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五話 状況の把握は大切です

「すげー」


 町並みは石畳の大通りを挟んで三角形をした赤い暖色系の屋根の建物が立ち並ぶ。日本と同じ木材建築なのに随分と受ける印象が違うもんだ。中世ヨーロッパ風ってこんな感じだっけ?


 そして辺りには獣人、獣人、エルフ、人、人、あれはドワーフか?


 肌の色、背格好、色々な人種が大通りを行きかっていた。


 あれ? でも、どのエルフもあんまり胸大きくないな。


 リノンの胸を横目で確認する。直視はまずい。目が潰れる。


「?」


 首を傾げるリノン。いや、個性は大事だぞ。大きい事は良いことだ。


「なんか、失礼な事を思われてる気がします」


「気のせいだ」


 むしろ褒めている。リノンの将来は明るい。


「色々見学してくる!」


 そう言い残してシィルは旅立っていった。自由だな。迷子になるなよー。というか、帰ってこれるのかな? 大丈夫か、きっと。あんなんでも一応精霊様らしいし。


 さて、まずは認識のすり合わせをしておくか。


「メケ、あれはなんだ?」


「街灯ですね。もう少し経ったら明かりが灯ると思うです」


 ふむ、中々近代的だ。燃料はきっと油とかじゃないんだろうなぁ。


「あれは?」


「噴水ですね。あそこで水を飲むと怒られるのです」


 そりゃそうだろう。


「あれは?」


「ベンチですね。裸の男の人が寝てるです」


 毛深いな。


「あれは?」


「檻ですね。もう入りたくないです」


 可哀そうに。


「あれは?」


「変態さんですね。パンツ一丁で覆面とマントつけてるです」


 あー、やっぱあれはこっちでも変態なのか。


「よし、分かった。メケありがとう」


 優しく頭を撫でると、しっぽが揺れる。


「えへへー。どういたしましてです」


「いやいや、待って、おかしいですよね? おかしなもの入ってましたよね?」


 リノンが感情をあらわにするとは、やっと心を開いてくれたのか?


「おう、メケ、そうだぞ? 噴水の水は飲んじゃいけない。お腹を壊すかもしれないからな」


「はーい。気を付けるです」


 よしよし。いい子だ。


「そこですか……」


「でも、美味しそうなお魚が泳いでたら食べていいです?」


「魚かー、魚ならいいぞ」


「良くありません!」


 おお、リノン大きな声出せたんだ。


「ひぅっ、ダメなのですか」


 若干涙目のメケ。獣耳もしょんぼりと垂れている。尻尾も心なしか元気がない。


「安心しろ。魚くらい俺がいくらでも買えるように稼いでやる」


 瞳に希望の光が差し込んだ。


「楽しみですー」


「あぁ、楽しみにしとけ」


「はいです」


「よし、そろそろ行くか」


「……」


「リノンどうした? 宿屋探すぞー?」


「分かりました……」


 疲れたような顔をしている。ずっと歩かせたからな。我慢していたのだろう。


「もうすぐ休ませてやるからな」


 リノンの頭も優しくなでた。




 大通りを歩いてると、武器屋が目に留まった。


「ふむ……」


 中に入りざっと見渡す。


 雑多な武器が所狭しと並べられている。もちろん俺の聖剣と比べられるような品質の物は一つとして無い。


 端に置いてあった木剣の中からなるべく聖剣に近い重さの物を選ぶ。素振り用ならこんなものだろう。


「木剣を買うんですか?」


「あぁ、俺は将来剣士になりたいんだ」


「はぁ?」


 信じられない物を見る目で見られた。リノンさん、俺でも傷つくことはあるんだぞ?


