2−1 獣王無人 零
二章.......起動!
1話です!
「思考武装団」
男の声か、女の声なのかわからない声が、重々しく響いた。
だがそれを打ち消すのかのように、空中戦艦の爆撃音が鳴り響いている。
「第一武装団『皆光ノ鉄杭』......展開!!」
とんでもない漢字変換を経由して、『化け物』が何かを叫んだ。
すると、黒い球体が空中に出現し、そこから大量の銃が這い出てきた。
50メートルを超えているのが一目でわかるような大きさだ。
その全てが、遥か上空に浮遊する空中戦艦に銃口を向けた。
そして、
「全弾発射!!」
ドヒュゥゥゥンッ!!
瞬間、全ての銃からその砲身に似合う、巨大な弾丸が発射された。
空中戦艦による迎撃によって大半が撃ち落とされたが、一部が命中し、大量の煙が上がった。
『化け物』がさらなる追撃をしようとしたところに、
ドンッ!!......ドンッ!!
人類戦車部隊からの砲撃が『化け物』を襲った。
が、その全ての弾丸が命中する前に『化け物』の羽に吸い込まれるようにして、消滅した。
「何なんだよッ!!
.....こんな化け物......どうやって倒せっていうんだよッ!!」
戦車の上から人類の兵士が叫んだ。
すると、『化け物』が兵士の方を見た。
細長く、先端が少し曲がった二本の角。
4本の足で支えられ、なめらかな紫の毛皮に覆われた体。
魔法の悉くを防ぎ、巨大な壁のように見える羽。
背中から生えた、大型魔法を放ち続ける4本の腕。
体と同じくらいの太さで、先が見えないぐらいに長い尻尾。
尻尾から生えた無数の触手。
そして、こちらを睨む二つの赤紫色に光る眼。
それが今、口を開け、巨大な魔法陣を発生させながら、こちらに魔法を放とうとしていた。
「あぁぁ........ア゛アァァアアッ!!!」
兵士は急いで『化け物』から逃げようとした。
........だがもう遅い。
ギュウウウゥゥゥンンッ!!!
とてつもない光量が兵士を飲み込んだ。
閃光が収まった時にはすでに、兵士の姿はどこにもない。
そしてこの閃光は、兵士一人を消滅させるなんていう生易しいものではなかった。
人類の用意した陸上機動隊の約三分の一が、一瞬で消滅した。
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「もう二度と.........あんな思いはごめんよ.....」
悲しげだが、はっきりとした意志の感じ取れる声が『女性』から発せられた。
少女は右手に小ぶりの銃剣、左手には小刀を持っている。
そしてその周りには、乱戦中の戦場が広がっている。
主に獣人と人間が戦っているが、エルフやドワーフなども混じっている。
もちろん、エルフたちは人類の味方だ。
まだ時間的には昼すぎぐらいなのだが、舞い上がった塵や煙などが太陽の光を遮断し、魔素が発光することにより、暗くて、薄く赤みがかった風景になっている。
「はぁ.....早く帰ってお風呂に入りたい」
『女性』はため息混じりにそんなことをつぶやいていた。
しかもさっきから両目を開けていない。
だが、これは相手をなめているわけではない。
体が汚くなったら自然とお風呂に入りたくなるからであり、
『女性』は目を開けずとも状況を確認できるからだ。
「.....シルン.....私たちを見守っていてね」
その『女性』は......桜は、自分にとって親友とも呼べる少女の名前を呼んだ。
「アキラにばっかり負担をかけてられないし.......もう、行くね」
桜は、親友に対して言葉を発した。
.........返答はいつになっても帰ってこなかった。
けれど、桜はにっこりと微笑んだ。
そして......
「位置転移」
姿を消した。
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「あぁ......アキラァ....なんて雄々しく、美しいんだ....。
.......まさに神の作りし芸術ッ!!」
金髪と碧眼、整った容姿を持つアキラが好きすぎて頭おかしい『女性』........ルーベルが、いつものことながら.....いや、いつも以上に、アキラを賞賛する言葉を並べている。
その視線の先にあるのは、破壊を繰り返す『化け物』の姿がある。
そして足元にあるのは、無数に積み重なった人の死体。
死体には心臓付近を何かに貫かれた跡がある。
「その視線は僕の心を串刺しにし、その吐息は僕の体すら溶かし尽くす......。
......嗚呼、何と美しき存在ッ!!」
........一時間近くこんな言葉を大声で叫び続けている。
相手をなめているのか?
......おそらくそうなのであろう。
そこへ、3メートル近い大きさの人型兵器が接近してきた。
そして、腕に装着している大砲のような武器から、魔法の弾丸を発射した。
ドウゥゥゥンッ!!
そんな音とともに弾丸が一瞬でルーベルに接近した。
だが、
「既通ノ糸ッ!!」
ドガアァァンッ!!
空飛ぶ槍が複数射線上に現れ、魔法を防いだ。
そしてすぐさま槍がゴーレムに飛来し、胸あたりをえぐり取った。
槍を受けたゴーレムは自身の魔力により、自壊し始め、
ドゴォォオンッ!!
爆発した。
それを見た他のゴーレムがうろたえ始めたが、
「既通ノ糸.......ヤれ」
ルーベルが冷たく命令を下した。
ものの数秒でゴーレム十数機を撃滅した。
そして、
「あぁ〜、既通ノ糸ってかっこいいなぁッ!!
武器の見た目や性能もかっこいいけど、何より、
『ネーミングセンス』がかっこいいなぁあッ!!!」
やたらと大声でわざとらしく、『化け物』に向かってそう叫んだ。
すると、『化け物』がこちらを向いた。
「アキラ.....すっごくかっこいいよ.....既通ノ糸.....」
しかし、すぐにプイッとそっぽを向いた。
「アアァァァァキィィィラアアアァァァァッッッッ!!!」
ルーベルは、ただの叫び声なのか、それとも名前なのかわからない悲鳴をあげた。
現在、人類の空中戦艦と魔法を打ち合っている『化け物』がいる。
それこそが、全獣人の私有化を目論む獣人の『王』......
アキラなのであった。
どうしてこんなことになったのか?
その説明には、およそ8ヶ月前まで時間を遡る必要がある。
お久しぶりの人は、お久しぶりです!
二章始まりました!
今回は、二章のプロローグ的な話です。
どんな展開になるのか、楽しみにしていてくれると有り難いです!
次回、8ヶ月前。
お楽しみに!!