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戦禍の大地に咲く百華  作者: 大洲やっとこ
第一部 傷に芽吹く火種
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第17話 母の影 (挿絵)

挿絵(By みてみん)

     イラスト:いなり様



 さらに二日ほど進み、小雨の降りやんだ朝。

 西側は緩やかに下っていき見晴らしがよい。


 荷車を押しての移動なので、なかなか速度は上がらないが、それでも人間の町などからはかなり離れた。

 この辺りにあった小さな集落は、ルゥナとアヴィが最初の頃に滅ぼした。ここは黒涎山から近い。


 西を見れば、その遠くにかつては黒涎山の頂が見えただろうが、今はもう見当たらなかった。



 東、北側は少し木々が多くなっていき、その北には高く聳えるニアミカルム山脈の峰々がうっすらと見えている。

 これより北には人間の集落はない。

 あっても、猟師や何かが森で休憩する小さな小屋程度。




 滅ぼした集落で一度休憩を取り、当時は必要なかった旅に使えそうな物を回収する。

 村の外れに少し沈んだような地面があるのは、滅ぼした時に埋めたからだ。

 いらないもの、不要な物。死体や、どうにも使い道のない命石をまとめて。


 黒涎山近くから流れる川は二つある。

 一つはくねりながら南に延びていく川。ルゥナが氷の橋を架けた川だ。


 もう一つは、山脈伝いに東へ伸びていく小さな川。

 山脈から流れる別の小川と合流しながら、東に向かって大きな川になっていく。


 この集落から北に、坂を少し下ってその川を渡れば次は山脈の領域に入っていくことになる。

 追手は来ないかもしれない。

 ルゥナがそう思える程に順調で、だからこそ不安も感じさせた。



「人の気配です。二人……だと思います」


 ユウラの言葉に足を止めた。

 彼女の感覚の鋭敏さは誇張ではなかった。ある程度の大きさの生き物が動いていれば離れていてもそれを察知する。

 木々で視界が悪い中でその能力はとても有用だった。


「こんな場所に?」


 滅ぼした集落から逃げ延びた人間か、そうでなければ冒険者か。

 二人組で探索に臨むような冒険者であれば、相応に優秀なのかもしれない。

 アヴィと共に前面に立ち、他の者には息を潜めるように指示した。




 引き合う力というのはあるのかもしれない。

 偶然とは言えず、意図せずに思いもしない形で過去の何かと関わり合いになる。そういう経験は多くの者にあるだろう。


 それを思えばラザムの襲撃もそうだった。

 正気を失った後、黒涎山から近い場所を彷徨い続けていたのだとすれば、ルゥナたちと出くわしたのも不思議ではないと言える。


 だが偶然ではなく、運命の歯車と呼ばれるような何かがあったのだとすれば。

 似たような巡り合わせが繰り返されることは、必然だったのだろう。




「……まさか、そんな」

「見間違い、ではありませんのね。印象はだいぶ違いますけれど」


 ルゥナの驚愕の声に対して、マルセナはそれほど驚いた様子には見えなかった。


 ボロボロの……所々破れ、着替えもないのか濡れて乾いてを繰り返しくたびれた服で、マルセナはそれでも不遜と感じさせる姿勢で溜息を吐く。

 今ならルゥナの方がまだマシな服を着ているように見えた。


「生きていたのね。呪枷が外れて……?」


 同行しているのはイリアだ。

 ラザムが生きていたことを考えれば、予想は出来たことだった。


 勇者シフィーク、闘僧侶ラザム、強襲斥候イリア、そして天才魔法使いマルセナ。

 彼ら四人は、シフィークの奴隷だったルゥナを伴い黒涎山の洞窟に入り、その崩落の巻き込まれた。

 ルゥナはアヴィにより山を出ていたが、他の面々もそれぞれ生き延びていた。



(とすれば、シフィークも……)


 生きていると考えた方がいい。むしろ最も力のあった勇者が死んだとは思えない。


(そうか、イリアは……)


