呼ばれた世界へ
プロローグ
―――――祐樹様のご活躍をお祈り申し上げます。」
本来であれば絶望に浸る。しかし、俺は違う。47社目のお祈りメール。俺はこの数カ月で47回も祈られた。こんなに祈られた人間は存在するのだろうか。
セカイヲオワラセヨウ
――――――――
「ユウキ、逃げて!!」
黒白の剣を振り上げ、そのまま振り下ろす。百戦錬磨の達人のように、呼吸をするかのように、もしくは眠りにつくかのようにその所作は行われた。今まで動いていたものはただの肉塊となり、辺りが鮮血に染まる。彼の顔には不敵な笑みがこぼれた。朱色にあふれる世界は彼の心を高揚させる。
“フォール”と呼ばれるその力の被害を受けたものは、“フォールン“と呼ばれ、理性がなくなる。理性とは、人間が自ら自身にかけている制約である。それが解き放たれる。しかし、通常のそれとは違う。理性を無くし、犯罪を行う、これは人間が自らの意思で行う行為である。しかし、“フォールン”は理性を失くす。リミッターが完全になくなるのである。
全人口8億7000万人、うち“フォールン“
――――――――8億人
「ミツルゥゥゥゥゥゥウウウウッッ!!」
恰幅のいい体型、ステテコをはき、毛皮のジャケットを羽織ったその男は毎朝8時に必ず登場する。
“ズウウウゥゥン”
急いできたのであろう、銀色の短い髪は大量の汗でびしょびしょである。
彼の名は“ポット・チャ―リ”、年齢は18歳、資産家の息子で俺の親友でもある。俺たちはそろってアインアンシュへ向かって歩き出す。アインアンシュは巨大な鉱物の板の上に土を載せたような、何もない町であり、ただ単に鉄が取れるだけである。
「今日も一丁やりますか」
鉄鉱夫、それが俺たちの仕事である。アインアンシュで鉄を掘り、それを王都へ運ぶ毎日に、俺は正直飽き飽きしているが、ポットがいるから楽しんでやれている。
ポットは金持ちなのに働き者である。よく動く働き者なのに若干太っている。要するに、よく働き、よく動く健康な男だ。
「きゅぅぅぅぅぅぅぅけえぇぇぇぇぇぇいぃ!!!」
親方の合図が鉱山地帯に響き渡る。俺はポットと合流し、配給された弁当をむさぼり始める。
「ミツル、今度王都に行ったら何する。やっぱ、飯?」
「前も飯目的だっただろ。今度行くときは、“コンコン祭り”だろ?そこに行くんだよ。」