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六話 大事な話

「夕食はまだかな?」


「トーヤ様受付でちゃんと話聞いてました?」


「む、言ってたか?」


 それどころじゃなかったんだよ、主にリノンのせいで!


「僕は聞いてたです。下に行けばいつでも食べれるですよ」


「そうなのか? じゃあ、少し早い気もするが食べに行くか。今日は疲れたしな」


「はいです」


「そうですね。分かりました」


「夕食後、大事な話がある」


「!」


「う……分かりましたです」


 空気が引き締まる。まぁ、言いたかないけど見えている破滅を先延ばしにするのもなぁ。


 こればっかりは仕方ない。




 少し早い時間かと思ったが、食堂はもう賑わっていた。


 アルコールっぽい飲み物もあるな。エールって奴か?


「あそこにするか」


 俺が椅子に腰を下ろすと、二人は流れるように自然な動作で床に正座しようとした。


「いや、まてまてまて。椅子に座れよ。なんで急に遠慮するんだよ」


「いいんですか?」


「許可が出るまでは床だと教えられたです」


「俺といるときは常に対面! いつでもどこでもだ」


「はいです」


「分かりました」


 メケは元気よく、リノンは泰然と椅子へ座る。


「まったく。まさか食事も一緒に食べないとか言い出すんじゃないだろうな?」


「え? 一緒に食べるですか?」


「奴隷の習慣は一旦忘れてくれ。普通に行こう普通に」


 普通が一番。


「トーヤ様は変わってますね」


 少しだけリノンが笑った気がした。


「いらっしゃーい。何にしますか?」


「何がある?」


「メインが肉ならA、魚ならB、エールは別料金だよ」


「じゃあ、俺はAで。二人は?」


「Bです!」


「Aでお願いします」


「はいよー」


 注文を受けるとさっと去って行った。


「メケは魚が好きなのか?」


「なんで分かったですか?」


「魚を見るときに耳がピーンと立ってるんだよ」


「なんですとー」


 バッと頭の耳を抑える。


「クックック……」


「トーヤ様、あまりメケをからかわないでください」


「え? え? トーヤ様は僕をからかったですか?」


「いやぁ、悪い悪い」


「むー」


 膨れた顔が可愛い。癖にならないように気を付けよう。


「はい、お待たせしましたー」


 それぞれの前に料理が置かれる。


「おっさかなー、おっさかなー、ですです」


「それじゃ、いただきます。と」


「なんです? それ」


「ご飯食べるときの簡単なお祈り? かな?」


「いただきます(です)」


 いい子たちだった。




 部屋に戻るとリノンとメケがベッドの上で正座した。少し考えてる様子だったのは、床とどちらが良いのか悩んでいたのだろう。良い傾向だ。


 シィルはまだ帰ってこない。本当に場所分かるんだよな? あいつ。迷子になってたら笑ってやろう。


「大事な話、お願いします」


 お、おう、なんか気合入ってるな。


「はっきり言おう、金がない」


「は?」


「ふぇ?」


「いや、少しはあるんだ。ただ、心もとないというかなんというか……」


 リノンに教えてもらった貨幣の価値は銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨の順で価値が上がりそれぞれ十倍の価値を持つらしい。銅貨一枚で日本円換算百円程度。


 今の所持金は全部で小金貨三枚弱。三十万円近くあると思っても、三人で宿屋暮らしをするとあっという間に消えていくだろう。


「あの、大事な話ってお金のことですか?」


「そうだが?」


「紛らわしい言い方しないでください!」


「えぇ……」


 なんで怒られた?


