第4話ー海を越えてー
よろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
第1章
第4話
ー海を越えてー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー?
ーーーて。
ーーーくから。
ーーー元に。
ーーーず。
*********
○大扶桑帝国○
○瀑布空港○
○旅客機内○
「ーーー?ーーーろくん?氷室君」
体を揺さぶられて、意識が目覚める。
「………ダラ?」
「相変わらず寝起き弱いな」
久保竹がニヤニヤと笑みを浮かべている。頭がぼんやりとして考えがまとまらない。寝起きはいつもこれだから困る。
「………着いたのか?」
「みたいだぜっと」
久保竹が立ち上がる。
「ほら、しっかりしろってば」
「………ああ」
久保竹に肩を叩かれ、仕方なく目をこすりつつ俺も立ち上がる。
「近藤君と夕霧君は先行ってるよ」
「……なら、急ごう」
俺と久保竹は荷物を持って外に向かう。
「空港は日本の方が進んでるみたいだね」
「………プロペラ機ばっかりだな」
窓から見える航空機は全てプロペラ式の輸送機のような飛行機であった。
「これなら技術的差で日本が有利になれるか………?」
「………俺達が考える事じゃないだろ」
「ま、投票権もない学生ですからねぇっと」
久保竹が旅客機から階段を使って降りて行く。
「ほら、氷室君も急いで」
「………ああ」
俺はこの日、初めて異世界の地を踏んだ。
ーーー。
「ん?ダラなんか言った?」
「え?急ごうって言ったけど?」
「いや、そうじゃなくて………まあいいか」
俺達は空港の建物に入っていった。
*********
○瀑布空港○
○ターミナル内○
「うぇっ⁉︎」
先に入った久保竹が変な声を上げる。
「………ダラ、早く入れ。邪魔で入れん」
俺はイライラしつつダラに進むよう伝える。
「いや、空港の中が大扶桑帝国の兵隊ばっかりでさ」
「……はぁ?」
久保竹の横から覗くと、確かに建物の中には大扶桑帝国兵と思われる女兵士達がライフル片手に警備していた。
「………警備だろ?」
「まあ、多分そうだろうけど………」
俺達は中へと進む。
「【ボルトアクション式ライフル】か」
「………ボルトアクションがどうした?」
久保竹に問う。
「ほらあれ。全員ボルトアクションの銃ばかりでアサルトライフルの類が全くないだろ?少し気になって」
大扶桑帝国兵の武器を見る………たしかに、自衛隊の銃とは少し違う。何というか、そう、まるで第二次世界大戦中の銃のようだ。
「ボルトアクション式の銃自体が珍しいわけではないけど、それは狩猟とか狙撃銃としてだ。こんな空港警備のためにわざわざ全員にボルトアクション式の銃を持たせるとは思えない」
「………そもそもボルトアクションってなんだ?」
「えっと、撃った弾の排出と次弾装填をボルトを手動で動かして行う銃のこと。アサルトライフルみたいに連射できない銃………って言って分かる?」
「………単発式ってことか?」
「引き金を引くだけじゃ連射できない銃ってことだね」
「何となく分かったような分からんような」
「ま、そんなんでいいと思うよ」
俺と久保竹は先に進む。すると案内の職員が見えてくる。
「えー、それではこれよりバスによる移動を行います。事前に決めてあった番号のバスに乗ってください」
「ーーーだってよダラ」
「んじゃ、行こうか。2人も先に行ってるだろうし」
俺達はバスへ向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆
○語りside○
☆☆☆☆☆☆☆☆
空港の出入り口の外で、大扶桑帝国軍の兵士達が並んでいた。
「きをーつけー‼︎」
軍服姿の女将校の声に、隊列を組んでいる女兵士達が背筋を正す。
「諸君、今日は待ちに待った留学生受け入れ日である」
女将校が大きくはないが透き通る声で話し始める。
「諸君の知っての通り日本国の男女比率はほぼ同じであり、今回の留学生達も半数以上が男子学生だそうだ」
女兵士達に緊張が走る。
「そして見ろ‼︎ このことを嗅ぎつけ、既に出入り口には多数のマスコミおよび近隣住民の皆様が押し寄せている‼︎」
というよりも、既にバリケードに何人もの警備員と作業員が張り付いて侵入を防いでいる状態であった。
「無論というべきか………もしも留学生に何らかの被害があった場合ーーー今後日本人の渡航がなくなる可能性もあり得る」
ざわざわと女兵士達がざわつく。 それも仕方ないだろう。 現状日本との友好関係を築くことは既に国策であった。 もしも、日本に悪い感情を抱かせた場合、下手すれば暗殺という名の粛清の可能性すらあった。
