2−4 快晴
今回は長めになっています。
4話です!
「はぁ.....はぁ.....はぁ......」
僕は走りながら考えていた。
なぜ空中戦艦がこんなところに来て、僕らに発砲したのか?
まず、空中戦艦の来た方向は僕たちの目的地、つまり、ビルケインの方向だった。
ビルケインはここら辺の街では最も発展していて、獣人の数も多い。
だから目的地に選んだ。
発展しているとは言っても、空中戦艦は配備されていないという話だったが、何かしらの理由でビルケインにいたのだろう。
そして、コロシアム襲撃事件で、獣人の集団に対して何かしらの警戒態勢がとられていた。
そんな中、僕たちは一つの村に一週間以上も留まってしまった。
よって、どんな方法かはわからないが、発見されてしまった。
こう考えるとつじつまが合う。
だが、一つ腑に落ちないのは、僕らが空中戦艦を出動させるほどの戦力になっていないことだ。
空中戦艦は歩兵程度なら、無限に倒すことができる。
こちらの攻撃が一切効かないからだ。
しかし、それと同時に、動かすのには多額のコストがかかる。
この辺の理由についてはわからないが、
今重要なのは、僕たちが空中戦艦とやり合えば、必ず全滅することと......
その原因が、村に長くとどまることを決定した『僕』にあるということだ。
ドゴォォォォンッ!!!
何度目かわからない爆発音が聞こえた。
.....いやだ........。
もうそんな音聞きたくない.......。
..........もう、やめてくれよ!!
僕とシルンは村の端に到着した。
そこは、みんなと集合する約束をする場所『だった』。
無数のクレーターができていて、血と何か焦げた匂いが充満していた。
そこには..........
獣人達の焼けた死体が無数にあった。
僕が名前をつけると満面の笑みで受け取ってくれた娘たちだ。
シィマ.....僕に肉じゃがを作ってくれた娘だ。
ダフィ.....名前が変な感じになったのに、喜んでくれた娘だ。
シムナ.....畑仕事をしているおばちゃんと仲良くなってた娘だ。
他のみんなの顔も名前もわかる。
......当たり前だろ........みんないい娘たちだし.....優しいし.....かわいいし.....
一緒にご飯食べたり、一緒にお昼寝したり、一緒に畑仕事したり.......
会話したり、もふもふしたり、もふもふされたりしたんだ.......
例え.......例えぇ.........
全身の皮膚が焼けただれていたってわかるんだよッ!!!
「.....くぅッ!!......なんで...どうしてッ!!」
.....さっき自分で言ってただろ.....お前のせいだよ....アキラ......。
胸のうちから声が聞こえてきた気がした。
お前がよく考えた行動をしていればこんなことにならなかった.....。
わかってるよ!!そんなこと!!
なら、どうしろっていうんだッ!!
.....諦めればいい.....。
.......そんなこと.......そんなことできるわけないだろッ!!
僕はハッとなった。
そして。
「シルンはここで待っていてくださいッ!!」
走り出した。
シルンが驚いた表情をしていたが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
少しでも多くの仲間を救えるかもしれないんだ。
迷っている場合じゃない!!
ドオオォォォォンッ!!!
大砲の音がずっと鳴り響いている。
その音が鳴り響く方向に、その音の聞こえる回数が少なくなるように、全力で走った。
そして、空中戦艦の真下に到着した。
獣人達が逃げ惑い、それを追いかけながら砲撃で焼き尽くす空中戦艦。
獣人達の悲鳴がいたるところから聞こえる。
そして、今........
ドゴオオォォオオォォンッッ!!!!
目の前で新しい犠牲者が出た。
「正義の光ッ!!」
ギュウゥゥゥンッ!!!
僕から閃光が走った。
今まで撃った中で最高の威力が出た確信があった。
が、空中戦艦に当たる前に軌道が曲がり、回避された。
「クソッ!!
