルセナの体はイリアの腕の中なのに、寂しげな声はとても遠くに感じられた。
※ ※ ※