2−8 僕
8話です!
「ひやぁァアッ!!」
とある洞窟内から叫び声のような声が聞こえた。
「ちょ!?ちょっと待って!!尻尾は.....尻尾はぁアッ!!」
現在、一体の化け物がドラゴンを四つの腕で押さえつけ、尻尾を美味しそうにしゃぶっている。
「....お前の尻尾って.....焼いたら美味いのか?」
化け物がドラゴンに尋ねた。
「....はぁ...はぁ....美味しく....ないですよ....はぁ...はぁ...」
ドラちゃんが必死に俺の質問に答えた。
息が上がっている。
一時間程度、体を弄ばるのに対して『無駄』な抵抗をし続けた結果だ。
「...はぁ.....さすがに....尻尾は....はぁ......治りませんよね....?」
ドラちゃんが汗だくの状態で、俺に質問をしてきた。
忘れているかもしれないが、ドラちゃんは現在尻尾が切れた状態になっている。
興味がなかったから理由を聞いてなかったが、今はちょっと気になる。
...でも、あんまりむやみに聞いていい話でもなさそうだし、あえては聞かないことにする。
「....そんなことないぞ」
俺はドラちゃんにしゃぶっていた尻尾の先端を見せた。
ジュゥゥゥ......
そんな音を立てながら、尻尾が少しずつ伸びてきている。
「ウソォん!?まじですか!?
.....ケモノ様の唾液は万能薬なんですか?」
「....知らん。
それより尻尾を動かすな。口の中が痛い」
さっきからやたらとニコニコしながら、尻尾を動かしてくる。
おかげさまで、内側のほっぺが痛くなってきた。
「ケモノ様が....あっしを『食べてる』....」
そう言うと体をブルブルっと震わせて、デレェっとした表情になった。
そしてさらに尻尾を激しく動かしてきた。
だから、
「ウ・ゴ・カ・ス・ナ!!」
強烈なゲンコツを頭にぶつけて静かにさせた.....つもりだったが、
「いたアァァァアァアイッ!!」
余計うるさくなった。
耳がキーンとなってる。
「何するんですか!?」
「...くぅっ!!....それはこっちのセリフだ!!
俺はお前と違って耳の出来が素晴らしいんだ!!
.....次大声出したら......ぶっ殺す!!」
「....あ、はい....すみません。以後気をつけます.....。
じゃなくて!!いきなり殴る必要はないじゃないですか!!
もう少し平和的な方法で、物事を解決しようとしてください!!」
「俺はお前に遠慮する必要を感じない。
だから最短の方法で問題を解決する。
....それに今回は殴る前にしっかりと注意した。ゆえにお前が悪い」
「うぅ.....確かに....何か言ってたような気がする...。
.....ご、ごめんなさいぃ.....」
まさかここで素直に謝るとは....。
てっきり逆ギレするものかと思った。
「....わかればいい。
それより早く尻尾を出せ」
ドラちゃんの尻尾はしゃぶり心地がいい。
それになんか美味しい味がする......気がする。
「....ど、どうぞぉ.....」
ものすっごく恥ずかしそうに尻尾を差し出してきた。
かわいい.....いや、そんなことないな。
こいつはドラゴンだ。かっこいいと思ったとしても、かわいいとは思えないだろう。
....まあいい。
俺はパクっとドラちゃんの尻尾を口に含んだ。
「.....んんッ!!」
ドラちゃんから声が漏れた。
俺は尻尾を舐めまわした。
やっぱりなんか美味しい味がする。
....ドラちゃんからダシがにじみ出てるのかな?
今度ドラちゃんを茹でた釜で煮込んでみよう。
一方、尻尾をしゃぶられてるドラちゃんは、体をクネクネさせたり、震えさせたり、「ひゃっ!」とか「ンッ!」とか声を出したりしている。
そして表情はトロンとしている。
.....オソっちゃおうかな?
俺がそう感じるくらいには色香を出している。
.....もちろんそんなことはしないが。
そうこうしているうちに、ドラちゃんの尻尾が治った。
意外と長い。
ドラちゃんの頭から足までぐらいの長さがある。
.....俺の尻尾の方が、その5倍くらい長いが。
そもそも、自分の身長の3倍近くもある尻尾の方がおかしいのだ。
....きっと無意識に巨大なモコモコを欲していたのだろう....たぶん。
「本当に治った!!
