15
訳の分からないことになってしまった。
突然、私の従兄だという男が現れた。彼は私に双頭の龍の国章を見せた。公爵家にある本にもあった。それは確かに母の祖国の国章だった。もちろん、複製なんて作れない。作れるとしたら現王のみだ。だから彼がエストレア王家に連なる者だというのは分かった。
彼は私を見て、痛ましそうに顔を顰めた。
「ダリア。遅くなってすまない。君を今からエストレアに連れていく。公爵家の許可はとってはいないけどウッドミル国王の許可は取ってある。だから、君がどうしてもここに残りたいと言わない限りは君を連れていくことができる。どうする?」
あくまでも私の意思を彼は優先するそうだ。私の答えは当然だが決まっている。こんな所に残りたい理由はない。
「連れて行ってください」
私の言葉にカーティス殿下は嬉しそうに笑った。
「体調を崩していると聞いたけど。大丈夫かい?できるだけ体に負担がかからないようにするけど、移動中何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「はい」
「それと私のことはカーティスと呼んでくれ。君と私は従兄妹になるんだから。畏まった言葉遣いも要らない」
その言葉には若干、戸惑う。確かに縁戚にはなるけれど私は公爵家の娘。彼は王族。それに変わりはないからだ。そんな私の戸惑いに気づいたのか彼は優しそうな笑みを浮かべ、そっと私の頬を撫でた。とても温かい手だった。
「私が許可をしているのだから悩む必要はない。君が嫌でなければだけど」
「そういった扱いには慣れていないので、あまり慣れませんが努力します」
「そうか。確かに急には無理だな。分かった。私も君が少しでも早く馴染めるように努力しよう」
とても温かい人だと思った。
「抱き上げるけど、大丈夫かい?」
「はい」
私の体を気遣いながら彼は私を横抱きにした。背中の傷のことを知っているのか、あるいは偶然か。私の体に回された彼の腕は完全に背中の傷を避けていた。
ベッドから出て、見えてしまった。豆が潰れた傷だらけの醜い私の足。彼は私の足を見て行動を止めてしまった。
「申し訳ありません。醜いものを見せました」
「醜くなんかない。君が頑張った証だ。とても、美しいよ。ダリア」
そんなことを言われたのは初めてで、嬉しいやら、恥ずかしいやらで涙が出そうになった。
「ガルーシア」
「はい」
主人の意図を汲んだかのように彼の騎士が名前を呼ばれただけでシーツを持ってきて、私にかけてくれた。足の傷が誰の目にも触れないように隠してくれたのだ。
そして私は彼に抱かれたまま公爵家を出た。後ろでベティとアンドレアが何か喚いていたがカーティスに一睨みされて黙ってしまった。その後はものすごい形相で睨んでいたのが彼の背中越しに見えたけど私にはもう関係がないことだと思って特に気にも留めなかった。