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戦禍の大地に咲く百華  作者: 大洲やっとこ
第五部 散る花。咲かぬ花
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第310話 アンと従者



 アンは生まれつき体が弱く、長くは生きられないだろうと言われていた。


 幸いだったのだろう。

 アンの生家は裕福な……このカナンラダに渡った人間の中で最も多くの富(・・・・・・)を手にした商家。

 どんな手段でも娘を助けられないかと、広く求めた。



 ちょうどアンが生まれた頃に、遠く離れたレカンの町で小さな事件があった。

 名が売れ始めていた冒険者パーティ『剛の連星』が魔境で壊滅したと。

 どこにでもあるような、小さな事件。


 リーダーを務めていたガランという男は、仲間を死なせ生き残ったという周囲の目を嫌い、妻と子を連れて別の町に流れる。



 余所者の流れ者ガラン。

 実入りの良い仕事などあるはずもなく、信頼の置ける仲間も出来ない。

 膿んでいた。


 何の巡り合わせか、豪商の使いが薬や治療法を求めている場に出くわす。

 呪術薬、新しい魔法。荒唐無稽な神話伝承の類まで。



 涙の粒のような模様の水草。

 月の光を受けると薄っすら輝くような。


 神洙草。

 その話が耳に留まったのも、何かの巡り合わせだったのだろう。

 黒涎山でガランが命からがら握り締めていた葉は、確かにそれだった。



 ガランの娘は、アンより少しだけ年上だった。

 ティシャと言う。


 豪商の家は、ティシャをアンの友人兼従者として迎えた。

 まともな仕事にありつけずその日暮らしだったガラン達は、そのおかげで十分な暮らしができるようになった。


 アンとティシャは強い絆で結ばれた姉妹のように育つ。




 体の弱さを克服したアンは、それまでの反動か非常に活発な生き方を好むようになった。

 自分の命を救ってくれた冒険者ガランへの憧れのようなものもあったのかもしれない。


 家を継ぐわけでもない。

 元気になったアンの姿に家族が喜ぶうちに、アンはすっかり近隣で有名な冒険者に。

 成人するまでに名を轟かせる。


 ただ、生家の名は少しばかり体裁が悪いこともある。

 母の家名で、アン・ボウダと名乗った。


 従者ティシャを供に活躍する彼女の前にエトセンからの使者が訪れる。



 ――エトセン騎士団に入団を。幹部待遇で迎える。


 アンはさほど興味があったわけではない。

 だが、ティシャは大層喜んだ。非常に名誉な話だと。

 生家の方も、色々な上流階級との繋がりが出来ることを望み、それらの後押しもあって受け入れた。




 箔をつけたい。

 そんな理由で魔境を制する。


 騎士団の支援を受けつつ、ヘズの町近くにあった魔境始樹の地下迷宮の深部で、未知の魔物を倒した。


 昆虫型の伝説の魔物。

 螻々房(るるぼう)と原住民は呼ぶらしい。

 非常に硬い甲殻を持つ魔物で、口唇から酸の霧と長く伸びる触手で攻撃してくる。

 動きは遅かった。


 相性が良かった。卓絶した炎の魔法使いであるアンには。

 酸の霧を吹き飛ばし、護衛の騎士が触手を防ぐ間に焼き殺すことができた。



 ヘズとエトセンは、当時はさほど敵対していなかった。

 敵対する原住民の勢力も完全に排除できていない。

 また、この新大陸の未知なる脅威への不安もあり、別の国とはいえ隣り合う町同士が相争う余裕まではなかった。


 戦果を持ち帰ったアンはヘズの町で賞賛を受け、エトセン騎士団の団長に祭り上げられる。


 ボウダ家は統一帝の流れを組む貴族の家柄。アトレ・ケノスでもルラバダールでも通じる。

 そうは言っても成人して間もない小娘を団長に?

 エトセンやルラバダール国内の政治的な事情だったらしい。


 当事者であるアンは唐突な展開に圧倒されながら、しかし従者ティシャの喜ぶ顔に否とは言えなかった。騎士団上層部からも形式的なものだからと強く推されて。


 少し年上のティシャはいい年齢だ。

 老齢に差し掛かった父ガランが孫の顔を見たいと言っていることも知っている。



 お飾りでもエトセン騎士団団長として腰を落ち着け、エトセンの若者とティシャの結婚を祝福した。

 元気になってからずっと一緒だった姉のような存在との距離の変化に、少しばかり寂しく思ったものだけれど。



  ※   ※   ※ 


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