第2章第3話
お久しぶりです。
いい作品に出会い創作意欲を刺激されたので、久しぶりの投稿です。
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第2章
第3話
ーとある日本人達ー
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○語りside○
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ーーー近年急速に国内改革を行っている国が存在する。国の名前は【緑陽公国】。公王と呼ばれる王が治める王国であった。
政治改革に軍事改革。そして王権を支える【黒シャツ隊】の設立。緑陽公国はまさに改革中であった。
そして、そんな王国に1人の男がいた。
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○とある部屋の一室○
「ふぅ………」
男はベットの上で、タバコの煙を空中に吹き出す。その格好は裸であり、申し訳ない程度に布団のシーツが下半身を隠していた。
「(これで、隠れ蓑はなんとかなるか?)」
男の名前は【加瀬 息吹】。日本人であり………日本の機密諜報部に在籍している【ブレス】のコードネームを持つ正真正銘のスパイであった。なお、加瀬という名前も諜報部のみで使っている偽名である。
そんな彼がしていたのは現地での恋人作りであった。
彼は必ず現地に恋人を作り、そこを拠点として活動していた。
「(んでもって、ここは俺の天下さ)」
男性が少なく女性が多いこの世界で、女性を口説き落とすのは容易かった。その結果は加瀬の隣で布団をかぶって眠っている若い女性であった。
「(くくっ、思ったより手間取ったがここからだ。この国に親日的組織を作り上げる。それが俺に与えられた命令だ)」
日本はたまに入ってくる情勢に、元の世界と同じ流れを感じていた。それは第二次世界大戦前の欧州情勢である。
緑陽公国と黒曜総帥国が存在する【西圏】は、まさに第二次世界大戦の欧州と同じ道を辿ろうとしていた。
そんな状態を危険視したとある日本諜報機関の上官の命令で、加瀬は緑陽公国に派遣されていた。何かあった時のための諜報拠点を作れと言明を与えられて………。
『ん………【イナバ】?』
『なんだい?』
加瀬は己の偽名【志村 因幡】の名前を呼んだ女性に微笑みかける。なお、何故か緑陽公国の言語はイタリア語とほぼ同じであり、女性と加瀬の会話もイタリア語である。
『ふふっ、何でもない』
『そうかい?』
『そうだよ』
加瀬は女性の頭を撫でる。金色の髪が加瀬の手に絡みつく。女性は気持ち良さげである。
『イナバは何か欲しいものがあるか?あれば私が買ってやるぞ?』
女性は媚びるように問う。
『うーん、家を買おうと思ってるよ?だけどお金はあるんだが場所がね?いい場所を知らないか?』
『家?どうして?』
『いや、どうしてって………ここに長期滞在するからで』
『いや、だから何で買う必要がある?』
『………え?』
加瀬は噛み合わないものを感じる。その瞬間の出来事であった。
ーーーカチャ。
ーーーダダダダ‼︎
「な、何だ⁉︎」
部屋になだれ込んできたのは武装した女兵士達であった。
『な、何だあんたら⁉︎』
兵士達は裸の加瀬に顔を赤くしながらも、銃を向けて警戒していた。
『やめよ』
『はっ‼︎』
女性の声に、兵士達が武器を下げて敬礼する。
『え?ど、どういうこと?』
『こちらを』
『すまないな』
女性は混乱している加瀬を尻目に、女軍人から服を受け取り着替える。スーツ姿になった女性は改めて加瀬に体を向ける。
『イナバ、今日からお前は私のフィアンセだ。そう、この緑陽公国公王【リーゼ・シュタット・リマントⅢ世】のな‼︎』
『こ、公王ッ⁉︎』
思わず加瀬は絶句する。
『私は必ずお前を幸せにしよう。欲しいものはいくらでも用意しよう。お前だけを生涯愛することを誓おう。だから私から片時も離れず、片時も私を想ってくれ』
『あ、ああ………』
あまりの出来事に混乱から立ち直れない加瀬は呆然と返事をする。
『素晴らしい返事だ。ここまで素晴らしい返事を生涯25年の中で聞いたことがないぞ。暗黒大陸の何とかって国を植民地にして以来だ』
『陛下、【アーダル王国】にございます』
『そうそう、なかなか蹴りがつかなくてな………1年半もかかってしまった』
『損害も予定の3倍でしたからね』
『全くだ。おまけに周辺国は非難してくるしな』
呆然としている加瀬を置いてけぼりにし、女軍人の1人と緑陽公国公王リーゼの会話が盛り上がる。
『まあいい。 さて、行こうか私のダーリン♪』
