プロローグ:終わりの幕開け
完結済み『ゲル状生物に生まれ、這いずり泥を啜って生きた物語』の関連作になります。
そちらを未読でもご理解いただけるようにしますが、読んでいただけるとより物語を楽しんでいただけるかと思います。
イラスト:いなり様 データサイズ220kB
桃色の舌が絡まる。
熱くて柔らかくて、私を溶かしてしまいそうな甘いキス。
「ん、はぅ」
離れていくそれを感じて、両手で白い肩を掴まえて、引き寄せた。
「……?」
不思議そうに、彼女の瞳が私を覗き込む。
深い赤色の瞳。
濃い血色の宝石のような瞳が、暗がりの中でも私を映す。
「ルゥナ?」
「……」
彼女の声に答えず、もう一度唇を押し当てた。
「んっ……」
無理やりな形で押し込まれた私の想いを、彼女は受け入れてくれた。
そのまま、もう一度お互いの存在を確かめるように熱を与え合う。
「……ん、ふぁ……どうしたの、ルゥナ?」
私の行動を訝しむ彼女を、今度は胸の中に抱きしめた。
いつものことだ。
彼女は大体いつも私の胸に抱かれて眠る。
普段は冷たい雰囲気を作っていても、眠るときは私の胸の中で。
「……いいえ、アヴィ」
甘えん坊なので。彼女は。
今でも、母に抱かれて眠ることを望んでいる。
それが適わないから、代わりに私の温もりで代用しているだけ。
「……今日のこと、怒っているの?」
胸の中で、珍しく彼女が私の心情を慮るような質問をしてきた。
記憶にある限り初めてのことのように思う。まだ長くない付き合いだけれど。
そんな質問が出るということは、彼女自身も少しは気が咎めるところがあったのだろう。
「怒っているわけではありません。アヴィ」
「……そう」
「少し嫉妬しただけです」
ぎゅうっと、少し強く彼女を抱きしめた。
痛いくらいに。
私が大丈夫かと思うほど強く抱きしめても、彼女には――アヴィには特に問題ないだろう。
彼女は強い。他の者がとても及ばないくらいに強い。
こうして全力で抱きしめていても、アヴィがその気になれば簡単に抜け出してしまえるはず。
「……大丈夫よ、ルゥナ」
「……」
初めて会った時から、彼女は私に姉のような言い方をしていた。
ぼろぼろで、泣き叫んで、ひどく打ちのめされた瞳のままで、私を導くようなことを。
「貴女だけ、だから……母さんの子は」
アヴィが私の手を強引に潜り抜けて、私の目の前に瞳を合わせる。
額と額が、鼻と鼻が、触れ合う。
「貴女だけが、特別」
「……嘘です」
本当よ、と言いながら、今度は優しく唇が触れていった。
イラスト:いなり様 データサイズ68kB
※ ※ ※
焼け落ちる家屋。
漂う肉の焦げる臭いと死臭。
泣き叫ぶ声は既に途絶えた。今聞こえるのは死に瀕した者たちが漏らす呻くような怨嗟の音ばかり。
ずるずると、足を掴んで引き摺ってきた人間を一人、呻き声の中にどさりと放る。
広く陥没させた地面の下に、200人に近い数の人間が唸っている。老若男女問わず。
集めてきたまだ息のある人間ども。この先に待つ道は変わらないが。
逃げられてしまった者もいる。
どれだけの力を有していようが、味方の数が少なければ村にいる全ての人間を逃がさず捕えることは難しい。
広範囲での魔法を使えば全滅させることも可能かもしれないが、それでは目的が果たせない。
「……」
二人の少女が、アヴィの左右にいる。
(本当なら、そこは私の……)
アヴィの隣は私の居場所だ。
ルゥナがそう思っていることを、アヴィはどう思うのだろうか。
今浮かべている表情と同じで、何も思わないのかもしれない。
アヴィにとっては、人間を殺すこと以外は何も意味がないようにも思う。
(私のことだって……)
「出来るかしら?」
震える少女たちの背中に声を掛けるアヴィ。