正義の光ッ!!」
二度目も同じ結果となった。
.....そんなの有りかよ......。
僕にとてつもない疲労感と脱力感が襲ってきた。
それは、魔力の消耗だけによるものではないと思う。
......なんとかひとまず立ち直って、みんなを助けようとか思った矢先にこれだ....。
空中戦艦が、僕に照準を合わせた。
........もう.....やだ.....。
自慢の魔法が効かず、ただ大切な人たちが消されていく世界.....。
......この世界に生きる価値なし。
僕はそう思った。
そこに、桜の姿が映った。
必死でみんなを先導して、別々の方向に分けて退避させてる。
......どうしてそんなに動けるんだ?
状況は絶望的。
どうあがいたって逃げることはできない。
機動力が違いすぎるのだ。
逃げる?どこに?
ここら辺は山や森はない。
絶対見つかって、殺される。
なのに.........
何だらしない顔してんのよッ!!さっさと立ち上がって手伝いなさいッ!!
そんな顔で僕を見るんだよ.....。
.......やっぱり死ねないや......。
この世に思い残したことアリアリだし、それに僕は『王』だ。
僕の死はみんなの死を意味する。
一人じゃ死ねないんだ。
僕は、向けられた大砲の穴の中を見返した。
そして、睨みつけた。
......おもしろい.....力でいいなら貸してやるヨ....
僕の中に声が響いた。
ドゴオオォォォンッ!!
魔法の弾丸が僕に直撃した........
だが、爆発せず、魔力がその場で留まって、光の球のような状態になった。
その光の中から太くて長い何かが飛び出てきた。
毛がびっしりと生え、うねうねと動いている。
アキラの尻尾を大きく、長くしたものといえばしっくりくる。
そして、次々と紫がかった黒色の羽、頭、腕、足らしきものが光の中から現れた。
全身黒紫っぽい体毛が、足から頭までの高さが10メートルはあるんじゃないかという巨体を覆っている。
首と足が少し長くなった狐型の体に、4メートル近い角、体を包み込めそうなくらいの大きさの羽らしきもの、4本の関節があるかどうかわからない腕、数十メートルはある巨大な尻尾がついている。
「これは一体.....?」
僕は声を上げた。
その声は、人型の体からではなく、化け物と呼ぶにふさわしい体から聞こえてきた。
それに、前より全然高いところから景色を見ている気がする。
うまくは動かせないが、腕や尻尾、足、羽など全部の部位の感覚がある。
.......間違いない。
これは僕の体だ。
僕は、空中戦艦を見上げた。
砲撃が止んでいる。
だがそれも束の間だった。
すぐさま、砲撃準備を整え始めた。
全砲門が僕に向いている。
「ここにいる全メンバーに『命令です』!!
僕が囮になっている間に逃げてくださいッ!!」
そう声を出すと、獣人のみんなが逃げ始めた。
そこに、
「ア、アキラなの!?」
桜が驚いた表情をしながら尋ねてきた。
「.....はい....どうやらそうみたいです」
たぶん僕が一番驚いている。
いきなり頭の中にこの体の動かし方が流れ込んできて、違和感だらけだが動かせている。
「....そう.....よくわからないけど.....死なないで.....」
おそらく、囮という響きで僕の死を連想したのだろう。
だけど、
「それだけはゼッッタイにありません!!
僕は『王』です!!
みんなの命は必ず守ります!!」
当然だ。
僕の命だけならまだしも、メンバー全員の命を失うわけにはいかない。
「......頑張ってね」
それだけを言い残し、桜が去っていった。
そこで、
ドゴゴオオオォォオオゥゥゥンッッ!!!!
空中戦艦の一斉射撃が僕に放たれた。
「天界の壁!!」
僕がいつものようにドレインを発動した。
すると、僕を取り囲むのかのように薄い膜状の球体が出現した。
そこに砲撃が当たると、魔法の弾丸が霧散し、僕の中に入ってきた。
ものすごい魔力が体内を巡っているのがわかる。
だから、
「正義の光!!」
ギュウウウゥゥゥゥンッッ!!!!
僕は全力の魔力を解き放った。
それは前のように完全に弾かれるわけではなく、一部が空中戦艦にしっかりと当たり、黒い煙がもくもくと上がった。
軌道が曲げられたものが地面に降り注ぎ、着弾と同時に凄まじい爆発を起こしていた。
ビー....ビー....ビー....ビー.....