『外に車を待たせております。こちらへどうぞ旦那様』
こうして、諜報員は公王のフィアンセとなった。
「どうしてこうなった⁉︎」
加瀬は頭を抱えることとなる。
『ふむ、そうなると国際結婚ということになるのか?ニホンとの調整が必要か?』
『一応しておいたほうがいいかと』
『ふむ、外交官連中にニホンとの国交樹立を急がせろ』
『はっ‼︎』
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その頃と言うべきか、とある地方で死にかけている人間がいた。
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○シベリーナ地方○
そこは"全てが凍りつく"と言われる土地であった。国家には属しておらず、いくつかの部族が点在する程度であった。
そんな場所に【ゴサック】という民族………いや、民族共同体が存在する。
ゴサックは6つの民族が混ざり合った遊牧民族であり、同時に世界に勇名が響き渡るほどの戦闘民族である。主な収益が傭兵であることからも、戦闘能力の高さは伺えるであろう。
そんなゴサックには1箇所だけ定住地が存在する。【連合王都:ナイサム】である。6つの民族の族長が住むそこだけは10万人規模の街があった。
「どうしてこんなことに………」
そんな街の中心部に、日本人の青年がいた。極寒の中、学生服姿という軽装備であり、凍死の未来が近付いて来ていた。
青年の名前は【佐藤 仁多】。ごく普通の高校生で、留学生でもなく普通に高校に通っていた学生である。
しかし、ここは日本からかなり離れた土地であった。
なぜそんな青年がこんな場所にいるか?それは彼が迷子だからである。
「日本にいたはずなのになぁ」
彼は学校に向かう途中。どこまで続くかわからない穴に落ちた。そして気付けば異国の地にいた。訳がわからなかった。
ーーーこの現象を解説するには、この世界のことから話さなければならない。
この世界では神秘的もののチカラが強い。それは加護というものの存在からも読み取れるであろう。そして同時にそれは悪しきものにも言える。
青年をこのシベリーナに飛ばした(落としたというべきか?)のは、日本で"妖怪"と呼ばれるものであった。
それは名前を持たなかったが、強いチカラを秘めていた。それは名前を欲した。それは名前を得るために、いや名前を名付けさせるために悪行を行うことにした。良くも悪くも人々の恐怖心に縛られる妖怪らしい行動であった。
結果として、その存在によって彼はシベリーナの地に飛ばされたのであった。
「寒い。凍りそうだ………帰りたい」
『+++++?』
「ふぇ?」
寒さで泣き出しそうな青年に、1人のゴサック少女が声をかける。しかし、青年には言葉が分からなかった。
「え、えっと」
『++++++』
少女は己の上着を青年に羽織らせる。
「あ、ありがとうございます」
『+++++?』
「ご、ごめんなさい。言葉が分からなくて………ここはどこですか?日本から来たのですが………」
『ニホン?++++』
手振りで何かを伝えようとする少女だったが、青年には伝わない。
『+++++‼︎』
「うわ⁉︎」
少女は青年の手を掴むとそのまま近くのテントへと連れ込む。
「え?あ、あったかい」
テントの中は暖かく、青年の冷えた体を温める。
『++++』
少女はテントの中にいた高齢の女性に何かを話し、指示していた。
「この子の家なのかな?」
しばらくすると、テントの奥へと連れて行かれる。
「………ゑ?」
そこにあったのはダブルベットであった。枕も2つあった。
「え?ちょっ?」
『++++』
青年は少女にベッドに突き飛ばされる。
『++++』
少女がその上に覆いかぶさる。まるで獲物に牙を突き立てる直前の狼のようだと青年は感じた。
「ちょ、何を?」
『++++』
少女は体を青年に密着させ布団をかぶせる。
「あ………」
青年の冷えきった体が温まっていく。そう、少女は凍死しかけていた青年の体を察し、温めようとしていたのだ。
青年はそのことを確信し、自らを恥じた。
「(ああ、暖かい………)」
青年は目を閉じた。
『………婿、手に入れた』
少女はニヤリと笑みを浮かべた。それは善人の笑みではなかった。
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○語りsideEND○
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エンド
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