十三話 報告と報酬
街に入ってすぐ、負傷した仲間を治療院に連れていきたいとのことでドイル以外と別れた。
治療院とかあるのね。覚えとこ。
ドイルは報告とお礼のために一緒にギルドに来るらしい。
正直お礼とかどうでもいいんだけど、言わないほうが良いんだろうなぁ。それよりアビスベアーがいくらで売れるかが気になる。
「だから何度も言ってるだろう。そんなはした金じゃその依頼は無理なんだよ。諦めて帰んな」
ザガンの声がして、遅れて子供が涙目で飛び出してきた。
リノン達が最初に着ていた物と同じくらいの粗末な服だ。しかも汚れている。
短めの銀髪の子供で、生意気そうな眼がうるんでいた。
「うっ」
ドンと俺にぶつかると、睨むようにこちらを見ると走り去っていった。コケるなよー。
「なんだったんだ?」
「失礼な子供です」
「まったくですね」
まぁ、何があったのか聞いてみよう。
「よう、ザガン」
ちょうど事情を知ってそうな奴が窓口にいたので声を掛けた。
「おう、トーヤか、無事戻ったか」
「今のは何だったんだ?」
「あぁ、今のガキか。孤児院のガキなんだがよ、どうしても欲しいものがあるって依頼を出すんだが、ただでさえ難しい依頼なのに依頼料が少なくてな。その金額じゃ無理だと何度か説明をしてるんだが何とかしてくれの一点張りでなぁ」
「なるほど。相場を無視してるって事か」
「それもあるが、時期が悪くてなぁ。それさえなけりゃあ何とでもなるんだがなぁ。どうだい? カーサちゃん?」
受付にいたカーサさんへと話を振った。
「ちゃんは止めてくださいと何度も言ってるはずですが」
「つれないねぇ」
ザガンはやれやれと首を振る。
「ザガンさんから頂いたお金も依頼料に加えて当たってますが、今のところ上位のパーティーが出払ってますので……」
「だよなぁ。まぁ、こんな感じなんだよ」
ザガンがお手上げだと片手をあげて見せる。追い出しといて自腹切ってまで探してるのか。やっぱこいつ超良い奴じゃね?
「ザ、ザガンさん」
今まで横で話を聞いていたドイルがそんなことよりと前に出た。
「おう、ドイルじゃねーか、どうした?」
「実は森の浅い場所でアビスベアーが出たんだ」
「なにぃ、アビスベアーだって?」
ザガンのでかい声で注目が集まる。
「デムとアンがやられちまって、今ザジとメアリーが治療院へ連れて行ってる」
「そうか、しかし浅い場所にアビスベアーが出たとなると問題だな。いや、よく無事で戻った」
ガハハと笑いながらバンバンとドイルの肩を叩くザガン。あ、ちょっと痛そう。
「間一髪の所だったんだが、こちらのトーヤさんが助けに入ってくれたおかげで助かったんだ」
どう見ても年上の人にさん付けされるとなんか抵抗あるなぁ。メケとリノンはなんか頷いてるけど。
「そうか、トーヤがドイル達を助けてくれたか。いやぁ、そうか。俺からも礼を言わしてくれ」
「いやいや、たまたまだよ」
「あ、カーサさん、これで引き出しを……」
ドイルがカーサさんにステータスカードを渡す。おお、ギルドって銀行機能もあるのか。すげぇな。
「それにしてもアビスベアーか、しばらく森は出入り禁止にしねぇとな」
「大丈夫だ。アビスベアーはすでに倒した」
「は? アビスベアーをか? ほんとか?」
なぜかドイルに聞くザガン。
「あぁ、信じられないかもしれないが俺もこの目で見た」
「マジか。ドイルが言うなら本当なんだろうなぁ。どうやって倒したんだ?」
「あぁ……うん、こう……殴って……か?」
ドイルよ、なぜ自信なさそうに答えるんだ。
「はぁ? アビスベアーと言えば物理的な攻撃はほとんど効かないあれだろ? お前俺を馬鹿にしてんのか?」
ザガンがドイルをねめつける。
「あ、いや、そう、蹴ってた! 蹴りも入ってた!」
「そういう問題じゃねぇ」
「すまん、ザガン。ドイルの言ってることは本当なんだ」
助け舟を出す。
「はぁ? トーヤまで俺を馬鹿にすんのか?」
「いや、ほら、なんというか、あー……あ、そうだ、死体あるわ」
ちょっとメケが魔石取ろうと頑張った跡があるけど。
「アビスベアーの死体だと? どこに?」
「収納してある」
「……トーヤ、お前、収納まで持ってるのか。買取カウンター、じゃ狭いな裏行くか。カーサちゃんロイド呼んでくれ」
ザガンがこっちだと我が物顔で先導したので後に続いた。
ギルドの裏手は屋根だけの解体スペースを挟んで倉庫が並んでいた。
「ここでいいだろ」
真ん中付近のそこそこ広いスペースで出すように合図された。
「ほいほい」
アイテムボックスから取り出す。やっぱでかいな。
ちゃんと合図されてから出したのにザガンは黙り込んでしまった。
「はいはい、ザガンさんなんですか? 大物? って、こりゃ……」
遅れてやってきた金髪の中肉中背のおっさんもアビスベアーの死体が視界に入ると目を剥いて驚いた。
メケとリノンはどこか誇らしげだ。
「こいつは凄いな。四メートル近くあるんじゃないか? それも傷が随分少ない。こんだけの立派な死体は初めて見たな」
おっさんがそのまま検査に入る。
「ドイル。悪かったな、こいつぁほんもんだ。それに外傷もほぼない」
「あぁ……。改めてみるとやっぱ化け物だな。こんなの襲われて生きてたなんて、それだけでめっけもんだ」
「どう? こいつ売れそうか?」
「坊主の獲物か? そりゃあもう任せとけ。儂が綺麗に捌いて金にしてやるよ」
ヒヒヒと笑う。こいつちょっと危ない奴なんじゃねぇか?