少女たちの首には、まだ生々しい傷が残っていた。
同じような傷跡はルゥナにもある。黒いマフラーに隠れているが、アヴィにもあることを知っている。
命令を強制させる呪いのかかった奴隷の首輪が噛んでいた傷痕。
同じ苦しみを知る少女たち。
他にもいた同族ではなく、年の近い彼女らを選んだのは、やはり境遇を重ねたからだろうか。
ルゥナだけが特別だったこれまでと違い、似たような境遇の同族を手元に。
「でも……子供も、います……」
「そうね」
右の少女、セサーカの言葉に短い返答。
「あ、赤子も……」
「いずれ大きくなる」
左の少女、ミアデに淡々と言った。
人間の子供を生かせば、いずれ大きくなる。そして増える。
「放って置いても死ぬかもしれない。でもそれでは殺したことにならない」
自らの手で殺さなかったというだけ。
それで満足なのか。
「やらないのなら私がやるだけよ」
「私がやります、アヴィ」
「そう」
申し出たルゥナにも、返されたのは冷たく聞こえる声音で。
ちくりと、ルゥナの心に針が刺さる。
私もその子たちと同じなのですか、と。
「それで……出来るかしら?」
並ぶ少女たちは、同時に唾を飲み込んだ。
細かく手が震えている。
これから行われる行為に震えているのか、それとも後ろに立つアヴィに怯えているのか。
(愚かですね)
勘違いをしているのだ。
アヴィが少女たちに無理を強いているのだと。
憎い人間を殺せ。さもなくば――
「あなたたち、聞きなさい」
見ていられなくて口を挟んだ。
「……」
アヴィは何も言わない。
だからルゥナは続けた。アヴィという彼女らにとっては母や姉に等しい存在に怯える少女たちに、苛立ちを伴って。
「出来ないのなら、やらなくていいのです」
「え……?」
「……でも」
恐る恐るというった風にアヴィの顔色を伺う両名に、静かに首を振った。
「アヴィは咎めません。他の清廊族と共に北へ逃げればいい」
勘違いをしている。
強大な力を持ったアヴィが、人間に対する復讐を彼女らに強制しようとしていると勘違いを。
断ったら今度は自分たちが殺される、とでも思っているのだろう。
そうではない。
「機会を与えているだけです。復讐の」
「……」
「出来る者もいる。そうでない者もいる。そんな機会が与えられない者も」
他にも、既に襲った村で救出した同族は三名いた。
彼らとて復讐の機会があればそうしたかっただろう。
力があれば、そうしただろう。
だがそれは与えられなかった。アヴィが選ばなかった。
人間に、長く虐げられてきた清廊族。この大陸の先住民であり、古く魔神と共にこの地で自然と共生する道を選んだ者たち。
旧大陸から侵略してきた人間どもに、清廊族の全てを奪われた。
土地を、財産を、命と尊厳を奪われ、奴隷として家畜のごとき扱いを受けてきた清廊族。
その復讐の先駆けとなったのがアヴィだ。
(いえ……その復讐ではないかもしれませんが)
根底にある人間に対する無尽蔵の殺意は、種族がどうとかではなくて、彼女のもっと私的な部分から来ているのだろうけれど。
どちらにしても、清廊族として類稀な力を持つアヴィが、人間どもに対する反抗作戦の狼煙となりつつあるのは間違いがない。
「貴女達には、機会が与えられただけです」
「……」
「人間どもに……憎い人間どもを殺して、清廊族の未来を取り戻す。貴女の尊厳を取り戻す。その為の機会が」
アヴィとルゥナだけでも良かったのだけれど。
ルゥナにとってはそれで良かったけれど。
やはり二対の手だけでは、取りこぼす。
全ての人間を殺すには手が足りない。
指の隙間から零れ落ちるように、逃してしまうのだ。
だから、手を増やそうということになった。