 かなり腕の立つ斥候だ。これだけの大人数で移動していたら察知されないはずがない。

 彼女は武器を失ったようで、手にしているのは森で調達したらしい木の棒だが。



「……まさか、私たちとやる気? じゃないわよね」

「……」


 正気を失っていたラザムとは違う。上位の冒険者で、戦う手段の心得は多い。


(それに、あの魔術杖……)


 どうせ武器が失われているのなら、むしろ逆が良かったと思う。

 マルセナの手には、彼女の愛用の魔術杖が。


 魔法は物語。世界に染みついた言い伝えなどを紡ぐ。言葉と杖で。

 魔術杖なしで魔法を使うことは、通常の数倍の負担があってまともにできない。消耗も激しいし威力も不足する。

 イリアの短剣ならその届く範囲は限られるが、マルセナの魔法は違った。



「気を付けて下さい。あれは危険な魔法使いです」

「知ってる」


 アヴィはマルセナの魔法を見ている。

 それでも言ったのは、アヴィの手が震えていたからだ。怒りで。

 母の仇の二人。

 一人は殺したが、続けてもう二人を目の前にして冷静ではいられない。



「ずいぶんな物言いをしてくれるじゃない。奴隷の分際で」

「もう、違います」


 ルゥナに震えはない。

 先日のラザムの時のような失態はしない。アヴィの母が奴隷の首輪を拭い去り、アヴィが奴隷だったルゥナの心を解放してくれた。


 そう思えば前回の遭遇戦は幸運だった。苦痛はあったが、乗り越えて戦える心構えが出来ている。


「たいそう勇ましいご様子ですわ、本当に」

「お前たちなどに、もう好きにはさせません」


 やや楽し気なマルセナに強い視線を向けた。

 我が侭な気分屋。時折、戯れのようにルゥナにも施しを与えることがあった。

 その方がより屈辱だとわかっていたのだろう。



「マルセナを……よくもマルセナに対してそんな口を叩いてくれるわね」

「……」

「薄汚い影陋族が。泣いて命乞いしても許さない」


 違和感を覚える。


 ルゥナの知っている二人の関係は、友好的とは逆の、女の意地を裏でぶつけ合うような陰湿な敵対関係にあったと思うのだが。

 勘違いだったか、表向きはそうでも陰では睦まじい関係だったのかもしれない。


 マルセナを庇うように立つイリアの目の怒りは本物だ。

 それは、まるで――


(愛しい伴侶のような……)


