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1−34 獣人月歩 9

34話です!!



「マスター....大丈夫かにゃ?」


 観客席にいるルイが心配そうな声を上げた。

 観客席は、バトルドームの魔法の障壁でほとんど被害はなかった。

 ただ、爆発の衝撃で魔力切れを起こし、現在消滅中ではあるが。


「きっと大丈夫だよ♪

 マスターが死んだら私たちも死んじゃうんだから♪」


 イユがそう言った。

 これは、『王』の死が『メンバー』の死に直結することを言っている。

 逆に言うと、『メンバー』の生は『王』の存命を示してもいる。


「そうにゃ、それならよかったにゃ.......」


 ルイが安心した表情になった。

 他の獣人たちもイユの話を聞いて、どうやら安心したようだ。

 ........一応物騒な内容が含まれていたのだが......。


 そして爆炎が晴れていくと.......



『二人の』立ったままの影が見えてきた。


 その姿を確認して、獣人たちが歓声をあげた。


「「「「「「「マスタ〜!♡!♡」」」」」」」


 それに気づいたアキラは、微笑みながら手を振っていた。

 だがすぐに対戦相手のルートベルトの方を振り向いて、戦闘態勢をとった。



「.....ルーちゃんもしぶといですね」


 僕はルーベルに話しかけた。


「ハハッ!

 僕はアキラを手に入れるまで倒れないよ」


 普通に話しているが、僕もルーベルも立っているのも厳しい状態だ。


 爆発の際、お互いに魔力を体の前の方に集中させ、ある程度防御していた。

 この方法をとれば、ダメージを魔力で相殺して減らすことができるのだ。

 僕はこの方法をシルンに教わって、なんとか実戦で使えるようにしておいた。

 ........すこぶる魔力効率は悪いが。


 防御したとは言っても、魔力を大量に消費して、体にも相当な傷を負っている状況だ。

 二人とも、まさに満身創痍となっていた。


 .........だから僕は、プライドを捨てた精神攻撃を始めた。


「.......ルーちゃん、今倒れてくれたら、もう一回キスしてあげます」


「ヌガァックッ!?

 ......はぁ.....はぁ.....なんて強力な誘惑ッ!!」


 効果は抜群だ。


 僕って本当に........クズだよなぁ.....。

 でも、もう休みたい!!

 超疲れた!!

 許せ、ルーちゃんッ!!


「今なら、頭なでなで一時間もつけます!」


「.......なでなで....一時間.........ゴクリ......」


 ルーちゃんが今にも膝を屈しそうになっていた。

 もうちょっとだ!


「今ならなんと、僕の尻尾に触る権利付ッ!!

 今しかないよ、ルーちゃん!」


「......ん?待てよ。

 アキラが僕のものになれば、なんでもやり放題じゃないか!?

 ........やっぱり僕はここで倒れるわけにはいかないなッ!!」


 もうやめてくだしゃれ.....。

 ルーちゃん根性強すぎだよぉ〜......。


 ルーベルが懐から小刀を取り出した。

 おそらく、ソードブレイカーを振るのは限界なのだろう。

 手には火傷の跡も見える。


「アキラ、まだ『切り札』は残っているのかい?」


 僕が『切り札』を使い切ったら、素直に降参する。

 ルーベルと約束したことについて聞きたいのだろう。


「はい、あと一つだけ残っています!!

 とっておきですよ!!」


「そうか、それは楽しみだな!!」


 僕が嘘をついている可能性は全く考えていないようなセリフだ。

 僕はルーちゃんの、そういう素直な性格は好きだなぁ。

 敵同士なのが本当に悔やまれる。


「僕はもう限界なので、次が最後の一撃です!!

 当たったら痛いですけど、できれば避けないでいただけるとありがたいです!!」


「アキラとの幸せな未来のために、負けるわけにはいかないッ!!

