2−5 壊心
5話です!
「....んん.....ッツ!!」
僕は激痛で目を覚ました。
まだ体に力が入らない。
だから、首だけを持ち上げて周りを見回すと、そこは森が広がっていた。
僕の身長の数倍はあるような木が鬱蒼としている。
そこで、近くに倒れている桜を見つけた。
大きな怪我はしていないようだ。
「桜....桜.....起きてください」
僕は慎重に自分の腕を動かし、桜を揺すった。
こんなところで寝たままなんて危険すぎる。
「.....う...ん.....。
.........アキラ......?」
桜が目を覚ました。
「....ここは......どこ?」
「シルンの能力でテレポートさせてもらいました。
....どうやら森みたいですね」
「......みんなは?」
「.........」
僕は沈黙した。
その質問の答えはあまりにも残酷なものだったからだ。
なんて答えればいい?
みんなを見捨てて僕らだけ逃げました?
......そんなこと.....口にできるわけがない。
「......そう.....」
桜は僕の反応からおおよその事情を察せたらしい。
そして、
「......なんで私を選んだの?」
まるで選択を誤った人を見るような目で僕を見上げてきた。
......わかってる。
シルンはラスト・ディザスターで能力を失う。
僕が死んだらみんなのこれからを台無しにしてしまう。
僕の生存確率を上げるためには、僕からの信頼があり、知識、戦闘能力などが高い人を僕と一緒に送るべきだ。
それに当てはまるのが桜。
戦闘能力はメンバーの中では、魔法ありのシルン、アクセルの使えるアイの次ぐらいに高い。
そして、おそらくシルンの次に賢く、僕の立てた計画に的確にアドバイスをしてくれた。
間違いない。
桜以上にこの人選にふさわしいメンバーはいない。
この事実を伝えれば桜も納得してくれるだろう。
ただ普通に言葉にすればいい。
だが、
「.....なんででしょうね?」
僕の口からは、自分も予想していなかった言葉が出た。
「ーー!!」
桜が驚いた表情をしている。
僕も内心驚いている。
「僕としては、シルンと一緒に逃げたかったです」
桜が唇を噛みながらうつむいた。
......やめてくれ......こんなことが言いたいんじゃない......。
「そもそも、桜があの村に長く滞在するのを止めていれば、こんなことにはならなかったんです」
.....ふざけるなッ!!
その決断をしたのは僕だろッ!!
「.......ごめん....」
桜が謝った。
そのほおからは涙がパタポタと零れ落ちている。
何を考えているんだ!?
桜の何が悪いっていうんだ!?
これじゃあ、ただ単なる八つ当たりじゃないか!!
今は桜と一緒に頑張らなきゃいけない時だろ!!
だから......だからさぁ......『その言葉』を口に出すなッ!!
「桜さえいなければ、シルンは死なずに済んだんですよ!!」
「ーーッ!!」
桜が悲痛な表情をしている。
そして、僕とは反対の方向に走り出した。
怪我が残っているからか、フラフラしながら、何度も転びそうになりながら走って行った。
僕は、桜の姿が見えなくなるまでただ呆然と眺めていることしかできなかった。
そして桜が見えなくなった後に、とてつもない後悔の感情が僕を襲った。
だが、涙は出なかった。
もう枯れてしまったのだ。
もしかしたらもう一生、僕は涙を流さないかもしれない。
そう感じさせるほどに、『俺』の心は..........
壊れてしまっていた。
******************
それから三日経った。
俺は桜と別れた場所で、ずっと座ったまま時を過ごした。
桜は帰ってこなかった。
当然だ。
あんな酷いことを言った奴の元に戻ってくるわけがない。
この三日で俺の傷は治った。
実際には、1日も経たないうちに羽や腕がすごい勢いで生え変わった。
火傷に至っては、桜が去ってから一時間も経たないうちに治った。
この体の再生力は異常だ。
現在、とてつもない空腹感が襲ってきている。
....このまま何もしなければ死ねるかな?とも考えたが、それだと人間の思うツボだと思い腹が立ったため、食料調達のために動くことにした。
まだ、4本の足で立つ感覚には慣れない。
今のところは、羽と尻尾も一緒に使ってバランスを取っている。
そして、森の中を適当に徘徊していると、オークの群れに遭遇した。
以前に出会ったように、緑の小ぶとりした人型に近い体型の魔物だ。
今回はモヒカンのようなものが付いている個体の群れだ。
2メートル近い体格だったため、最初に出会ったときは驚いた。
だが、今の俺にとっては、自分の足の方が長いので、動くオモチャみたいに見える。
「「「ギィィイァアアッ!!」」」
オークが奇声をあげながらこちらに迫ってきた。
話せる個体もいるそうだが、今の所会ったことがない。
.....まあ、話せたとしても今は腹が減っているから、全員丸焼きにするが。
「......死ね」
俺がそう一言発しながら微量の魔力を放出すると、接近していた数匹のオークが溶けて、破裂した。
それだけでなく、後方のオークも吹き飛ばした。
木に頭をぶつけて絶命したものもいる。
オークたちは一気に戦意喪失し、逃げて行った。
.....ちょっとやりすぎたかな?
でも丸焼きになったものも一部いるから問題ない。
こうして僕は少し遅めの朝食を食べた。
森の中をウロウロしていると、元いた方向を見失った。
だが、戻ったところで桜はいないだろうから、気にしなかった。
オークの他にもゴブリン(骨ばっかりでうまくない)、ポークマン(肉多くて最高)、カブトムシマン(肉の部分は意外とうまい)、狼型のモンスター(微妙)、ビックトカゲ(不味い)などを捕食した(本当の名前はわからない)。
今の所、腹八分目ってところだ。
魔物を食っていると、いろいろなことがわかった。
まず俺の体についてだ。
○ 耳が四つある。
今まで触れてこなかったが、獣人は耳が四つある。
人間と同じ耳と、頭の上についてるケモミミだ。
俺はどちらかというと、ケモミミオンリーの獣人の方が好みだ。
○ 尻尾も魔力を吸収する役割をしている。
羽だけがその役割をしていたわけではないらしい。
○ 羽が羽じゃない。
飛べないのだ。いくらバタバタ動かしても一向に地面から離れる気がしない。
おそらく本来、魔力吸収器官なのであろう。
でも以降も羽と呼ぶ。
○ 角を短くできる。
馬鹿でかくて邪魔だったから短くなるようなイメージをしたら、短くできた。
現在は超短くしていて、ほとんど体毛に埋もれている状態だ。
○ お手洗いの必要がない。
どうやら食べたものの全てを吸収しているらしい。
次にこの森についてだ。
○ 終わりが見えない。
森の端が見当たらず、同じ風景がずっと続いている。見飽きた。
○ 魔物弱い。
今の所全ての魔物を瞬殺できる。
ほとんどの場合、相手の魔力を速攻ドレインして、動けなくなったところを魔法で丸焼きにして食べてる。
ビックトカゲは見つけ次第、即消し炭にしている。
○ 人はいない。
今の所、誰とも会っていない。
こんなところだ。
何か美味しい食材落ちてないかなぁと思って探索を続けていると、
バサッ....バサッ....バサッ.....
そんな音がした。
そして上を見上げると........
そこには黒いドラゴンがいた。
「うまそう.........」
俺はそんなことを考えていた。
......ドラゴンです。