閑話 ~漏れる想い~
「……」
「……」
黙りこくり俯くルゥナに、他の仲間も言葉がない。
慰めの言葉も言い訳も出てこない。
「そのぅ……悪気はなかったんじゃぞ」
いつまでも黙っていても仕方がないと思ったのか、メメトハが息を吐いた。
「あれだけ泣いておれば心配になっても仕方ないじゃろ」
言う通りだけれど。
バツが悪い。
泣き喚いたルゥナがようやく落ち着いた頃に、水音が響いた。
こっそりと離れようとしたエシュメノが水溜まりに足を突っ込んで。
見れば、アヴィにエシュメノとネネラン、トワとメメトハが近くの茂みに隠れていた。
泣きじゃくっていたルゥナの声を聞きつけて、何かあったのかと。
心配されたのは仕方がないけれど。
「うぅ……」
恥ずかしい。
冷静になってみて、子供のように泣いたのを見られたと知れば恥ずかしい。
「だ、大丈夫だぞ」
エシュメノが元気づけようと拳を握った。
「言わないから。エシュメノは、ルゥナがぴいぴい泣いておもらししてたなんて誰にも言わない」
「してません!」
余計な恥まで追加されていた。
「だって」
「泣いていたのはともかくおもらしなんてしてません!」
エシュメノに詰め寄る。
「そ、そうなのか?」
「当り前でしょう」
エシュメノの視線が左右に逃げた。
ルゥナも、他の面々に視線を走らせながら強く否定する。
「するわけがないじゃないですか」
「えっ?」
彼女にとっては、小さな呟きだったのかもしれないが。
トワの疑問符は妙にはっきりと響き、皆の視線を集める。
「……トワ」
つい、冷たい声が漏れた。おもらしではない。
「あ、いえ……あの……」
トワの目が逃げ回り、ルゥナに戻ってから済まなそうに下に向かった。
「その……私は、気にしていませんから」
「トワ!?」
いつだったのだろうか。そういえばトワには何か、そんな姿を見せてしまったことがあったような。
ルゥナの頭にも記憶が過ぎり、赤く染まった頬が事実を知らない仲間たちにも伝えてしまう。
「ばかっ! もう、ばか!」
「だって仕方ないじゃないですか!」
思わず罵声をあげてしまったルゥナに、トワも強く訴える。
「私には素敵な思い出なんですから! 忘れられるはずがありません!」
「ほんとにバカじゃないですか! 何を言っているんですか!」
牙を剥いて詰め寄るルゥナにトワも退かない。
「すごく可愛かったんですから!」
「このおばか!」
さすがに手は上げないけれど、この口を塞ぎたい。
「ま、まあ落ち着くのじゃルゥナ」
「そうじゃ、ウチもおんしのそういうんは可愛いと思うけぇ」
まるで慰めにもならないことを言うメメトハとウヤルカにも強い視線を向けて、それから顔を覆う。
恥ずかしい。
「エシュメノはおもらししないぞ」
「いいえ、エシュメノ様もおねしょしていましたよ。ネネラン的にはご褒美でしたけど」
「あれ?」
なんの慰めにもならない。
顔を覆うルゥナの頭に、そっと手が乗せられた。
この手は、アヴィの手だ。間違えない。
「いいのよ」
何がいいと言うのか。
「ルゥナは、ルゥナらしくて」
「アヴィ……」
ウヤルカに慰められて泣いていたことに対してなのか、今のおもらしの話なのか。
いまいち判断がつかないけれど。
「……」
思わず言ってしまいそうで、顔を覆った手で口を塞いだ。
アヴィ、貴女だって……と。
※ ※ ※