第8話ーそのころー
遅くなり申し訳ありません。
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第1章
第8話
ーそのころー
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○語りside○
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○日本国○
○とある建物○
パソコンが乗せられた机の並ぶそこは、ある種の戦場跡であった。
スーツを着た人間達が死んだように倒れている。
ある者は椅子に座ったまま、ある者はソファーで横になり、ある者は机をくっつけてその上で横になっている。中には食事中と思われる状態で頭を机に伏している者すらいた。さらに言えば立ったまま意識を失っている人間すらいる。
ーーーまさに地獄なここは、【異世界情報収集研究課】であり、異世界に転移した日本の異世界情報収集機関の統括部であった。
え?呼び方がおかしい?………気にすんな。
「うっ………」
床に倒れていた中年の男がゆっくりと立ち上がる。
「寝て、たのか?」
男は頭を振るう。
「おーい、生きてる奴は、いるかぁ?」
「ま、まだ死んではませんよ。先輩ぃ」
クマを目の下に溜めた若い男がニヤリと不敵な笑みを浮かべる………しかしその体は小刻みにプルプルと震えており、真っ白な血の気のない顔も相まって、色々と限界が近いことがうかがえる。
「く、クソ。120人もいた職員が俺達2人だけかよ」
先輩と呼ばれた男は、自分の机に座りパソコンのキーボードを打ち始める。そのスピードは寝起きの人間とは思えない速さであった。
「はははっ、徹夜4日目突入の人とは思えない動きですよ?」
「3時間ほど気を失ってたからな」
先輩と呼ばれた男は素早く情報を打ち込んでゆく。
「クソ、上ももう少し人を回せっての」
「仕方ありませんよ。予算も限られてますしねぇ………ああ、ゲームしたい」
「俺ももう1ヶ月くらいはまともに家族の顔見れてねぇよ」
カタカタとキーボードを打つ音が部屋に寂しく響く。
「それにしても男性減少社会か………なんか息子の読んでた小説のネタであったな」
「男女逆転ものとかあべこべとかですかね? まあ、この世界の場合末期的にやばいですが」
「男女比率1対32.5………学校とかで言えば1クラスに1人しかいない計算だぞ?」
「あ、自分田舎出身で1クラス13人だったので3クラスに1人ですね」
「あ、ああ、そうか」
先輩と呼ばれた男がタバコをくわえて、タバコに火をつける。
「ふぅ………国によってはもっと酷いようだな」
「大扶桑帝国から仕入れた情報だと非常事態宣言直前の国もあるらしいですよ?」
「そんな国からしたら日本は宝の山ってか?嫌だぜ俺、日本国民を他国に売り渡すなんて」
「流石にないとは思いますが………確かに、交渉材料としては強いんですよね」
先輩と呼ばれた男から殺気が放たれる。
「おい、冗談でも言うなよ?」
「いえ、奴隷とか人身売買とかじゃなくてですね? 今回みたいに"機会を作る"とかですよ」
「ああ?機会だぁ?」
先輩と呼ばれた男の脳内に?マークが浮かぶ。
「つまり、留学生とかを派遣して男女の出会いを増やすのですよ。婚活ですよ婚活」
「??」
先輩と呼ばれた男の頭の中には?マークが乱舞していた。
「待てよ?それならあれやこれも上手くいくのでは?…………これをこうすればこうなって」
「お、おい、こ、後輩?」
後輩と呼ばれた男の様子がおかしいのにようやく気付いた先輩と呼ばれた男は、声をかけてみるが反応がなくブツブツと呟いてパソコンのキーボードを連打している。
「ひゃーハー‼︎ これだ‼︎ もウ残業回避ニハコレしかネェ‼︎」
後輩と呼ばれた男が走り去っていった。
「あ、おーい………ダメだありゃ、もう壊れてるぁ」
ーーー後に、この後輩と呼ばれた男のアイデアをもとに作られた計画【婚活作戦】というクッソみたいな計画が、軽いノリで始動する事を先輩と呼ばれた男は知る由もなかった。
日本政府上層部がこの世界の男女比を軽く受け止めていたが故にGOがでた計画でもあった。
その結果を政府は直視せざるおえなくなる事を知らずに………。
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○真白家○
○当主執務室○
そこには3人の人間が揃っていた。
「留学生達は寝たかね?」
真白 熱見がソファーに腰掛ける真白 琴美に問う。
「ええ、既に入眠した事を確認したわ。 朝早かったから疲れてたみたいね」
「警備に2名づつ交代で立ててますので安全面も問題ないかと」
琴美の答えに篠暮 哀歌が言葉を付け足す。
「さて、問題は例の加護の件だが………」
「正確な事はまだ"あの場所"で調べないと分かりかねますが………高確率で【ケツァルコアトル】の加護かと」
「豊穣と風を司る神、か」
この世界において、他宗教であっても神の名前を把握している事は珍しい事でない。
熱見の脳内では"この世界の"ケツァルコアトルの情報が呼び起こされていた。