いくらかの候補の中から、アヴィやルゥナと年頃が近い、似た境遇の少女を選んだのは――
(……アヴィは、私だけでは不満なのかもしれません)
清廊族の男を選ばなかった理由は想像がつく。
嫌悪感が拭いきれない。
人間の男どもの奴隷として過ごした時期があるアヴィにも、ルゥナにも。男という生き物に対しての忌避感がある。
つい先ほども、アヴィとルゥナの襲撃を受けた人間の男どもの目には獣欲の火が灯っていた。
命知らずに村を襲った美しい清廊族の女。それをどうしようかと。
後悔したことだろう。股間と腹を切り裂いて苦しみながら死ぬように処理したのだから。
もっと苦しめたい。
人間どもに、生まれてきたことを後悔させるほどの苦痛と絶望を。
時間があればそうする。
その為には、やはりルゥナ達だけではどうしても手が足りない。
戦力が必要だ。
復讐を為す為にも、アヴィの身を守る為にもなる。
盾となる駒も必要だと。どれだけの力を有していても、生き物には違いないのだから。
「人間の数は多く、その性質は残虐で醜い欲望の為にどんなことでもします」
「……」
「貴女達は、それを身に染みて知っているのではないのですか?」
少女達に問いかける。
震える、長くうねる髪のセサーカと、短めの真っ直ぐな髪のミアデに。
「人間どもが、貴女に何をしましたか?」
震えが止まった。
少女たちの体が強張り、力が入る。
「貴女の家族や友が、どんな目に遭いましたか?」
「……」
「人間がいる限り、同じことが繰り返されます」
「……」
ルゥナの言葉に、少女たちが唇を噛み締める。
思い出す。思い出したくない記憶を呼び起こした。
苦痛と屈辱と絶望と、汚泥に塗れた日々を。
近しい者がどうされたのか、考える。
「人間がいる限り、清廊族の誰もが同じことを……同じ絶望を味わうことになります」
「同じ……」
「こと、を……」
少女たちの手が握り締められる。
強く握りしめ、震える。
先ほどまでの震えとは違う種類の。
「でも……」
セサーカが見つめる。アヴィの顔を。
美しい彫像のようなアヴィを見つめて、まるで神にでも縋るように。
「力が……ない」
ミアデが、俯きながら涙を零す。
その通りだ。力がないから踏みにじられてきた。
人間どもの、一部の暴力的な力を有した者や、圧倒的な数の力の前に蹂躙されてきた。
そのことも彼女らはよくわかっている。
アヴィも、ルゥナも、身に染みてわかっている。
力が必要なのだと。
人間の力は、まずはその数だ。
清廊族と比べて彼らの寿命は三分の一ほどだが、その成長は三倍ほど早く、繁殖力も高い。
また、神話の時代に受けたとされる女神の恩寵により、世界中に生息する魔物、モンスターと言われる人間以外の生物を殺すことで、その力を得ることが出来る。
魔物が持つ魂のエネルギーは、死ぬ際に心臓の辺りで結晶化する。
その際に少しだけ、無色のエネルギーと呼ばれる漏れ出したものが、殺した者に宿る。
これは、人間と祖を同じとしながら女神に従わなかった清廊族も同じく、その無色のエネルギーを得ることが可能だった。
それについても、人間と清廊族との差が三倍ほど。
人間が300匹ほどの魔物を殺すとその一匹分と同等の力を得ると言われるのに対して、清廊族は千匹でそれと同等程度。
女神に従わず、魔物や自然と協調して生きることを選んだ清廊族は、女神の恩寵が薄れた。
魔神の恩寵により、長い寿命と寒冷地での生活を可能としたことの引き換えとなっている。
人間同士の殺し合いでは、無色のエネルギーは発生しない。
結晶化するエネルギーもなく、もちろん魔石と呼ばれるエネルギー結晶も得られない。
これについては、恩寵が薄れたとはいえ清廊族も人間と祖が同じとする為、人間同士の殺し合いと同じ扱いとなっているが。