「トーヤ様ほどの強さがあれば、冒険者登録をして依頼を受けるなりダンジョンへ潜るなりすれば十分稼げるのではないでしょうか?」


「ですです」


「ダンジョン!?」


 あるのかダンジョン。テンション上がってきたー。


「どうして嬉しそうなんですか?」


「そこにダンジョンがあるから」


「?」


「何でもない。ダンジョンは近くにあるのか?」


「当然のことながら、ダンジョンに行くならダンジョン都市へ行かなければなりませんね」


 当然という部分に力を入れてニコニコしている。リノン怖い。色々察してるんだろうなぁ。残念ながら正解にはたどり着けないだろうけど。


「二人はダンジョンに潜ることに問題は無いのか?」


「私たちは奴隷ですから、トーヤ様に従います」


「ますです」


「いや、そういう答えではなく、潜ることに抵抗はないのか? なんなら留守番でも」


「そうですね。私は前に話したと思いますが剣士としての腕を極めたいと思ってますので、建設的なアタックなら大賛成です」


「建設的か」


「はい。無謀に挑戦し命を散らすのは愚か者のする事です」


 分かる。奴隷だからってそういう使い方する奴もいるのかなぁ。


「はいはーい。僕もトーヤ様の役に立つです」


 なんだろう? 凄く癒される。


 はっ。気が付くとメケの頭を撫でていた。恐ろしい子。


「よし、それじゃあ、この街で冒険者登録して準備を整えたらダンジョン都市へ行こう」


「主人登録もお願いしますね。お金はどうしてもかかってしまいますが、その分はなんとか働きますので」


「う、うん」


 やっぱりお金掛かるのかぁ、まぁでも仕方ないな。メケは可愛いし、リノンは大きいし。


「所で、ステータスカードってどこまで情報が載ってるんだ?」


「トーヤ様なら私とメケのカードはいつでも見る権利があります。どうぞ」


 奴隷的なあれか……。


「悪いけど、ちょっと見せてもらうな」


 好奇心に負けた。いや、これは本番前の対策だ。


-------------------------------

名前:リノン

種族:エルフ(奴隷:)

職業:精霊剣士

レベル:14

技能:精霊魔法LV2、剣技LV3

-------------------------------


「名前、種族、職業、レベル、技能。あれ? これだけ? HPとかは?」


「エイチピー? が何を意味するかは分かりませんが、これだけです。あとは冒険者登録をすればランクが追加されます」


「……ふむ」


 全てが数値化されてるわけでは無いのか。なのにレベルはあるのな。


 種族がエルフ(奴隷:)になってる、多分右の空白に主人の名前が入るんだな。


 技能に精霊魔法LV2と剣技LV3がある。どれくらい凄いのか分からないが。あれ? これ俺まずくない? 剣聖とか出ちゃうの?


「この技能とかって隠せるのか?」


「技能の欄だけは自分で隠せます。名前は手続きをすれば、職業は転職をすれば変えることができますね。後は変えられませんし自動更新です」


「なるほど」


「ただ、技能の欄も例えば剣技LV3なのにLV5とか上方の変更はできませんけどね」


 誰かに見られる前に確認して修正しないとまずい事になりそうな予感がビンビンする。


「ちなみにLV3って凄いのか?」


「まだまだ駆け出しです」


「そんなことないのです。LV3は十分凄いのです。リノンは凄いのです」


 これはメケの言葉の方が信用性があるな。リノンは謙遜してそうだ。


「職業は勝手に決まってるのか?」


 ここに剣聖とか出られるともうアウトだ。


「職業は初めてカードに触る時に頭の中に浮かぶのですよ。そこから選ぶのです。僕はスカウトなのです」


 選択式。よーしよーし。いいぞー。


「転職は簡単に出来るのか?」


「簡単に変えられます。頻繁に変える人はあまりいませんが」


「悪影響があるとか?」


「目に見える影響は無いそうです。職業ごとに技能の上がりやすさが違うとか聞いたことがありますが、詳しいところはちょっと」


 おーけーおーけー、このタイプなら問題ない。職業が剣聖のみってことは無いだろう。格闘家があるといいなぁ。


「良くわかったよ。ありがとな」


「トーヤ様ってやっぱり……」


「ん?」


「いえ、何でもありません。いつか話してもらえるよう努力します」


 リノンも色々勘違いしてるんだろうな。訂正しないけど!


「トーヤ様は十六歳の人族です。設定です」


 メケ……。


「よし、今日は疲れたし明日に備えて寝よう」


「はいです」


「分かりました」


 魔石灯というらしい明かりを消すと、一気に部屋が真っ暗になった。


 いつの間にか出ていた月の明かりが窓から差し込んでいる。


 少し硬いベッドに横になると目を閉じた。


 疲れていたからか、すぐに睡魔が……襲ってこねーよ。どうすんだよこれ、眠れねーよ。


 しばらく悶々としていると恐らくメケの寝息が聞こえてきた。


 さらに眠れねーよ。頑張れ俺。毛布で顔まで覆い必死で羊を数えた。


 二百匹くらいで面倒になって数えるのを止めたことだけは覚えていた……。

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