ちゃんと動く!自分の意思通りに動かせますよ、ケモノ様ぁ!!」
拘束を解くとドラちゃんは、尻尾をブンブン振り回してはしゃぎまわっている。
無邪気で子供っぽい。
「あんまり動かすと.....また取れるぞ」
「そんなことないですよぉ!
わかるんです!ずぅっと昔ですけど、自分の尻尾があった時はこんな感じだったって!」
尻尾があったのは『ずぅっと』昔なのか.....。
まあ、そんなことより、
「....よかったな....。
俺は疲れたからもう寝る。だから静かにしていてくれ」
そう言って俺が自分の尻尾を枕にして、いつもの寝る体勢になろうとすると、
「ちょっと待ってください!!」
ドラちゃんが俺のほうに駆け寄ってきた。
「...どうした?
まだ傷が残っているのか?」
「いや、もう傷は残ってませんよ....全身くまなく舐め回されたんで.....」
ドラちゃんがモジモジしている。
「ならなんだ?」
「いや.....そのぉ.....お礼がしたくて.....」
ドラちゃんの顔が真っ赤だ。
黒い鱗でほとんど見えないが。
「.....俺は毎日食事を用意してもらってるんだ。
別にそんなのいらない」
これは遠慮とかじゃなく、実際に今欲しいものがないだけだ。
.....それに毎日の食事をもらってる時点で、ドラちゃんにはとんでもなく負担をかけてる。
そのせいで傷を負ったりもしているわけだし......。
「いや、ダメです!!
あっしらドラゴンにとって尻尾はすごく大切なものなんです!!
それを治してもらったからには、命の一つや二つぐらいは差し出さなきゃいけないんです!!」
命は二つもねぇだろ、とも思ったがあえて指摘しないでおいた。
「....それに、あっしはそんなこととは関係なく、ケモノ様にあっしをあげたいんです」
ん?俺.....そんなに好感度あげるようなフラグ立てたか?
確かに尻尾は治した。
だけどそれ以外に俺がしたことといえば.....脅して住処を提供してもらい、食べ物を体がボロボロになるまで取ってこさせたこと?........ひでぇやつだな、俺って。
だから、
「そこまでされる覚えはない」
はっきりとそう言った。
だけど、
「いいや、あります!!」
ドラちゃんがはっきりと言った。
「.....ケモノ様は昔のあっしにそっくりなんです。
何があったかは教えてもらえてませんが、辛いことがあったんですよね?」
ああ、あったよ......。
俺は心の中で答えた。
「それでうじうじして、何にもやる気が起きなくて、もう死のうかなぁとかって考えてるんじゃないですか?」
言い方が気に入らなかったが、図星だ。
「.....あっしは.....自分の気持ちを整理している間に、全てを失いました。
......そこで初めて後悔しました。
そして余計に自分が嫌いになりました.......」
俺は黙って話を聞いている。
「正直、そんな風になっていくケモノ様を見たくありません......。
....だから、もしもケモノ様もあっしと同じ状況になっているなら....是非、やれることはやっといた方がいいですよ.....」
「もしも.....『すでに』全てを失っているならば?」
俺はドラちゃんに尋ねた。
俺の場合、気持ちの整理などする余裕もなく全てを失ったが....。
いや、桜に至っては八つ当たりをしてしまい、見限られたが。
俺の質問に対してドラちゃんは、ニッコリと笑い、
「もしそうなら『最高』ですね」
そう言った。
俺は唖然とした。何を言われたか少しの間理解できなかったのだ。
そして、だんだん怒りの感情が湧きあがろうとしていた時、
「じゃあ、あっしと同じですね♪
.......なら、一緒にやり直しませんか?
あっしも辛いことがあったんです。
だから、お互いに傷の舐め合いっこができる仲間が欲しかったんです!」
ドラちゃんがそう言った。
「.....さっきしたけどな」
俺はツッコミを入れた。
自分も同じだなんて言われたら、怒るに怒れない。
むしろ、自分に対する理解への期待すらしてしまう。
「いやいや、まだあっしがケモノ様の傷をなめてません!!
あっしの全てを対価に、傷口を舐めさせてくれませんか?
......もしかしたら、止血ぐらいはできるかもしれませんよ?」
その言葉を聞いた途端、俺のほおに、枯れたはずの涙が久しぶりに顔を出していた。
「「えっ!?」」
僕とドラちゃんが同時に声を上げた。
「け、ケモノ様!?
どうしたんですか!?目に石でも入りました!?