サイレンのような音が空中戦艦から聞こえてきた。
心なしか高度が下がってきている気がする。
僕はというと、思ったよりも魔力を消費したらしく、くらくらする。
「.......うぐっ!!」
そしてバランスを崩し、倒れてしまった。
まだ体をうまく操れない。
そんな中、グレート・ゴリアテから何か飛行物体が飛んできた。
ミサイル!?と思って身構えたが、もっと最悪らしい。
......小型の戦闘機だ。
パイロット席のようなものが付いているから無人機ではないだろう。
それが10機ぐらいこちらに向かってきている。
.....まだ体が動かない。
自分の体がすべて石になったような感覚だ。
戦闘機はある程度距離を詰めると、『実弾の』爆弾を落としてきた。
マズイッ!!
と思ったが、体は動いてくれない。
ドゴォォンッ!!ドゴォォンッ!!
何度も爆発音が響いた。
「グア゛ァァアアッ!!!」
中身は爆薬だった。
僕はただひたすら苦痛の叫びをあげるしかなかった.....。
爆撃が止んだ時、そこには羽が片方もげてしまい、腕の一本が焼落ちていて、その他の部位にも重症な火傷を負った化け物の姿があった。
「....カハッ!!」
吐血した。
内臓のどこかがおかしくなったのかもしれない。
僕の血が周りの草や地面を赤く濡らした。
戦闘機部隊は爆弾を放ち終わると、グレート・ゴリアテの方に戻っていった。
だが、もうそんなことにかまっている暇はない。
視界が安定せず、物が二重にぶれて見える。
それに頭も働かなくなってきて、今にも意識を失いそうな状態なのだ。
なんとか体に走る激痛で、そうならないようにしているにすぎない。
........限界か......。
やっぱり、いきなり全力で魔法を放ったのは無策にもほどがあったってことかな....。
でもそうでもしないと、空中戦艦を中破させれられなかっただろう。
実弾の兵器があるのは大きな誤算だった。
おそらく、僕を警戒して用意していたのだろう。
.....つまり、人類は僕の存在を知っている。
......いろいろと、うまくいかないなぁ.....。
「........ん?......」
僕は自分のほおが湿っていることに気づいた。
この体も悲しい時は泣きたくなるのか........。
怪物であれ、化け物であれ、悲しいのは獣人と同じってことか......。
.......死にたくないなぁ.......。
死ぬのだけは避けなくちゃいけない!
僕のミスごときでこれ以上みんなを失いたくない!!
.......頼む......攻撃が止んでいる、今しかないんだ!!
逃げる力だけでいい!!
動いてくれよ!!
僕の体なんだろ!!
僕は必死に足に力を注いだ。
足がグギギギという音でも出ていそうなくらいに震えて、立ち上がった。
だが、
バダァァンッ!!
地響きを立てながら、倒れてしまった。
これでは走って逃げることもできない。
クソッ!!......チクショウッ!!
どうして死ぬのが僕だけじゃないんだ!?
どうして一人で死なせてくれない!?
.......いや.....待てよ.....。
確か『王』が殺されたメンバーは王殺しのメンバーになれば生き残れる....。
.....でも、もし人間の王がそれを拒んだら......それに、それじゃあ昔みたいにひどい扱いをされるだけじゃないのか?
.....ここで死んでいったみんなは何のために戦ったんだ?
......詰んでいるのか?
空中戦艦から戦闘機部隊の第二陣が出発してきた。
自信を持って言おう。
あれが到着したら、僕は死ぬ。
そしてみんなは運が良ければ、ひどい扱いを受けるけど生き残れる。
運がなければ死ぬ。
........ごめんね......。
僕は大粒の涙を流した。
悔しかった。
力が足りずに失う命が。
防げたかもしれない死が。
これからのみんなの苦しむ顔が想像できることが.....。
戦闘機が接近してきている。
そんな中、
「....ますたー.......安心して.....。
....ますたーだけは、.....絶対に死なせないからっ!!...」
シルンがいつになく真剣な表情で、全身に白い魔力を纏いながら現れた。
「ど、どうして!?