「ロイドに任せときゃ間違いねーよ。いやぁ、トーヤ、それにしてもお前、流石俺に勝っただけのことはあるな。こんな大型のアビスベアーをやっちまうなんてな」
「入り用だったから助かったわ。ロイドでいいんだっけ? 頼んだぞ」
握手をした。ニタリとした表情が非常に胡散臭いがギルド関係者っぽいしザガンが言うなら大丈夫なんだろう。
「おう、こいつぁ大仕事だ。今日中にはやっとくからカーサに言って預かり証切ってもらってくれ。ロイド預かりだって言えば分かる」
「あいよ」
「トーヤさん。これ……」
ドイルから小さい袋を渡された。お礼って奴だろう。中身は確認しない。こんなの気持ちだ気持ち。
「あぁ、良かったのに」
これから治療費もかかるだろうしなぁ。ちょっと悪い気もする。
「そういうわけには行かねぇ。俺も治療院に行ってやりたいからここで失礼する。今日は本当に助かった」
「ああ、他のメンバーにもよろしく言っておいてくれ。またな」
「分かった」
それではと一礼してドイルは去って行った。あの男、モテるな……。人当たりの良さを感じた。
「ザガンどうした? 戻るぞ?」
「あ、あぁ……」
ギルドに戻ってカーサさんにロイド預かりになった件を伝えて預かり証を切ってもらう。
「お金になるのは明日かぁ……」
もう財布の中には銀貨数枚分しか残っていない。宿代は朝払って出たからもう一泊大丈夫だが、綱渡りだなぁ。
おっと、そうだ、ドイルに貰ったお礼があった。
いや、そんな期待してないけど、ほら、気持ちだし、ほら……。
「リノン、見て」
自分には見えないように袋の紐を開け、まずはリノンに見えるように広げて反応を見る。
「こんなものじゃないでしょうか?」
反応が薄い? でも相場通りって感じか? それっていくらだ?
「よし、メケどうだ?」
次はメケ。
「流石トーヤ様です」
ノーヒントだった。
「うーん、……小金貨一枚!」
期待を込めて袋の中を見る。おお……。
「ご、五枚も入ってるぅぅぅぅ」
ありがとうドイル。逆に助けられた気がする。
「流石に命を救われて安全に街まで送ってもらえて小金貨一枚という事は無いと思いますよ?」
「そうなのか」
いや、相場とか知らないし。
「大金なのです」
「だなぁ。よかったよかった」
ギルドを出ようとしてメケに止められた。
「トーヤ様、これ忘れてるです」
メケが魔石の詰まった袋を持ち上げる。ビー玉サイズでも集めると結構な量になるな。ほとんどスライムの魔石だけどな。
魔石の買取はどこかな? ちょうどカーサさんがいるから聞いてみよう。メケから袋を受け取り受付カウンターへ向かう。
「カーサさん、魔石の買取をお願いしたいんだけど」
「こちらで良いですよ。カードと一緒にお願いします」
「はい」
机の上に袋をドンと置き、カードを取り出す。
「魔石? こんなに?」
カーサさんの目が点になる。
「ほとんどスライムですよ。お願いします」
「え? スライム? こんなに?」
カードを渡すと受け取ってくれたが、心ここにあらずという雰囲気だった。
首を傾げながら袋を後方へと運んでいく姿を見送った。どうやら査定に多少時間がかかるようだ。
「いくらになるかなぁ?」
「スライムの魔石があの量あれば一財産になるのではないでしょうか?」
「お金一杯です。美味しいもの食べれるです」
そうだな。メケの頭を撫でとくか。
「お待たせしました」
戻ってきたカーサさんの笑顔は若干ひきつって見える。
「確かにすべて魔石でした。スライムの魔石が百十九個、ゴブリンの魔石が三個、合わせて三万五千八百五十クレとなります」
銅貨一枚が一クレらしいから……金貨三枚以上!? え? そんなに?
「現金になさいますか? カードに入れておきますか?」
「金貨一枚だけ現金で、あとはカードに入れておいてください」
「はい。では、こちらになります」
おお。金貨初めて見たよ。おっきいわ。金ぴかで大きい、最強だな。これでメケの剣を買おう。足りるかな?
「それと、今回の魔石納品分で皆様のランクが上がりました。メケさんとリノンさんもカードお願いします」
「はいです」
「はい」
簡単に上がったなぁ、まぁ最低のFランクだったからな。
と思ったら返ってきたカードではDランクになってた。え? いいの?
「あの、FからいきなりDになってるんですが?」
「Dランクのスライムの魔石をあれだけ持ってくれば当然です」
「はい……」
なぜか少し怒られた。
メケとリノンもカードを受け取り喜んでいる。
「それでは、ほどほどの活躍を期待しております」
カーサさんが一礼。あれ? ほどほど?
首を傾げつつギルドを後にした。