それとも、あっしの言ったことが気に入りませんでしたか?」
ドラちゃんは思考の迷路に入ってしまったようだ。
「いや......嬉しくて......つい......」
僕は涙を羽で拭きながらつぶやいた。
僕のためにすべてを投げうつだなんて言われたら、すごく嬉しいし、頼りたくなっちゃう。
.....それに安心した。
僕と同じ......か......。
それは不幸なことなんだろうけど、二人が不幸なら少しは楽なのかもしれない。
「.....そうですか....。
あっしも、自分の言葉がしっかりと届いてくれて嬉しいです.....」
ドラちゃんが俯きながら言った。
そして二人.....いや、二体の怪物はしばらく沈黙した。
「.....僕もやり直せるかな.....?」
僕が沈黙を破った。
「.....できます!それに、失敗してもあっしがついています!!
だから、何度でも再挑戦できます!!
.....そしたらいつかは成功できるんじゃないですか?」
「......そうだね.....。
.....一緒にやり直そう......ドラちゃん」
「ドラちゃん?.......あっしは『ドラちゃん』じゃありませんよ。
ルティユ・エインダーという名前があるんです。
ルティと呼んでください」
「.....僕の名前は......アキラ.....だ」
「じゃあ、アッキーって呼びまs....」
「却下!!」
僕は一瞬でルティの提案を却下した。
「えぇ....可愛くていいじゃないですかぁ!!」
「ダサい、超ダサい、マジでダサい......そして色々と紛らわしい.....。
だから絶対に却下!!」
「むぅ......じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」
「普通にアキラって呼んでくれ」
「様は?」
「不要」
「じゃあ....アキラ.....」
「なんだ?.....ルティ.....」
僕らは再び沈黙した。
顔が熱い。
.....さっきからルティがなんか魅力的に見えるのだ。
世話好き(脅迫されてだけど)だし、料理上手(自分が料理されそうにもなってたけど)だし、優しい(?)し....。
.....ルティってなかなかに女子力高くない?
.....ん?そういえば.....
「ルティって.....女?」
僕は簡単な質問をした。
が、
「......アキラなんて大っ嫌い!!」
どうやら僕の質問は、難題を生成してしまったようだ。
ルティが洞窟の出口に向かって走り出した。
だから僕は、
「ご、ごめん!!
......で?どうなの?」
追いかけながら再び質問をした。
すると、
「アキラのバカァアアアアアッッ!!!」
ルティが今までで最大級の叫び声を上げ、僕がひるんでいる間に飛び立ってしまった。
だが僕はそれを、ドレインで地面に墜落させ、体全体で抱きしめるようにして押さえつけた。
すると、女の子っぽい甘い香りがした。
........あぁ.....女の子(?)だわぁ.....。
僕は確信した。
「ルティ....ごめん....。
僕は人間以外の生物の性別を見分けられないんだ.....」
僕は、抱きしめられてからずっとうつむいているルティにそう言った。
「......女だよぉ....わかってよぉ.....ばかぁ.....」
ルティが切なそうに言った。
だから僕は優しくルティの頭を撫でた。
こうする以外に僕はルティを慰める方法を知らなかった。
そしてこれが少しずるい方法であることも知っていた。
でも、笑顔になっていくルティの表情を見ると、よかったぁと心から思った。
「......ごめん....」
僕はもう一度謝った。
「.....許す......」
ルティは許してくれるそうだ。
僕のほおに自分のほおをスリスリさせてきた。
.....かわいい。
「あのさ.....アキラ......」
ルティが何かを言いたそうにしている。
「何?」
僕は先を促した。
すると、
「そのぉ......『僕』って言うのやめたほうがいいよ。
すっごくダサくて、かっこ悪い」
喧嘩を売ってきた。
僕の『僕』を馬鹿にするとは......万死に値する!!
僕はルティの首あたりを『甘噛み』した。
すると、
「ギイイィィィヤアアァアァアアッッ!!!」
どうやらルティの元気は、完全に戻ったようだ。
ちょっとお知らせです!
カテナビアンカの投稿速度が遅くなります.....。
申し訳ない!
理由としては、新しい連載小説を書くためです。
だから、しばらくの間は週2回以上投稿ということにさせてもらいます。
カテナビアンカの続きが気になって仕方ない方々、そしてそうでない皆様、投稿のペースが遅くなった後もご愛読していただけると嬉しいです!
そして何卒、ご容赦ください。
あと、新連載も読んでいただけると嬉しいです。
あとで告知します。