 イリアも決して体格が大きいわけではないが、マルセナはそれよりまだ小柄だ。

 可愛い恋人を守ろうとするように立つ姿に、やはりルゥナの勘違いだったのだと理解する。


「皆殺しよ。あんたたち全員」


 そう宣言するイリアが突き付けるのは先端が尖った木の棒だが。

 これで十分だと思っている。事実、イリアの力なら出来るのかもしれないが。



「……それは、こちらのセリフです」


 ルゥナは手にしたショートソードでそれに応じる。


「人間は、皆殺しです」

「へえ……」


 すうっと、イリアの目が細められた。


「武器があるから私に勝てるとでも思ったの?」


 見た目の装備とすれば圧倒的にルゥナが有利だが、決して油断はしない。


「たとえ素手でも、人間に屈することはありません」


 もう、二度と。

 ルゥナの覚悟を感じたのか、イリアの方も口元を引き締めた。



  ※   ※   ※ 



「ミアデ、ニーレ。隙を見て皆を連れて先へ」

「……はい」


「セサーカは残ってフォローをお願いできますか?」

「あ……はい、もちろんです」


 実力が足りない。彼女らでは邪魔にしかならない。

 ニーレの弓もこの状況ではおそらく意味がないだろう。戦力として使えるのはセサーカの魔法くらい。



「アヴィ、魔法使いをお願いします」


 魔術杖を持つマルセナの脅威度が高い。

 アヴィに任せるのも不安だが、ルゥナでは対応できないだろうと冷静に判断する。


「わかったわ」

「相談が終わったのなら、冥府へご案内しましょうか。貴女たちの言い方だと……真なる清廊、と呼ぶのだったかしら」


 マルセナは、かつては裏側に置いていただろう嗜虐的な表情で嗤った。

 どうやら素顔を晒すことで快楽を覚えるようになったらしい。


 ふわりとした微笑みを浮かべて、躊躇いもなく。



「原初の海より来たれ始まりの劫炎」

「真白き清廊より来たれ絶禍の凍嵐」


 マルセナの言葉に被せるように謳ったのはアヴィだった。

 手にはセサーカから受け取った木の魔術杖が。


 マルセナの初手の劫炎の魔法は、アヴィの母を深く傷つけた時に見た。

 本来ならルゥナたちの足元から吹き上げる狙いだったのだろうその爆炎は、アヴィの魔法に遮られるように、双方の間で発動し炸裂している。


「っ」


 アヴィの放った凍嵐とマルセナの劫炎が衝突した余波が周囲に響き、ルゥナは顔を庇って呻いた。

 同じ魔法を使っても、ルゥナよりアヴィの方が強い力を発揮する。

 それと拮抗する劫炎の魔法の威力は、まともに受けたら命が危うかった。


 相殺できる理屈はよくわかっていないが、魔法同士はお互いに干渉するというので、アヴィの判断は正しかった。

 余波は反対にも及んでいて、イリアも両腕で顔を庇いつつ前に出て、背中のマルセナの盾になっている。



「そんな杖で対抗されるなんて、自身を失いますわね」

「失うのは、命よ」


 軽い調子でぼやいたマルセナに対して宣言すると、アヴィは杖をセサーカに渡して剣を手にした。


「母さんの仇」

「かあ……さま?」


 まだ魔法の威力が消え切っていない中、アヴィが踏み出す。

 爆心の左に。同時にルゥナが右に踏み出した。


「討つ!」

「はい!」


 同時攻撃。


「記憶には、ありませんわね」


 アヴィの剣はマルセナの冥銀の魔術杖に受け止められ、ルゥナの剣はイリアの棒に弾かれた。


「マルセナ!」

「そっちを相手なさい、イリア」



 戦いが始まったところで、ミアデが清廊族を率いて避難していく。

 近くにいられては迷惑だ。トワたちも、ルゥナの指示に従ってそれについていった。


 魔法使いとはいえマルセナは上位の冒険者だ。身のこなしも常人の域ではない。

 さすがに接近戦では不利と見たのか、魔術杖を使って距離を取りつつ小技を繰り出していた。


「炎よ」

「っ!」


 三つの小さな火球を避け、切り裂いて向かうアヴィだが、意外に俊敏なマルセナを捉えきれない。


「よそ見してる余裕はないでしょ」

「くっ」


 ルゥナは、自分の力不足を痛感させられる。

 強い。

 強いことは知っていたが、今の力なら戦えると、勝てると思っていた。

 相手は木の棒。こちらは使い古しとはいえ剣を持っているというのに。



「天嶮より下れ、零銀なる垂氷」



 氷柱がイリアに迫る。

 それを難なく切り払ったその直後に、もう一本の氷柱が突き刺さりそうになったところを転がって避けた。


「……やってくれるわね」