「力を、あげるわ」
人間に比べて長寿ではあっても非力な種族。
その清廊族の年若い女性であるアヴィが何をしたのか。
この村を襲い、目に付いた人間を片っ端から殺していったことを、少女たちは目にしていた。
自分たちを使役していた商人も、その護衛の冒険者どもも、まとめて殺されていたのだから。
一部、まだ呻き声を上げながら積み上げられている人間どもの中に、その同行者もいるようだが。
「っ!?」
俯いていたミアデの頬を、アヴィの両手が包んだ。
「え、んっ、むぅ……」
有無を言わせず、その唇に桜色の唇を押し当てて、恩寵を授ける。
アヴィが母から受け継いだ恩寵を、力がないと嘆く少女に。
「……」
ルゥナは、目を逸らした。
わかっていたことだとはいえ、あまり見たくない。
自分の心が波立つのを感じて初めて、自分の感情を思い知る。
ただの協力関係ではない。アヴィと過ごしたまだ長いとは言えない時間の中で、自分の心がどれだけそれに侵食されていたのか。
(……不愉快に思うだなんて)
アヴィの行動は正しい。
手駒を増やす為にこうするのだとわかっていた。
けれど今までは、あの唇は自分の為だけのものだった。
それを思うと、心が揺れるのを抑えきれない。
ちらりと、硬直しているミアデに口づけをしたまま、アヴィの視線がルゥナに走ったことに気付かない。
口を離したアヴィと、唇を濡らしたミアデ。
そんなものを見たくなくて、ルゥナは目線を下げていたのだから。
「ぅ……はぁ……な、なに、を……?」
「力をあげたのよ」
アヴィの言葉は相変わらず淡々としている。
なのにその声に少しだけ優しさが混じっているように聞こえてしまうのは、ルゥナの妬みからなのだろうか。
「人間を殺す為の力を。力がないから出来ないと、そう言ったでしょう?」
ルゥナが説明しないからか、アヴィが自ら彼女に説明して、その手に刃を握らせる。
人間どもが使っていた包丁を。
「出来るのなら、やりなさい」
窪んだ地面の中に投げ込まれて呻いている人間どもを見やって、やれと言う。
「……最初は、貴女が恨んでいる人間を選んでもいいわ」
そんな優しさをかける必要まではないとルゥナは思うのだが、アヴィのすることは全て正しい。それが正しい。
「あ、あたしが……」
ミアデの視線が一人の人間を捉えた。
そこでまた震える。何かを思い出したように震える。
「そう」
アヴィはちらりと一瞥すると、ふっと跳躍した。
ミアデが視線を向け、そして怯えるように背けた人間の女。
その人間のところまで、まるで羽でもあるのかのように軽やかに、重さなどないかのように静かにその人間の女の前に着地して、その喉を掴む。
「ぶぁっぐ、げ……ぇ……」
喉を掴み、軽々と持ち上げて、呻く人間どもを踏みながら戻ってきた。
「んばぁっ!? ぼぉ、うぇえ……」
喉を潰してから、どさりとそれを投げ捨てる。
潰れた蛙のような声というのはこういうものか。
太った中年の女だ。
着ている服はそれなりに上等な縫製の衣類なので、裕福な立場だったのだろうとわかる。
「喉を潰したわ。放って置いても死ぬ」
淡々と告げながら、アヴィがミアデの背中に回る。
その背中から、抱きしめるように寄り添って、耳元に囁いた。
「貴女が殺すのなら、貴女の力になる。そうでなければ私が殺すだけよ」
優しく、柔らかく。
少女の恐れを包み込むように、肩を抱いて囁く。
その手に握る包丁が、少女の臍の辺りに上がった。
「出来ないのなら、いいのですよ」
つい、口を挟んでしまった。
必要以上に冷たい声音で、まだ迷うミアデを拒絶するように。
仇敵とはいえ、生き物を殺すことに忌避感を抱く気持ちがわからないわけではない。
無理強いするわけではない。
