表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

十七話 旅立ち

 ――翌日。


 俺は治療院を訪れた。メケとリノンには旅の準備をしてもらっている。


 随分と立派な治療院で中はかなり広い。


「すいませーん」


 受付で部屋を聞くことにした。


「はい、どうされました?」


 受付の白衣のお姉さんが笑顔を浮かべる。どうしてこういう場所の受付は高確率で美人なのだろうか?


「お見舞いに来たんですが、部屋が分からなくて。ギダンって名前なんですが」


「あ、はい。ギダンさんですね。どこが悪い方なんですか?」


「頭がかなり悪いんですが……」


「頭ですね。ちょっとお待ち下さい」


 カルテを探してくれる。


 いったん上から下まで見てもう一度下から上まで見ていく。


「……んー。患部が頭で入院されてる方の中にギダンさんって方はいらっしゃいませんね」


「あ、患部は足です」


「え?」


「ん?」


「……あ、ちょっと待ってくださいね」


「はい、お願いします」


 お姉さんはもう一度カルテを探し始める。


 心なしか耳が赤い。そして若干震えてるようにも見える。何かあったのだろうか?


「分かりました。二階の三号室です」


「ありがとうございました」


 礼を言って二階へと急いだ。




 扉を開くと六人部屋だった。窓際の端にデカいシルエットが見えたので迷わなくて済む。個性的っていいよな。


「おう、生きてるかー?」


 ベッドに収まりきらないほどの巨体がしょんぼりと横になっていた。


「なんだトーヤか」


「なんだとは酷いな、命の恩人に向かって」


「ああ、助かったよ。ありがとな」


 ギダンはボリボリと音が出そうな勢いで頭をかく。


「どうやらお見舞いは要らなかったようだな?」


「へっ。本当は必要ねぇっつったんだけどよ、念のため見てもらえってザガンに押し込まれたんだよ。こんなところで寝てるより酒でも飲んでたほうが早く治らぁな」


「お前の場合はそうかもなぁ」


「で、どうしたんだい? まさか本当に見舞いだけってこたぁねぇだろ?」


「ひでぇな。これでも目的の半分以上は見舞いだよ」


「分かった分かった。残り半分は?」


 さっさと話せと先を促す。


「実は迷宮都市に行くことになってな。別れの挨拶と、一応情報収集しておこうと思ってな」


「迷宮都市か。俺も昔は憧れたなぁ。悪いけど俺は行ったことが無くてな。あそこには迷賊がいるから他の人間にも気をつけろってアドバイス位だな」


「迷賊?」


「迷宮の中の盗賊だ。やるこた変わんねぇ」


「なるほど。ま、元気そうでよかったよ。顔も見せずに出発したら何か言われそうだったからな」


「そりゃ違いねぇ」


 そしてギダンはガハハと笑った後、真顔になって続けた。


「今回は本当に助かった。ありがとよ。気をつけて行ってこい」


「ああ、あんたも体に気をつけろよ。じゃあな」


 軽く手を上げて病室を後にする。


「シィル。どうだった?」


「ん、大丈夫よ。また動くように再生の魔法掛けといたから」


「ありがとな……」


 もう二度と兄貴の片足が動かない。そう言って泣いていたザガンには悪いけどもう一度泣いて貰うことにした。




 その後ギルドに顔を出してアビスベアーの代金を受け取る。


 金貨約三枚と中々の収入となった。


「カーサさん、明日から迷宮都市へ向かうつもりなんですが、何か手続きとか要りますか?」


「いいえ、特に手続きは必要ありません、ステータスカードさえあればどこの冒険者ギルドでも受付できますので。お金も預けたままで大丈夫ですよ。向こうでも引き落とせます」


「なるほど」


「逆に冒険に出るときは現金をなるべく減らすために預ける方の方が多いですね」


「ありがとう」


「寂しくなりますね。ザガンさんにはもう?」


「ああ、大丈夫だ」


 ザガンの姿は見えなかった。昨夜に挨拶は済ませてあるのでいいが、あいつ飲んだくれてないだろうな?


 まぁ、いいか。


「それじゃ、また機会があったらよろしくな」


「はい、お気をつけて」


 カーサさんの綺麗な一礼に片手で答えた。


「さてさて、適当に料理買ってきますかねー」


 メケとリノンを探しながら屋台で食事をガンガン購入しながら収納していく。


 シィルに居場所を聞けば簡単だが、たまには一人で散策を楽しむのも良い。




 結局待ち合わせの時間まで二人を見つけることは無かった。


「トーヤ様。待ってたです」


 目をキラッキラとさせたメケが待ちきれないとばかりに手を引く。


「メケ、剣は逃げませんから」


 リノンが窘めるが耳に届いていないようだ。


 手を引かれたまま武器屋の中へと入る。


 今日こそは自分の剣が手に入ると大張り切りのメケ。


「メケはどんな剣が欲しいんだ?」


「トーヤ様の選んだ剣がいいです」


 そしてニコニコと笑顔を浮かべる。


「片手剣とか両手剣とか片刃とか両刃とか――」


「トーヤ様の選んだ剣がいいです」


 そしてやっぱりニコニコと笑顔を浮かべる。


 うん、これは参考にならん。


 リノンに救援を求める視線を送る。


「……」


 ポーっと片手剣を見つめていてこちらに気が付かない。いつの間に……。


「よし、それじゃ、少しだけ一人で見て――」


「ダメです」


 笑顔で否定された。


「分かった、分かったよ」


 これはもう無理だな……。


 手近な片手剣に手を伸ばすと、メケの目が輝いた。


 置くと曇る。


 今度は両手剣に手を伸ばすと、やはりメケの目が輝いた。


 そしてやっぱり置くと曇る。


 さ、参考にならん……。


 仕方ない、ここは完全に俺の趣味で行こう。


「……これだな」


 商品だなから片手半剣を掴む。実はメケは割と力持ちなので片手剣は少し勿体無い。両手剣は体重的に振り回せそうなのでこの辺が良さそうだ。


「これですか」


 手渡し握りを確認させる。うん、重すぎるという事もないようだ。


 そしてなるべく同じ重さと長さの木剣も選ぶ。少し太くなってしまうが、練習用ならこれだろう。


 それからリノン用の木剣を一本選ぶ。


 メケだけってのも悪いからな。


「店主。これとこれをくれ」


 リノンが見つめていた片手剣をひょいと持ち上げ、一緒にカウンターへと運ぶ。反論は受け付けない。


「トーヤ様……」


「この二本なら合わせて金貨三枚でいいぞ。木剣はおまけだ」


「あぁ、ありがとう」


 店主に金貨三枚を渡し、メケとリノンに買ったばかりの剣を渡した。木剣はアイテムボックスの中へ。


「ありがとうなのです」


「あの……大事にします」


「おう」




 その後、軽く木剣で素振りをし早めに切り上げて明日に備えた。


 だというのに、リノンがなかなか寝かせてくれなかったのは誤算だった。


 さぁ、明日には迷宮都市へ出発だ。

この話で一章が終了となります。

二章の構想もあったのですが、ここで一先ず終了となります

私自身は非常に楽しく書くことが出来ましたので、皆様にも少しでも楽しんでいただけてたら幸いです。

お付き合いありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