Ⅲ
イーブンはクランチチョコを食べながらテレビを眺める。テレビではsunshineの新メンバー、オッドの記者会見が開かれていた。
記者の質問ににこやかに答えるオッドをイーブンはまじまじと見る。
(……なんだかいつもと人が違うみたい)
昨日、このオフィスで話していたオッドと、テレビの中のオッドは別人のように見えた。
(高性能のカメラを使っているからかなあ)
そんなことを思いつつクランチチョコの缶に手を伸ばすと、ドンドンと大きな音で扉を叩かれた。
なんだろうと扉を開けると、イーブンが金を借りた同期が立っていた。どうやらここまで走ってきたようで、はあはあと肩で息をし、頬を紅潮させている。
「あれ?どうしたの。お金はもう返したでしょ?」
イーブンの言葉を遮るように同期が大きな声で言う。
「ちょっと!オッドくんがsunshineの新メンバーでテレビに出ているんだけど!」
イーブンはそれにぽかんとしたあと、「ああ、そうだね」とテレビを指差した。今、テレビにはsunshineの元々のメンバー四人と、オッドが並んで映っていた。
「『そうだね』じゃないでしょ!オッドくん、すごいじゃない!」
そう言って同期はイーブンを押し退けるように室内に入った。
「私も最初聞いたときはびっくりしたよー。夢かと思ったもん」
同期を追ってイーブンはソファに座る。そしてテレビを見た。
今、リーダーのライがオッドについて尋ねられていた。
『新しい仲間も来てくれたことですし、ますますsunshineの活動が活発になること間違いないでしょう。これからよろしくね、オッド』
ライににこやかに言われ、オッドは『よろしくお願いします』と頭を下げた。
「はあ~。本当にライってかっこい……」
目にハートマークをうかべ、蕩けた表情でイーブンはライを見つめる。
「あんたって本当にライ好きだよね」
あきれたような顔をしながら同期が言う。
「だってあんなにかっこいいし、性格もいいし、歌も踊りもうまいんだよ!?惚れるなっていうほうが無理な話だよ~」
べた褒めするイーブンを横目に、同期がクランチチョコを口に放り込みながら
「ふーん。でも、オッドくんも十分かっこいいと思うけど」と言った。
「え~、オッド?ライには全然及ばないよ」
イーブンはそう言いながらも、sunshineのメンバーと並ぶオッドは決して劣ってはいないと思っていた。
「私、全然sunshineなんて興味なかったけど、オッドくんがいるなら応援してみようかなー」
同期の言葉にイーブンは顔を輝かせる。
「ホント!?なら私がオススメのアルバム教えてあげるよ!」
そう言って立ち上がろうとするイーブンを同期がひき止める。
「いいって!私はオッドくんに興味があるんだから!」
そう言う同期に、「えー、そう?」とイーブンがつまらなさそうな顔をした。
「でもすごいわねえ、sunshineのオーディションに合格するなんて。やっぱり私の目に狂いはなかったってわけね」
同期の言葉に「どういうこと?」とイーブンが首をかしげる。
「オッドくんはそれくらいイケメンだって前から思っていたってことよ。あーあ、“あの瞳”さえなければアイドルになる前にアタックしておいたのに」
そうがっかりする同期にイーブンは首をかしげた。
「そんなにかっこいいかなあ?ライには絶対負けてると思うよ?」
「あんたは、ライを基準にして他の男を考えるのをやめなさい!」
そう同期に怒られ、イーブンは釈然としないままクランチチョコの封を開けた。
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