嫌なら去ればいいのだ。清廊族である以上、人間とは敵対するか従属するかしか道はないのだから。
人間のいない北方の極寒地に逃げ延びることも選択肢の一つ。
「……うぅん」
ミアデの心を定めたのは、ルゥナの言葉だったのか、それとも目の前のものか。
かひゅう、ひゅうと息を漏らしながら、ミアデに手を伸ばそうとする人間の女。
それを見下ろすミアデの手の震えは、既になかった。
ルゥナの言葉に、ミアデは小さく、だがはっきりと首を横に振る。
「やる……出来ます」
「そう、ですか」
アヴィがミアデから離れて、もう一人立ち尽くすセサーカの肩に手を置いた。
刃を振り上げるミアデを見守る。
「……貴女には、難しいかもしれない」
そう言葉をかけられたセサーカは、だが真っ直ぐに、瞬きもせずに、ミアデの背中を見つめていた。
目を逸らさない。
「あんたのせいで……毎日……毎日、毎日毎日毎日毎日毎日っ!」
「は、ひぅ……」
「あたしが何をしたって言うのよ! あんたの旦那に滅茶苦茶にされて、あんたに毎日針で刺されて! 生きててごめんなさいって? あたしだって生きていたくなかった! あんな……あんな家畜よりもひどい毎日で、何が生かしてやってるよ! ふざけるな!」
恨み言をぶつける。
奴隷として生きてきた日々の恨みをぶつける。
言われた女は、涙と鼻汁と涎に塗れた顔で、小刻みに顔を振るだけ。
小便も漏れていた。
ミアデの顔も涙でぐちゃぐちゃだ。
長年の恨みを、その手に持った刃に込めて。
「死ねぇ! 死ね! 死んじゃええ!」
アヴィがその手を止めたのは、ミアデの声が枯れ果てる頃になってからだった。
※ ※ ※
魔物を倒すと、その命の中から漏れ出たエネルギーの一部が殺したものの糧となる。
結晶化する魔石とは別に零れる、ほんの僅かな力。
無色のエネルギーと呼ばれていた。
一方で魔物は、食したエネルギーの一部を自らの力とすることが出来る。
人間同士の殺し合いでは、無色のエネルギーは発生しない。
はずだった。
魂のエネルギーが結晶化することもない。
それも、そのはずだった。
ミアデとセサーカが血に塗れた姿で夕陽の中に立ち尽くしている。
消耗しているはずだ。
かなりの体力と精神的な疲労があるはず。
だが彼女らは、そんな自分たちの疲れよりも、深い恨みから湧いてくるような力を実感して、戸惑っているようだった。
白く濁ったような石が、多少は血に汚れているが、大量に積まれている。
命石、とアヴィは呼んでいた。
本来なら人間からは取れないはずの魔石。
アヴィやルゥナが殺した場合には、それが採取できる。
その力を――特異な、先例のないその力を分け与えられたミアデとセサーカも、同じくそうなったようだ。
アヴィの体液によって。
(体液……)
その理由の想像はついている。
アヴィがその力を授かったのは、粘液状の伝説の魔物からだった。
おそらくアヴィの体液にはそれが深く交わり、前代未聞の能力を発現させている。
魔物と同じように、人を狩れば力を得られた。
人が、魔物を狩るのと同じように、とも言える。
魔物が、人間を狩るのと同じように、という言い方も出来る。
神話の時代に魔神は、魔物も含めた全ての命と共生をと願ったという。
人間のみを愛し子に……とした女神と対立した魔神の想いは、今このアヴィに受け継がれているのではないだろうか。
魔神から生まれた最も深い魔物、それに育てられたアヴィ。
彼女こそが魔神の後継者であり、清廊族の希望であり、人間にとっての終わりを告げるもの。
そんな存在であるアヴィは、まるで母親のように、立ち尽くす二人の少女の肩を抱いて何かを囁いていた。
母親のように。
※ ※ ※
イラスト:いなり様 サイズ76kB