表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

5

「ここ、ミレーヌ修道院は貴族令嬢の再教育の場として存在します」

そう説明するのはシスター・ロザリア。シャープな顔立ちに細い目を覆う銀色の眼鏡。白髪交じりの灰色の髪をした壮年の女性だ。

シスター・ロザリアはずれた眼鏡を戻しながら私を見つめる。

「あなたのようなご年齢の女性が来るのは初めてです。それも四大公爵家の血筋の方など」

「・・・・・」

「ここでは身分など関係ございません。家の権力の及ばぬ場所です。あしからず」

シスター・ロザリアが案内した部屋は二段ベッドと机が一つ置かれただけの手狭な部屋だ。まるで物置のような部屋だが、ここではそれが当たり前なのだろう。さらに二段ベッドということは同室。あり得ない。普通の貴族令嬢ならこの状況だけで発狂しそうだ。

シスター・ロザリアは与えられた部屋を無感情に見つめる私を値踏みするかのように見る。

「一つ言い忘れていましたが、一度入ればすぐに出ることはできません。出ることができないご令嬢が殆どです」

「そうですか」

その方が私にとってはある意味幸せなのかもしれない。あの家に戻るぐらいなら。

「・・・・・」

「何か?」

「いいえ」

視線が気になったのでシスター・ロザリアを見上げたが、彼女はすぐに踵を返した。どうやら部屋に案内し終わったから自分の職務に戻るようだ。

私は部屋に入り、ベッドの上に腰を下ろす。

シーツは薄く、ベッドは硬かった。ここに使用人はおらず、全てを一人でしなければならない。着替えを一人でするのは初めてだけど、ここで着られる服はシスター服だけだし、決して一人で着れないような服ではないだろう。

「何、新入り?」

ドアの外から声が聞こえた。視線を向けるとキャラメル色の少し癖の強い髪を左右に三つ編みでまとめている気の強そうな10代の女性がいた。

「随分と小さいのね。名前は?ああ、ここでは家名は名乗ってはいけない決まりだから、名前だけで良いわよ。私はジュリア」

「ダリアです」

「そう。ダリア。よろしくね」

「はい」

そして私の修道院での生活が始まった。

朝5時に起床。礼拝を行い、廊下や食堂など割り当てられた場所の掃除。因みに同室の子とは運命共同体のようなところがあり、片方が何かすると二人で罰を受けることになるのでお互いを監視するのだ。だから必然的に一緒に行動を共にすることが多くなる。

同室のジュリアは気位が高く、飽き性で面倒くさがり。そして、ミレーヌ修道院に送られた理由が分かるぐらい根性がひん曲がっている。

「あら、ダリア。大丈夫?」

足を引っかけられて転んだ。頭からぞうきんを洗ったバケツの水を被った。

「やっだぁ。くっさぁい」

そう言ってくすくすとジュリアは取り巻き?と私を笑いあっている。彼女は19歳。13歳の時にここへ送られたそうだ。それでもその性根が変わらないなんて。それとも最初は目も当てられないぐらいひん曲がっていたのが、今は人並みに曲がっているぐらいに矯正されたのだろうか。

「ここも一緒に掃除してくださるかしら」

彼女は掃除をしない。自分は貴族令嬢だから使用人のような真似事はしないと言っていた。だから19歳にもなって未だに修道院を出られないのだろう。でも、彼女のような存在に付き合うのは時間の無駄だし、下手にトラブルを起こして評価を下げたくはない。

「・・・・分かりました」

「何よ、生意気な顔ね。親に捨てられたくせに」

自分たちは違うとでも言うのだろうか。


◇◇◇


「あなたは、何も言わないのですね」

掃除を終えた後は朝食、それから作法やダンス、教養などの講義を受け、それらが終わると夕飯までは自由時間だ。みんな思い思いの場所で好きなように過ごしているようだけど、来たばかりの私はお気に入りの場所もないので礼拝堂でボーっとしていた。そこへ、シスター・ロザリアが来た。

「ミス・ジュリアに何を言われても黙って従う」

朝の様子を見ていたようだ。

「ここへ来る者にはね、大まかに分けて二パターンいるのですよ。まずはミス・ジュリアの様に再教育が必要と判断された女性。次に、あなたのように理不尽な理由で家を追い出された者」

「・・・・私のことを調べたんですか?」

シスター・ロザリアは静かに首を左右に振った。

「ここで働いているとね多くの事情を抱えた女性を嫌でも見ることになります。そうしますとね、目が養われていくものなのです。少なくとも私が見た限り、あなた自身に問題があるようには思えませんわ」

その言葉に私は何かを返すことはできなかった。何かをした覚えは確かにない。でも、父にとっては問題のある娘だったのだろう。それとも私が無実だと本当は分かっていて、前妻の娘の私が邪魔だったからここへ放り込んだのかな。嫌だな、どんどん嫌な方向に考えがいく。

「ここはどんなに行いが良くとも少なくとも5年はいなくてはいけません。ここがあなたにとって安らぎの場になることはまずないでしょうが、それでも少しでもそれに近付く様に願っていますわ」

そう言ってシスター・ロザリアは行ってしまった。私は結局、彼女に何も言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
html> 2024/4/11 配信開始 電子書籍のみになります。 イラスト:にふじ レーベル:ミーティアノベルス
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