なんでまだここにいるんですか!?」
逃げるように『命令』したはずだ。
「....『ここにいる』全メンバーに対しての命令だった.....。
......『ここ』がどこかの指定はなかった....」
「そんな....そんな屁理屈が通じるんですか!?」
「....通じるからここにいる....。
.....解釈は受け手側がする....」
そうなのか......。
ゴゴゴゴゴゴ.......
戦闘機部隊の接近音が聞こえる。
もう到着まで数分もないだろう。
「シルン、何をする気ですか?
正直言って状況は最悪ですよ.......」
「......ますたーと一緒に死ぬのも悪くはないけど.....
......やっぱりますたーには生き残っていてほしい......から、
......『ラスト・ディザスター』を使う......」
「なっ!?」
ラスト・ディザスター......それは『王』の権利の最終行使だ。
『王』である権利を失う代わりにとてつもない力を一時的に得る。
また、その『王』のメンバーの命を全て代償として支払う。
シルンの場合、メンバーがいないため、コストは『王』の権利のみだ。
.....確かにその手なら、みんなを助けられるかもしれない!!
「......それで、アキラと桜『だけ』を遠くに送る.....」
えっ!?
「......だけ?」
シルンがこくりと頷いた。
「.....私の力じゃ.....それが限界......」
そして、悔しそうに呟いた。
「.....そんなの....やってみなくちゃわからないじゃないですか!!」
僕がそういうと、悔しさと悲しさでいっぱいの表情で僕を見上げてきた。
目には溢れんばかりの涙がたまっており、必死でこぼさないようにしているのがわかる。
......本当らしい。
ゴゴゴゴゴッ!!
戦闘機部隊が接近してきている。
「じゃあ......僕と....『シルン』だけにしませんか?」
僕は最低最悪な質問をした。
今の僕にとっては、シルンの方が大切だったのだ。
伝えてない想いもあるし、もっともっと一緒にいたい。
.......一番大切な人だ。
すると、
「......そんな.....こと........う゛ぅ........言わないでよぉ.......」
シルンが泣き出してしまった。
......そうだよなぁ......そりゃあ誰だって生きたい。
自分を犠牲にするって....そう簡単にできることじゃない...。
桜を指名したのは、おそらく僕との関係が近く、戦闘能力も申し分ないからであろう。
『王』の力を失ったシルンはおそらく戦闘能力はないに等しい。
僕の言葉は、そんなシルンの覚悟を踏みにじる発言だったのだ。
「....ごめんなさい.........」
僕は謝った。
ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!
戦闘機部隊が今にも爆弾を落としそうな距離に来た。
「.....アキラ......愛してる......」
シルンの口から簡素な言葉が紡がれた。
そこには、シルンの今の思いが全て含まれているような気がした。
「......僕も愛してます.....シルン......」
僕もありったけの感情を込めた言葉を発した。
すると、シルンから光が溢れ出し、僕の体からも光が溢れ出してきた。
そして、
「.......愛する人が幸せになりますように.........」
その言葉を最後に僕の意識は途切れた。
シルンの最後の顔は、とても愛しいものを見るような優しい笑顔だった。
******************
「.......ごめんね......一緒に送ってあげられなくて......」
シルンが誰かに話しかけた。
「にゃに言ってるにゃ?
マスターと桜が無事なら、うちは満足にゃ。
.......本当にマスターは無事なのかにゃ?」
少し遠くの建物からルイが出てきた。
ずっと隠れていたのだ。
『命令』もシルンと同じ方法で無視したようだ。
「......それは.....安心して......。
......ここからありったけの距離を.....飛ばしたから......」
「海にドバーンってなってなければいいにゃ」
「......そこは......愛の力で大丈夫......」
「.......じゃあ、うちの愛も上乗せしておくにゃ」
ゴゴゴゴゴゴッッ!!!!
戦闘機が上空を旋回している。
「........じゃあ......」
「始めるとしますかにゃ!?」
「「最後の時間稼ぎを!!」」
二人の声が血なまぐさい戦場に響き渡った。
...........。