 二本を一度に発現させた。先ほどのマルセナの炎三つの魔法を見て咄嗟にやったのだとしたら、セサーカの才能は卓絶している。


 魔法使いとして戦いを始めて、まだ日が浅いというのに。

 ルゥナ一人では勝てそうにないが、セサーカがいれば。



「……」


 上位クラスの冒険者というだけではない。イリアは勇者の一行に加えられるだけの力があり、そして経験を積んでいた。

 勇者の剣を防いだことさえあったのだ。武器など有り合わせでも十分な脅威になる。

 ルゥナが力をつけたとは言え、現状で勇者に及ぶはずもない。


「支援は任せて下さい」


 仲間を作ってよかった。セサーカの声に落ち着きを取り戻す。

 独りで出来ないのであれば、出来る算段を整えればいいのだから。



「どういうわけかわからないけど。あんた、こんなに強かったの?」


 イリアの方としても、奴隷としてただ虐げられていたルゥナの今の力に疑問を抱いたらしい。


「貴女を殺してさらに強くなります」

「はっ、上等」


 言ってはみたものの、決して楽な戦いではなさそうだった。



  ※   ※   ※ 



 森に響いた爆発音を耳にするものがいた。


「……」

『……』


 聞こえた方角の空を見つめて、無言のまま頷く。


「あっち」

『うむ』


 二つの影が一つに重なった。


『落ちるでないぞ』

「ん」



 影は一つになり、風のように消えた。



  ※   ※   ※ 



 森に響いた爆発音を耳にするものがいた。


「何事だ?」

「爆発音、ですな」


 答えた中年の男が片目に筒状の遠眼鏡を当てて確認する。


「……ふむ、ここからではわかりませんが、かなり上位の魔法のようです」

「例の黒涎山のやつか?」

「それは何とも」


 十五人の兵士の部隊だった。

 レカンより北東に位置するトゴールトという町の兵士兼冒険者の部隊。


 二十日以上前に崩落したという黒涎山についての情報がトゴールトに届いたのが、十日ほど前。

 その調査と称して、レカン周辺に点在するルラバダール王国支配下の集落などから略奪でもしようかと、そんな目的で向かっていた。


 トゴールト周辺は、ロッザロンド大陸東湾周辺に位置するコクスウェル都市国家群という名称の連合の勢力下にある。

 コクスウェル連合国家としてまとまりつつある彼らは、小さな戦乱の歴史を積み重ねてきた経緯もあり、敵からの収奪に積極的だ。

 その気質は、ロッザロンド大陸からカナンラダにも受け継がれていた。



「ここまで聞こえるとなると、かなりの威力の魔法かと思いますが」

「おもしれえ。そういうのを見たかったんだぜ」


 部隊長であるハラッドは舌なめずりをするように部下たちに笑って見せた。


「森ん中で爆炎魔法ぶっ放すバカだ。何かと戦ってんならちょうどいい。後ろから襲って俺らが英雄様だ」

「おぉ!」


 何かと何かが戦っていて、それが味方でないのなら、後はうまく立ち回るだけだ。

 殺して奪い取るものがあるのならよし。なくても殺してしまえばよし。


 どうせ最初から集落を襲ってレカンの町への嫌がらせをする目的だったのだから、与えられた作戦の方向性と大して変わるわけでもなかった。



「他の部隊に取られてもつまらん。さっさと行くぞ」


 派遣されたのはハラッドの部隊だけではない。

 適度に戦果を挙げて、帰って美味い酒を飲もう。


 カナンラダ大陸の覇権を手中に収めてきた人間たちは、その次の敵を人間と定めて相争うのだった。



  ※   ※   ※ 



「いい加減、しぶとい!」


 ルゥナは防戦に追い込まれている。

 セサーカと二対一でも、強襲斥候イリアの戦闘技術に及ばない。

 それでも何とかなっているのは――


「っ、マルセナ!」


 ルゥナたちとは逆に、マルセナを追い詰めるアヴィへの牽制を挟む為だ。

 無造作に掴んだ小石や何かを、マルセナに止めを刺そうとするアヴィの目辺りに投げつけて牽制している。



「ちっ」

「炎よ!」


 その隙に再び唱えた魔法がアヴィを襲い、下がらせた。

 決め手に欠く状況。


 体力的にはマルセナが不利になりつつあるが、あちらが片付くまでルゥナが持ちこたえられるものかどうか。




「……記憶にないと、思っていましたけれど」


 不意にマルセナが呟く。


「その顔は、黒涎山の洞窟にいた娘ですわね」


 洞窟の中で見たアヴィの顔を覚えていた。思い出した。

 戦いの最中に何を言い出すのか、アヴィがそれを斟酌する必要はなかっただろうが。

 ただ、何か無視できないものを感じたのか、足が止まった。  


