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オッドはぱらぱらと新聞をめくって記事に目を通す。イーブンはというと、暇そうにソファに座り、脱力していた。

(暇……)

そう心の中で呟く。

最近、彼らが追っているギャング『ジャンクファミリー』が活動を休止していた。

彼等による被害が出ていないのはいいことだが(ここまで平和だと逆に暇だ)とイーブンは思いきり伸びをする。

ふとオッドが何をしているのか気になって、イーブンはソファの背もたれに体を沿わせ、のけぞるようにすると後ろにいたオッドの顔を見た。

「ねえ、オッド。何をしているの?」

オッドが顔をあげイーブンを一瞥した後、再び目を新聞に戻す。

「見ての通り新聞を読んでいるんですよ。何か事件が起こっていないかと思って」

オッドの返答に「ふーん」とイーブンが興味なさげに言う。そのままの体勢でいるイーブンに、オッドが

「その体勢、苦しくないんですか?」と尋ねた。

「ううん、苦しい」

そう言ってから弾みをつけて起き上がる。そのまま辺りを見回した。

(私も何かしようかな……)

イーブンの目が棚の上にある可愛らしい缶に止まる。

(そういえば、あれの中に何が入っているんだろ?)

旅行のお土産として同期にもらったものだが、中身はお菓子としか情報がない。

もらった時は他のお菓子が有り余っていたため、見向きもされなかった缶。机の上に置いておいても邪魔だからと、オッドが棚の上に上げたのだ。

(なんだろ?チョコレートかな?クッキーかな?)

美味しそうなチョコレートやクッキーがイーブンの頭の中にほわほわと浮かぶ。するとみるみるうちにお腹がすいてきた。

イーブンは俊敏に立ち上がると棚の前に向かう。そしてお菓子の缶を見上げた。

(……届くかな)

物は試しと爪先立ちをして、手を懸命に伸ばしてみたが、お菓子の缶どころか棚の上部までも手が届かない。

「うっ……」

イーブンは自分の身長の低さを恨んだ。しかし、こればかりはどうしようもない。

辺りを見回し踏み台になるものを探す。しかしそんなものはなく、イーブンは仕方なくオッドの方を振り返った。

オッドはまだ新聞を読んでいた。かなり集中しているようで、イーブンの視線にも気づかない。

なんだか頼むのもしゃくで、イーブンはぴょんぴょん跳び跳ねて缶を引き寄せようとする。けれどそれも無駄な足掻きに終わった。

イーブンの心の中のお菓子を食べたい欲求は、オッドに頼りたくない欲求に勝った。

(仕方ないな)

イーブンは渋々オッドに助けを求めた。

「オッド、あのお菓子をとってくれない?」

オッドは顔をあげ、イーブンとお菓子の缶を見比べる。そして全てを察したようで

「いいですよ」と微笑んだ。

なんだかバカにされた気がしてイーブンはムッとする。それを横目にオッドは棚の前に立つと、容易くお菓子の缶をとった。

それを見てイーブンが面白くなさそうな顔をする。

「あんた、補佐の癖に私より背が高いのが気に入らないのよ」

無茶苦茶な理論にオッドが困り顔を作る。

「そんなことを言われましても……」

それにオッドは特別背が高い訳ではない。イーブンが小さいだけだ。ただ、こんなことを言うと間違いなく怒られるので、触らぬ神に祟りなしとオッドは黙っておいた。

イーブンはお礼を言うとお菓子の缶を受け取った。さて、さっそく食べようとソファの方に体を向けたとき、コンコンと誰かが扉をノックした。

返事をしてイーブンが近寄る前にオッドが扉を開ける。彼は扉の向こうの人と二言三言交わしたあと、礼を言って茶封筒を受け取った。

「?」

妙な行動をイーブンが不思議に思って眺めていると、オッドが封筒の封を切りながら近づいてきた。そして中に入っていた紙を取りだし目を通す。

「なに?それ」

自分の顔を見上げるイーブンに、オッドが笑いかけた。

「……実は私、オーディションに受かって、sunshineのメンバーになることになったんですよ」

それを聞いて一瞬イーブンがぽかんとした。数秒後、驚きと疑いが混じった声が上がる。

「え!?あんたがsunshineに!?」

イーブンが信じられないと言った顔でオッドの顔を見つめる。

「ええ」

「えっ!?そんなの絶対あり得ないでしょ!」

失礼なことを言うイーブンにオッドが紙を見せる。

イーブンはその文面を読んでわなわなと手を震わせた。

「う、うそ……」

確かにそこにはオッドをsunshineに正式なメンバーとして迎え入れる旨が書かれていた。目の前がチカチカする。ドッキリなのかと思ったが周りにカメラはなかった。また、オッドの表情からして本当のようだ。

「あ、あんたいつの間にsunshineのオーディションなんか……!」

尋問するように問われオッドが頬を掻いた。

「実は、この前町を歩いていたら芸能事務所の人に声をかけられたのです。話を聞いてみたところ、なかなか面白そうだったので応募してみたんですよ」

口をあんぐり開けてイーブンはオッドを見つめる。オッドは申し訳なさそうな顔をして続けた。

「ですから、補佐の仕事が毎日は出来なくなるかもしれません。そこのところはご了承を……」

そう言い終わる前に、イーブンがオッドの両手首を勢いよく掴んだ。驚いてオッドがイーブンの顔を伺い見る。

「あ、あの、警部補?どうかしましたか?」

イーブンは下を見ているので表情が読めなかった。しかし、口を真横に結んでいるのだけは分かる。

(許可をとらずに行動してしまったから怒られるかもしれない)と思い、オッドが謝ろうとした次の瞬間、

「オッド!」とイーブンが顔を上げた。

「は、はい」

イーブンは至極真剣な顔をしている。何を言われるかとオッドがごくりと唾を飲み込む。

「……」

イーブンがじっとオッドの顔を見ながら口を開いた。

「ライのサイン、貰ってきて!」

「……はい?」

イーブンの言葉にオッドは目を丸くする。

「『はい?』じゃない!『はい』でしょ!」

「え、あ、はい」

「よし。絶対だからね!」

ぽかんとしているオッドを気にかけずイーブンが続ける。

「補佐の仕事なんてどうでもいいから、しっかりsunshineで頑張りなさいよ!ライの足を引っ張らないよーに!」

まるで母親のような口調で話すイーブンを見て、オッドは杞憂だったとため息をついた。


(C)2019-シュレディンガーのうさぎ

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