第2章第1話
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第2章
第1話
ー白銀からの留学生ー
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突然だが、留学4日目である。
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○教室○
「………zzz」
久保竹が自分の席で夢の世界に旅立っており、周囲の女子生徒達は寝てるのを邪魔しちゃ悪いと言って、遠目に見ている程度だ。
「………」(白目)
近藤は魂が抜けたように真っ白になっている。時折女子生徒に指で突かれても反応しない。どうやら屍のようである。
「うーん」
夕霧がコーヒーの入った魔法瓶片手に呻いている。隣に立つ女子生徒がすごい心配そうにしている。
「(昨日は結局深夜2時までゲームやって、深夜4時くらいまでテンション高くて眠れなかったしな)」
つまり、全員がゲーム疲れである。
ん?俺?俺は1日くらいなら寝なくても平気だからなんともない。ゲームの疲れはあるが、その程度であり、学業に影響はない。
「相変わらず、氷室君は眠らなくても平気だね」
唯一意識のある夕霧が声をかけてくる。
「起きるのは苦手だが、寝ないのは得意なんだよ」
俺は肩をすくめる。
「僕には無理な話だね。朝から頭が痛いよ」
「いつも通りなのは俺と久保竹だけか」
俺は普通に元気だし、久保竹は日本だといつもあんな感じどころか授業中も基本寝てるからな。だから毎回赤点なんだろうなぁ。
「ーーー失礼。日本人留学生の方々でしょうか?」
「「ん?」」
視線を動かすと、白人の女子生徒が3名立っていた。
「初めまして、私は白銀連合王国から留学生として参りました。エレナ・トゥエル・ホウエンと申します。母国では伯爵の地位を賜っております」
代表らしき女子生徒が名乗る。
「同じく、白銀連合王国から参りました【ミカ・リジーナ】と申します」
「【カレア・レバナート】、デス」
ホウエンさんの背後に立っていた女子生徒2人も名乗る。
「ああ、噂はかねがね………と言っても聞いたのは昨日ですが。日本から来ました氷室 緋色です」
「同じく夕霧 翼です。留学生同士仲良くしましょう」
俺達は握手を交わす。
「ええ、是非」
ホウエンさんが微笑む。
「しかし、白銀連合王国は白人国家なのですか?」
「白人………ああ、【白色ヒューマン】のことですね?」
「白色ヒューマン?」
どうやらこの世界では白人のことを白色ヒューマンと言うらしい。ということは、日本人は日系黄色ヒューマンとでも言えばいいのだろうか?
「そうですね、白銀連合王国は白色ヒューマンが大多数を占めていますが、日本人のような黄色ヒューマンの方々や、【暗黒大陸】に多い【黒色ヒューマン】の方々もいらっしゃいますよ?」
「(暗黒大陸………アフリカかよ)」
かつて、地球のアフリカ大陸は、その自然豊かさゆえに暗黒大陸と呼ばれていた歴史がある。
「(つか、本当この世界は地球と似てる部分があるな………何かあるのか?)」
「どうかされましたか?」
「いえ、少し考え事を………」
俺は笑みを向ける。ホウエンさんの顔が赤くなる。
「………はっ!こ、こほん。ところで、提案があるのですが」
咳払いをしたホウエンさんが手紙を差し出してくる。
「『パーティーのお誘い』?」
「ええ、実は大使館の方で大扶桑帝国の貴族の令嬢の方々と友好を深めるためのパーティーを行うのですが、是非ニホン国からということで氷室様達に参加していただけないかと」
「日本からの代表として、ですか? 正直言って日本では我々は普通の学生ですよ?平民と言っていい。そんな我々が国の代表としてなんて………」
あまりに重い話である。正直言って参加したくないのが本音だ。何かやらかしても責任取れないし。
「ご安心を。参加するのは貴族とはいえ学生ばかり。それに皆さん懐の広い方々ばかりですし、事情も理解しておりますわ………それに今見て確信しましたが、ニホン国の男性の方々はとてもお優しくお淑やかですからね。参加される貴族の方々からしても好ましく見られると思いますよ?」
「優しくお淑やか………ですか?」
それは紳士的ということなのだろうか?