「そういえば、車で帰りにダラ君から聞いたんだけど、彼意外と神話とかに詳しかったみたいでククルカンの事を『もしかしたらケツァルコアトルでは?』って言ってたから詳しく聞いたら日本の元いた世界でも似た神がいたらしいわ」
「ほう、同じ神の信仰があるのか?」
熱見は興味深そうに呟く。
「本人もうる覚えだったけど、ククルカンというのはケツァルコアトルの別名であったそうよ」
「ふむ、なるほどな………別世界のケツァルコアトルの情報は?」
「日本では信仰されてなかったぐらいしか………あ、でも星の名前でケツァルコアトルというのがあるってのは聞いたわ。 それと生贄の儀式を止めようとしたことから【平和の神】ともされていたそうよ」
「………うちの世界のケツァルコアトルとは別物だな」
この世界のケツァルコアトルは大変獰猛で、ククルカンの軍勢を率いて戦いを起こし続けたとされる【戦いと戦乱の神】であった。 しかしその反面、破壊した後に再生をもたらすとされ、豊穣の神としても崇められていた。
今もそのチカラが健在であったなら、大変なことになっていただろう。
「それにしても、神の加護か………男女比が開いていくのと比例して加護を受けるための能力も弱体化しているとかってこの前の新聞に書いてあったな」
「一応他の子達も確認した方がいいかもしれないわね」
「まあそうだろうな。 まったく、日本人にも困ったものだよ」
熱見がため息を吐き出す。
「で、日中言ってた"留学中私の部隊が護衛にあたり、私が指揮する"って命令はどうゆうつもり?」
「簡単な話だ………琴美、彼らはお前の婚約者候補でもあるのだぞ?」
琴美の動きが止まる。
「………は?」
「我々には日本とのつながりが必要だ。 日本人初の国際結婚相手として彼らとお前は選ばれたわけさ。 喜べ、選び放題(4名の中なら)だぞ。」
琴美の顔が一気に赤く染まる。
「はぁっ⁉︎ なにそれ初耳なんだけど⁉︎」
「仕方ないだろう? 下手な平民相手と結婚されても政府が介入できないし、それは下手な貴族でも同様だ」
そう、それは政治的問題であり………要するに、熱見は琴美に対して政略結婚を迫っていた。
しかし、実のことを言えば政略結婚に悪いイメージのあるのは、この世界で言えば男性のみであり、女性からすれば政略結婚だろうと結婚して子供を作れるだけマシなのである。
つまりである。 これは熱見が琴美のために用意した政略結婚であった。
「しかし、じっくりと時間をかけて決めるわけにもいかない」
「………どういうこと?」
モジモジとしながらも、琴美は熱見に問う。
「白銀連合王国に介入されて、向こうから高官の娘達が、日本人達と同時期に留学してくることが決まっている。 流石の私も白銀帝国に婿を渡せとは言えん」
「さすが腹g………歴史古き大国の情報網というべきですかね?」
哀歌がつぶやく。
「日本人留学生達にはここを第2の故郷と思うほどに楽しんでいってもらわねばならない………白銀連合王国の連中に先を越させるな」
熱見の鋭い視線が琴美に刺さった。
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○【黒曜総帥国】○
漆黒の空に、松明から出た煙が、吸い込まれていくように登って行く
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
松明を持つ軍服姿の女兵士達が、右手を天に突き出しながら、ジーク ハイル………勝利万歳と叫ぶ。
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
その数は数万人規模であった。
「………」
そして、その女兵士達の視線の先に、1人のスーツ姿の若い少女がいた。
「………我々は今日まで耐えてきた」
ジーク ハイルの声が止むと、少女は女兵士達に語りかけるように話し始める。
「たった一度の、それも多勢に無勢による敗戦により、我が国は他国による傀儡政府のもとで生きねばならなかった」
それはこの国の歴史であった。
「苦しい生活、報われない労働、対応しない政府、汚職する他国から来た政治家達」
そう、この国は腐り果てていた。警察ですらまともに動くことはなくなっていたーーー今日この日までは。
「ーーー我々は奴らを打ち倒した。 傀儡国家【プロネイアン共和国】は打倒され‼︎ 我々の国‼︎ 黒曜総帥国が今ここに誕生するのだ‼︎ 喝采せよ‼︎ 友達よ‼︎ 同胞達よ‼︎ 我々は圧政から解き放たれるのだ‼︎」
「「「「うぉおおおお‼︎」」」」」
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
「「「「ジーク ハイル‼︎」」」」」
ジーク ハイルの声がその場を支配する。
「ジーク ハイル‼︎」
この日、1つの国が滅亡し、1つの国が誕生した。
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○語りsideEND○
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エンド
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