「まぁ、まだまだ先の話だけどな」


 遠い未来に思いをはせる。


「だったら、剣で戦ったほうが良いのでは?」


「剣で戦うなんてとんでもない。まずは肉体を鍛え、技を鍛え、精神を鍛えるんだよ」


「いえ、だから、そのためにも剣で……」


「リノン、お前は大事なことを忘れている」


「はい?」


「それは剣に対して失礼だ」


「えぇ……」


 やはりリノンもまだ若い。未熟な腕で振られる剣が可哀そうだ。安物の剣ならまだいい。だが、俺の場合それは聖剣となる。無理だ。耐えられない。


「だからこういう訓練用の木剣で腕を磨くんだよ。いつか剣に認められ、振るう事を許されるように、な」


「そ、そうですか」


 苦笑いという奴だろうか? 唇の端がひくついている。


「おーい、おっちゃん。この木剣を二本くれ」


「あいよ、銀貨一枚だ。小僧くらいの年ならそんくらいの武器で素振りから始めるのが一番だ。背伸びしても良いこたぁねぇからなぁ」


 店主がガハハと笑う。


 お金を払いアイテムボックスへと木剣を仕舞った。


「小僧、収納持ちか? 自慢したくなるのは分かるが、あんま大っぴらに見せびらかすんじゃねーぞ。悪い奴らが寄ってくるからな」


「おー、そうだったのか。ありがとよ」


 女神様はサービスって言ってたけど、割とレアな能力のようだな。気を付けよう。


「さぁ、今度こそ宿屋行くぞ」




 宿屋はすぐに見つかった。


「お部屋の方はどうなさいますか?」


 恰幅のいい受付の女性に尋ねられる。


 お金に余裕はないが、まだなんとかなりそうだ。


「二部屋で……」


「一部屋でお願いします!」


 おう、リノンに食い気味に訂正された。


 マジでか……。


「ダブルとツインどちらになさいますか?」


「ダブルで……」


 リノンの口を塞ぐ。


「まてまてまて、せめてツインにしてくれ」


 どういうつもりだ? ダブルで一緒に寝たら大変なことになるぞ? 主に俺が。


 何を考えてるんだリノン。メケはポヤポヤしたままだし。胃が痛い。


 リノンは不服そうな眼をしたが、さっさと金を払って鍵を受け取る。


「ほら、行くぞ」


 さっさと一人で歩き出す。後ろからは諦めたのか二人が付いてきている気配がした。


 振り向かなかったのは怒っているからではない。なんというか、照れ臭かったからだ。いえ、正直いっぱいいっぱいです。異性と同じ部屋で寝るとかどうしたらいいの? 誰か教えて。




「どういうつもりだ? リノン」


 部屋に入って最初に聞いたことはそれだった。


「いえ、私たちは床で寝れますので」


 あ、そっちか。ダブルの場合一緒に寝るのかと思ったわ。おう、勘違い恥ずかしい。


「……ごほん。二人はそっちのベッドで寝ろ」


 俺だけベッドで二人が木製の床とか耐えられん。主に俺の精神が。


 いや、そもそも同じ部屋というのもハードルが高すぎるのだが……。寝れるのか? 俺。


「ふかふかのベッドなのです。ありがとうなのです」


「ありがとうございます」


 メケはベッドへダイブ。リノンはちょこんと腰かけた。


「改めてだが二人のことを教えてもらっていいか? 一緒に行動して分かったと思うが、俺は少しこの辺の常識に疎い。出来るだけ詳しくしてくれると助かる」


「少し?」


 リノンが首を傾げる。スルーだ。スルー。


「はいはーい、メケからなのです」


「おう」


 メケはいい子だ。


「僕は十三歳の青狼族なのです。家族に戦闘奴隷として売られてしまったですよ」


 おぅ、ヘビーだ。


「ん? 戦闘奴隷?」


「ですです。青狼族は耳と鼻がいいのでダンジョンでは重宝する、と言ってたのです」


 おー、ダンジョンとかある世界なのか。楽しそうだな。


「青狼族は身体能力も優秀で斥候役として真価を発揮すると言われているわ」


 なるほど。


「私は十七歳のエルフです。精霊剣士として家出……旅をしていたのだけれど、罠にはめられて奴隷にされたわ」


 家出かー。隠せてないし! 絶対突っ込まないぞ。


「精霊剣士ってのは? シィルみたいなのを使うのか?」


「簡単な精霊魔法の使える剣士のことです。精霊魔法は本当に簡単なことしかできませんから期待しないで下さい。音を消したり、水を出したり、火をつけたり、その程度ですね。精霊様に祈るので精霊魔法と言われてますが、実際に精霊様が見えてるわけでは無いです」


「攻撃的な魔法は使えないのか?」


「風属性なら使えますが、私はそれよりも剣士としての腕を極めたいのです」


 剣士仲間発見。だから武器屋で反応が少しおかしかったのか。


「剣士な。実戦は当分無理だがアドバイス位ならしてやるぞ」


「……ありがとうございます」


 あれ? 反応が薄いな。というか、何言ってんだこいつ的な雰囲気を感じる。失礼な、こう見えてそこそこ剣も使えるんだぞ。剣聖だし。


「俺は十六歳の人族だ。山奥で育ったもんで色々知らないことが多い。当たり前のことを聞くかもしれないが、フォローを頼む」


「十六歳の人族……」


「ん? どうしたリノン? そうは見えなかったか?」


「いえ、盗賊を倒したときの動きや技から何かもっと違う種族かと思ってました。シィル様のこともありますし……」


「僕もです」


「いや、普通の人族のはずだ」


「そう……ですか」


 今一納得がいってないようだった。


「分かりました。そういうことにしておきましょう」


 いや、それ絶対信じてないよね? 子供の嘘をはいはい、そうですねーって慰めるアレだよね?


「信じられないかもしれないが、本当のことなんだ」


 真実はいつも残酷な物なのさ。


「あ、はい、それでいいんじゃないでしょうか?」


 くそう、優しそうな笑顔に腹が立つ。


「僕も覚えましたです。トーヤ様は十六歳の人族。そういう設定ですね」


「設定とか言うな」


「大丈夫ですトーヤ様。私とメケはトーヤ様のことを信じてますよ。……今回だけですよ?」


 イラッ。


 何という事だ、この世界に神はいないのか。


 この後どんなに必死に説明しても、分かってますからと優しそうな笑顔が返ってくるだけだった。

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