「諸君、気合いを入れろ。 何としてでも日本人留学生達を死守せよ。 己の誇りと生命をかけ、守り抜くのだ‼︎ 大扶桑魂を燃やせ‼︎ 可憐なる男の子を守るは乙女の本懐ぞ‼︎」
「「「はっ‼︎ 大扶桑と乙女の誇りにかけて‼︎」」」
敬礼した女兵士達が動き出す。 全員完全武装であり、会場には2000名もの兵士がいた。
「待ちに待った留学生か………我らにとって吉と出るか凶と出るか」
女将校は空を見上げる。
「日本国………か。 いつか、行ってみたいものだ」
なお、この女将校独身である。
「隊長」
女将校の背後にライフルを背負った女兵士が現れる。
「来たのか?」
「はっ、留学生達が全員飛行機から降りました。 マスコミの皆様も活発に活動を始めています」
報告を受けた女将校は頭の上にクエッションマークを浮かべていた。
「………お前、もっと口調汚くなかったか?」
「いえ? もともとこんなですが?」
「いや、お前から敬語なんて初めて聞いたぞ?」
「別にいいだろ? あたいだって男にモテたいんだよぉおおお‼︎」
「あっ」
走って逃げ出す女兵士。呼び止めようとしたのか、右手を空中に漂わせたまま固まる女将校。
「浮き足立つのは国民だけではないということか」
ふぅと女将校はため息を吐き出し、右手を下ろす。
「さて、出迎えの用意をするか」
*********
○数十分後○
空港から次々と日本人学生達が現れ、異世界の大地に足をつけていく。
「きをーつけー‼︎ れい‼︎」
ざっと一糸乱れず、女将校の声で一列に並んだ兵士達が敬礼する。
「おぉ、すげぇ」
「初めて間近で見た」
「え? 何で軍人?」
学生達が突然の事に驚きながら担当職員(女)に誘導されながらバスへと向かっていく。
「かっこよかったな‼︎」
「でも何で全員女?」
そんな姿を見届けつつ、抜き身の軍刀を顔の前で立てている女将校は顔をそのままに、ほっと安堵の息を心の中でこぼす。
「(今のところは、問題ないか? 機嫌は良さそうだ)」
大扶桑帝国だけでなく、この世界の男性というのは日本人からすればわがままというか傲慢である。 それもそのはずだ。 花よ蝶よと育てられ、欲しいものは与えられ、社会に出ることはなく人生を終える。唯一絶対に強制されるのは人工授精のための協力義務と結婚義務(おまけに国によっては重婚が義務付けられている)だけである。 そんな男達である。与えられるのが当たり前、自分の命令は絶対と考えており、それがわがままで傲慢な性格へとなった。
つまり、女将校的には絶対に留学生達を怒らせるどころか不機嫌にさせるわけにもいかなかった。
「(というか、思ったより反応がいいな)」
この留学を大扶桑帝国上層部が日本政府にねじ込んだのを知っていた女将校はてっきり無理やり連れて来られるものだと思っていた。 帰りたいと暴れるものかと。
しかし、実際には日本政府は文部科学省に相談し、希望者を募り、最低限のラインを越した学生を送り出しただけなためマイナス感情を持つ学生は居なかった。多少男を多めにしたが政府が介入したのはその程度であった。
その結果、プラス感情の方が多く、盛大な出迎えにさらにプラス感情が増えていた。
「(これなら………なんとかなりそうだ)」
女将校はバスに詰め込まれていく留学生達を見送った。
ーーーなお、兵士達に留学生と話す機会は無かった。
*********
○真白家○
真白家はかつて武功を挙げて成り上がった伯爵の地位を持つ立派な貴族の家である。
小さいながらも独自の領土を与えられ、統治している。
そして現当主は軍事大臣を任されている重鎮でもあった。
そんな家で、いつも通りの日常が送られていた。
ーーーはずであった。
「え、うそ」
真白家次女【真白 美琴】は仕事着である軍服姿でコーヒー片手に固まっていた。
「言ってなかったか?ウチは日本人留学生のホストファミリーになったんだぞ。わっはっはっは‼︎」
そう言って真白家現当主にして軍事大臣【真白 熱見】が豪快に笑う。
「「「「よろしくお願いします」」」」
4人の留学生達が頭を下げる。
「え、えええ〜⁉︎」
こうして、真白家の新たな日常が始まろうとしていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
○語りside END○
☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
第1章
第4話
ー海を越えてー
エンド
ーーーーーーーーーーーーーーーーー