 すまないが、できれば避けさせてもらうッ!!」


 僕は、お腹に刺さったままのソードブレイカーを抜き捨てた。

 発狂しそうな痛さだった。

 血もドバドバ出た。

 痛みを堪えてから、腕をハの字に構えた。


 ルーベルは小刀を突き出すように構えた。

 若干だが、手が震えているようだ。

 顔も余裕がなさそうな表情をしている。


 そして、


加速(アクセル)ッ!!」

疾風(ゲイル・ブースト)ッ!!」


 僕はルーベルにまっすぐ接近した。

 ルーベルも僕に直進してきた。


 あと1メートルでルーベルの小刀が僕に当たる。

 その距離になった瞬間、僕は、


転移(テレポート)ッ!!」


 一瞬で間合いを詰め、


「なっ!?」


 驚いているルーベルのお腹に全力の拳を放った。


「グゥムゥッ!!!」


 ルーベルは真上に、高く打ち上げられた。

 2メートルぐらい浮いた気がする。


 そして、僕は落ちてきたルーベルを最後の力を振り絞り、全身で受け止めた。

 僕が下敷きになる姿勢だ。


「グヘェッ!!」


 僕はお腹のダメージが蓄積され、部位破壊されてしまいそうだった。


「「......はぁ......はぁ.....はぁ.....」」


 お互いに息を荒げていた。

 ルーちゃん気絶してないのね.....すごいメンタルしてるなぁ.....。

 僕なら即気絶する一撃なのに。


 僕は状況を確認した。

 ルーちゃんはまだ動けるようだ。

 倒れているのは僕の上。

『地面』には倒れていない。

 つまり、


「僕の負けですかね?

 まだ、『地面』に倒れたわけじゃないですから......」


 僕が尋ねた。

 

「........何を言っているんだ、アキラ。

 僕は今、倒れているじゃないか?

 『地面』の上かどうかなんて些細なことだよ」


「......いいんですか?」


 えっ!?いいの?

 それを認めたら、ルーちゃんの負けになるんだよね?


「いいも何も、僕は今こうして倒れているわけで、しかも『アキラ』の上だ。

 アキラが落下する僕を受け止めてくれたんだろう?

 勝利どころか、完全勝利だよ!!

 おめでとう、アキラ!!」


 そう言って、僕をぎゅっと抱きしめてきた。

 すると、


「「「「「「「ワアアアアァァァッ!!!!」」」」」」」


 突如として、観客席から歓声が上がった。

 獣人だけじゃなく、人類の男女、子どもたちも、みんなが声を上げていた。


「えっ!?えぇ?なんで!?」


 僕は頭の中が絶賛パニック中だった。


「主催者権限を解いて動けるようにしたよ。

 でも大丈夫、もう少ししたら契約の効果でみんなの記憶は消えるよ。

 どうやら、みんな僕らの試合に満足してくれたようだね!」


 ルーちゃんが説明してくれた。

 その間にも、


「坊ちゃんやるじゃねえか!!」

「あの白い光線の魔法かっこよかったぞ!!」

「また試合しに来いよ!!」


 僕に向けられた声が聞こえてくる。

 それが疑問なのだ。


「仮にも僕は獣人。

 差別対象ですよね?

 なのにどうして賞賛されているんですか?」


「試合の良し悪しに、種族は関係ない。

 僕のコロシアムを見にくる人たちは力自慢の人たちばっかりなんだ。

 だから、強い奴には敬意を払う、それがここでの常識なんだよ」

 

 その言葉を聞いて僕は、自分の目標を達成する糸口が見えたような気がした。

 そして、


「ありがとうございますッ!!」


 大声で観客席の全員に向けて、お礼の言葉を叫んだ。

 そのあとしばらく歓声が鳴りやまなかった。


 


 


 だんだん観客席の声が静かになっていき、観客の人たちは眠っているような状態になった。

 こうしている間に、契約の効果による記憶消去が行われているらしい。


 ルーちゃんも今にも眠りそうな顔をしている。


「......アキラァ〜......アキラァ〜.....。

 僕が眠るまででいいから、ぎゅっとしてて」


 そう言われたから僕は、現在ルーちゃんを抱きしめて、頭を撫でている。

 抱きしめていると、僕の胸に頬をスリスリして甘えてきた。

 眠そうな顔がとってもキュートだ。

 