「ええ、この世界の男性はとてもプライドが高い方が多いのです。特に私達の国の白色ヒューマンの男性は世界的にもトップランクでプライドが高いと言われておりまして………例えば、先程の提案を私達の国の男性にした場合、俺が国の代表なのは当たり前だ。さっさと連れて行けとおっしゃられるような方々ばかりでして………それと比べればお2人は大変お優しくお淑やかですわ」
「そ、それはなかなかですね……」
というか、そんな奴らと一緒にされたくないんだが⁉︎
「ーーーいいんじゃね?参加してみても」
「近藤?」
復活したらしい近藤がパーティーを勧めてくる。
「(近藤がパーティー参加を勧めてくるなんて、珍しいな)」
近藤は人の集まるところなどが苦手だ。正直パーティーも断れるなら断ると思っていた。
「ダラニキはどう? ダラニキ?」
「ん? 何の話だ?」
久保竹が居眠りから起きて、近藤から話を聞く。
「ふむふむ、俺は参加するべきかと思うぞ?」
「でも大使館だぞ?」
「この際逆にいいんじゃね?大使館で白銀連合王国の話聞こうぜ」
うん、いつもの久保竹である。
「それでは4人とも参加でよろしいでしょうか?」
「それじゃあ、せっかくですし4人とも参加させていただきます」
夕霧が了承する。
「スーツ等はこちらでご用意しますので、当日はそのまま来ていただければ大丈夫です。詳しくは後日詳細をお届けします」
「「「「よろしくお願いします」」」」
白銀連合王国の留学生達が教室を出て行く。それと入れ替えに担任が入ってくる。
「ホームルーム始めるぞ」
出席確認が始まる。
「………よし、全員いるな。あとは………今日は特に連絡事項はないな。あ、氷室君達は放課後に職員室に来てくれ。連絡事項がある」
「「「「はい」」」」
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○放課後○
○職員室○
「男性警護官ですか?」
聞きなれない単語を聞き直す。
「ああ、簡単に言えばボディーガードみたいなものだな」
担任が書類片手に説明してくれる。
「特に氷室君と久保竹君は加護を受けているだろ?加護持ちは身柄を狙われることも少なくない。護衛は必要と判断されたようだ」
担任から書類を渡される。
「担当護衛官のデータだ。どうしても生理的に無理な護衛官だったりしたら変えられるからな」
「至れり尽くせり、ってやつですな」
久保竹が肩をすくめる。
「そういえば、護衛官をつけることになったのは夜間外出をする留学生がいたのがきっかけと聞いているぞ?覚えがありそうだな? なあ、久保竹君」
「ぐふっ⁉︎」
久保竹が勝手に自爆したようだ。
「というわけだから、帰宅後に顔合わせをしておいてくれ」
「「「「分かりました」」」」
俺達はホームステイ先に帰宅した。
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○語りside○
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男性警護官はエリート職である。さらに護衛能力だけでなく、護衛対象を不快にさせない魅力も必要なため、護衛官より将校になる方が早いとまで言われるほどである。
そんな警護官も明確なランク付けがされており、日々激しいランク争いが行われている。
そして、日本人留学生に派遣されたのは警護官の中でもトップレベルの実力を持つエースオブエース達であった。
ーーー確かな実力と経験を持つ美しき護衛官達。
ーーーしかし、そんな彼女達にも緊張の時は存在する。
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○真白家○
「は、はじめまして‼︎ 護衛部隊部隊長を拝命しました‼︎ 【月島 メリア】と申します‼︎」
月島は後ろに並ぶ4人の警護官と共に敬礼する。
「(だ、大丈夫かな? き、拒否されたりとか………)」
警護官との顔合わせは護衛対象による審査と同じであり、どんなに成績が良く実力があってもここで拒否されれば護衛から外されるのだ。
どんな警護官であっても避けて通れず、最も緊張する瞬間であった。
「「「「よろしくお願いします」」」」
護衛対象の留学生達が頭を下げてくる。
「え、あ、はい、よろしくお願い致します」
月島は慌てて頭を下げる。月島は驚いていた。日本人男性の態度に。
この世界の男性は自分が貴重であるという自負と甘やかされ宝物のように手厚く育てられたことにより、その態度は傲慢で、大変プライドが高かった。
実際、月島もその場で回ってワンと鳴けとかいろいろ言われたことがあった。しかし、男性に頭を下げられたのは初めての体験であった。
「この月島‼︎ 全力全開で任務に当たります‼︎」
月島達達の留学生達への好感度は大変上がった。
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○語りsideEND○
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エンド
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