 息を吐いて、すっと姿勢を正す。

 そのマルセナの姿は棒立ちのようで、イリアが息を飲んだ。


「マル――」

「貴女の母親って……」


 髪を掻き上げた。

 金色の細い髪を指で掻き上げて、額を見せて。


「ぁ……」

「もしかして、こんなの……だったのかしら?」


 嫣然と嗤う。

 その額に残った黒い傷跡。


「あ、ぁ……」


 それは火傷などの跡ではなく、ぬめるように光を反射する黒い粘液状の肌が。



「わたくしの一部になったようですわ」

「あ……あああぁぁぁぁつ!」


 彼女の額には、粘液状の魔物の一部が焼き付けられたように一体化していた。




「アヴィ! ダメです!」


 猛然と直進して突きかかったアヴィの足元が破裂する。


「弾けよ」


 空気を弾き飛ばして音を作るような魔法で、地面の土と木の葉を舞いあげた。簡易な詠唱で威力は大したことはない。

 けれど、不用意に飛び込んだアヴィの体勢を崩し、目くらましをするには十分だった。



「あんたは!」


 助けに行こうとしたルゥナに振るわれた棒、それを切り払おうと剣を振った。


「ルゥナ様! いけませんっ!」


 相手を舐めていたつもりはない。

 だが迂闊なルゥナの反撃にするりと軌道を変えて、それでいて強い力を帯びた棒が、ルゥナの手を打ってショートソードを弾き飛ばす。


「っ!」

「ここまでだよ」


「始樹の底より、穿て灼熔の輝槍」


 マルセナの頭上に、赤白く輝く槍が現れ、アヴィに向かって放たれる。

 同時に、ルゥナの喉元に尖った木の先端が突き出された。


(アヴィ!)


 自分に突き刺さる先端のことよりも、アヴィを襲う灼熱の槍を。

 ルゥナの視線と、アヴィの視線が重なった。

 お互いに、その瞳を映して。




縹廟(ひょうびょう)の絶峰より、木霊せよ裂迅の叫声』



 空気が破裂した。


 先ほどのマルセナの簡易詠唱の比ではない。

 太い木の幹が砕けるような空気の破裂が連続して起こり、その衝撃に体が舞い踊る。

 大気が割れる。山々の怒りの絶叫が弾けたように。


「うぁぁぁっ」

「きゃあぁっ!」

「マルセナっ!」


 空間ごと揺さぶられるような破裂の猛威に、最初に反応したのはイリアだった。

 激しい振動の中で駆け、マルセナの体を抱き留める。


 ルゥナは、視線が絡んでいたアヴィが飛び込んでくるのを視界に捉えながら、動けなかった。

 直前に剣を落として態勢を崩していたせいで、咄嗟に動けない。


 破裂に吹き飛ばされたアヴィが、歯を食いしばってルゥナに向かって跳ぶのを見つめるだけで。


 衝撃により吹き飛ばされたことで、灼熱の槍の軌道からは外れていた。


 ルゥナを狙っていたイリアはマルセナを助けに走っていて、致命的な一撃から逃れられた。

 気が付けばルゥナの足元にしがみつくセサーカもがいる。



「ルゥナ!」

「アヴィ!」


 抱き合う。

 激しい空間の振動の中、届いた手をしっかりと握って抱きしめた。


 少し可哀そうだが、ついでのようにセサーカも抱きしめられている。

 一緒に地面を転がり、衝撃をやり過ごす。


 幸い、直撃ではなかった。

 直撃させるつもりがなかった、ということか?



(なに、が……?)


 完全にやられていたタイミングで、いったい何が。


 ぐわんぐわんと揺れる耳の奥を無視して視界を巡らせたルゥナは、一目でわかった。


 見ればわかる。その存在感。


 今までそこに存在しなかった者がいる。

 その向こうにはマルセナたちも転がっているのが見えた。

 だがそれを気にすることも出来ない、超然とした存在が。



「み……」


 静かな森の中にも、激しい嵐の草原にも、あるいは穏やかな湖畔にでも。

 どこに存在したとしても、圧倒的な存在感を放つと共に、そこにいるのが自然と思えるような不可思議な存在。


 四つの蹄で大地を踏みしめ、澄んだ瞳でルゥナたちを見つめるそれは。


「み……三角鬼馬(ミツコーン)……」


 ニアミカルム山脈を自在に駆ける神獣。

 清廊族の伝説に謡われる魔物だった。



  ※   ※   ※ 

ユニコーン-バイコーンー三角鬼馬ミツコーンです。

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[一言] ラテン語なのでユニ、バイ、と来ればトリでは?
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