「僕はもうちょっとでアキラのことを忘れてしまう......。

 だからさ、お願いだよアキラ、僕にもう一度だけキスをして。

 今度はもっと深くに」


「......契約を無効にはできませんか?」


 ルーちゃんの記憶がなくなってしまうのは、今の僕にとっては辛い。


「......無理だよ......。

 すでに契約の効果が出始めてしまっている。

 こうなったら、もう取り消しはできない......」


 ルーベルがとても寂しそうな表情で、目に涙を浮かべながらそう言った。


「.....じゃあ、最後の手段として、エンゲージならどうですか?」


 エンゲージなら、イユの時みたいに契約を無効化できるのでは?と考えた。


「それもダメだよ。

 大会の決闘は、互いの合意の上での契約が行われる。

 エンゲージでも無理なんだよぉ........」


 ルーベルが、ついに泣き出した。


「うぅぅ....... どうしてこんな契約にしちゃったんだ.......。

 始めっからアキラにエンゲージしとけばよかった........」


 後悔で押しつぶされそう、というのはこんな状態だろう。

 僕はそんなルーベルを見ていられなかった。

 だから.......


 ちゅっ.....。


 本日二度目のキスだ。

 ルーベルの体がビクンッとなり、力を抜いた状態になった。

 今回はそれでは終わらず、僕は舌をルーベルの口の中に入れた。

 ルーベルは抵抗するどころか、もっとぉ....もっとぉ...と言わんばかりに僕を求めてきた。

 僕は片手でルーベルを支え、もう一方の手でルーベルの頭を撫でた。

 ルーベルも僕に抱きつきながら、僕の頭を撫でてきた。

 それは、僕の理性を吹き飛ばすには十分だった.............。


 しかし、今から本番ってところで、ルーベルの体から力が抜けていっていることに気づいた。

 

「.......どうやら......時間のようだね、アキラ.....。

 最後に伝えておくね......。

 僕は必ずアキラに会いに行く。

 アキラが待っていてくれたら、嬉しいなぁ........」


「......楽しみに待っていますよ。

 ......むしろ、来てくれなかったら悲しみます」


「.............大好きだよ、アキラ..............」


 そう言ってルーベルは目を閉じた。

 すると、スゥー、スゥーとかわいい寝息が聞こえてきた。

 

 次にルーベルが目を覚ましたら、ルーベルにとって僕は、奴隷にしたいただの女性になっている。

 ちょっと........悲しいなぁ....。


 僕は自分ほおが濡れていることに気づいた。

 だから僕は、


 生活が落ち着いたら、必ず迎えに行くよ......ルーちゃん。


 心の中でそう決意した。

 ルーちゃんの寝顔が笑顔になったような気がしたが、気のせいだろう。

 


 いつまでも塞ぎ込んでいてはダメだ!


 僕は気持ちを切り替え、涙を手で拭った。

 そして笑顔で振り向いた。


「獣人のみなさん!!

 僕こそが『全て』の獣人を『僕だけの』奴隷(メンバー)にする獣人の『王』です!!

 僕のメンバーである限り、誰にも指一本触れさせません!!

 末長く宜しくお願いしますッ!!」


 僕はここにいる獣人全てに向かって宣言した。

 そして頭を下げた。

 すると、


「「「「「キャァア〜、アキラ様ぁア〜!♡!♡!♡」」」」」


 今までで一番の大歓声がコロシアム内に響いた。

 やっぱり恥ずかしいなぁ......。

 それよりも、


「みなさん!!

 僕たちの初任務は終わっていませんッ!!

 い、急いで逃げましょう!!

 僕はもうこれ以上戦えませんよ!!」


 

 そう言って、僕たちは急いで逃げる準備を始めるのだった。

 



............。



次回、脱出編!?

お楽しみに!!


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