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32/67

1−32 獣人月歩 桜

32話です!



ーside 桜ー


 私は、日本のT県に生まれた犬『だった』。


 わざわざ『だった』の部分を強調したのは、今の『桜』は犬ではなく、獣人だからだ。


 私は、トラックに轢かれた後、黒い部屋に転移させられた。

 そこには、白くて猫のような耳と尻尾が生えている女の子(?)がいた。

 自己紹介で神様と名乗ってきた。

 そこで、神様(仮)はこう言った。


「君にはこれから、異世界に新しい体を持って転生してもらう。

 そこでは数多の苦難が君『たち』を襲うだろう。

 そこでなのだが.......

 アキラ、君と一緒にトラックにはねられた少年を手助けしてあげてほしい」


 私はつまり、いきなり異世界に自分の体を変えられて送られ、自分の死因になった少年の手助けをしてほしいと頼まれているわけだ。

 

 どうしてそうなった!?


 私だってそれなりにあの暮らしを気に入っていた。

 飼い主さん(.......名前は犬だったからわからない)と一緒に散歩をしたり、飼い主さんがいない時はおばあさんと一緒に昼寝をしながら毛づくろいをしたり、ご飯をみんなで一緒に食べたり........。

 

 それをできなくした張本人を助けろ?

 いくらなんでもおかしすぎる!!

 理由がわからない。


「確かに君の『考えていること』はもっともだ」

 

 今、私は言葉を発していなかった。

 つまり、思考を......読んでいる!?


「正解だ。

 思ったよりも『知能強化』の効果がでているようだな」


『知能強化』?


「ああ、そうだ。

 もう気づいているだろう?

 君の思考能力の変化に」


 ..........確かに。

 以前の私なら、理由とか、疑問とかについて言語化するなんてことはしていなかった。

 それに、語彙力もあるようだ。

 おかげでよく思考がまとまる。

 

 だから私はこう答えた。


「絶対に、アキラとかいう少年を助けることなんてしません!!」


 人間の言葉が出た........。

 自分の喉から人間の言葉が出ることが新鮮だと感じた。

 

 理由がある以上、断ることに何の躊躇もいらない。


「.......確かにな。

 だが、一応理由を言わせてくれ」


 それから神様(仮)は、異世界には魔法があるとか、『王』の存在についてとか、獣人が酷い扱いを受けているとか、いろいろな情報を聞いた。

 私はその全てを理解できた。

 まるで、『私じゃない誰か』の知識を使って理解しているような感覚だ。

 

 そして、


「私はこの現状をどうにかしたいと考えているんだ。

 だから君には、アキラの手助けをしてほしい」


「........そんなことを私が了承すると思っているの?」


 正直腹が立った。

 私の都合は全く考えられていない。


「実際のところ、私は君の事情などを考慮せず、君を異世界に送る。

 だが、そこからは自由だ。

 私からは干渉をすることができない」


「つまり、私がアキラという少年のことを裏切っても構わないってことよね?」


「........そういうことだ。

 だが、初めのうちは協力し合った方がいい、と言っておく」


 確かに、ある程度自力で生活を送れるようになるまでは、そうした方がいいかもしれない。

 もしも、私が『生きる』ならばだけれども。


「........最後に、アキラが君に対して死ぬ直前に思っていた感情を伝えておく。


 桜ごめん。償いはあとで必ずするから、待っていてくれ。


 だそうだ」


「........そう.....」


 いきなり命を奪うのだけはやめてあげることにしよう。

 それに自殺するのも馬鹿らしい。


 償いをしてくれるそうだ。

 ならば、それができるかどうかを判断してからでも遅くはない。


「そうしてくれると助かる。

 .......もう君を送らなくてはならない。

 できる限りで構わないから、アキラを助けてやってくれ」


 私の体から光が出てきた。

 変な感覚があるが、不思議と危険な気配はなかった。


「........本当の名前を教えなさいよ。

 もしもそのアキラがダメなやつだったら、あなたに仕返しに行くわ。

 その時に名前を知らないと何かと不便でしょ」


「.......そうならないことを祈ろう。

 私の名前は、CRy1シー・アール・ワイ・ワン


 神様(仮)が笑顔でそう言ってきた。


「完全に偽名(コードネーム)じゃないッ!!」


「いいや、これが私の名前だよ。

 おや、時間のようだ。

 良い異世界ライフを!」


 神様(仮)がわざとらしく腕時計を気にする仕草をした。

 腕時計は付いていないが.....。


「ちょっと待ってッ!!」


 私がそう言った瞬間、周りの風景が白くなっていき、私は意識を失った。

 神様(暗号)が笑っているような声が聞こえた。


 アキラがいいやつでも悪いやつでも、あの神様(暗号)は.......


 

 100発殴る!!


 桜は心に一つ、誓いを立てた。




***************************************


 



「クシュンッ!!」


 よくわからないが、私はくしゃみで目を覚ました。

 風邪でも引いているのかな?


 どうやら私は草原にいるようだ。

 周りを確認していると、ふと自分の『手』が目に入った。

 人間の手だ。


 他にも、自分の身なりを確認していると、先ほど会った神様(仮)に似ていることがわかった。

 毛並みは昔の私のものによく似ている。

 

 アキラとかいう少年はどこにいるのだろうか、と探していると、紫の獣人(?)らしき人影があった。

 うつ伏せに寝っ転がっている。

 綺麗な女性だなぁ.....と思っていると、私と同じ服と首輪(色違い)をしていることに気づいた。


 この状況から推測するに.........アキラだ。

 でなければ、いろいろとつじつまが合わない。


 などと観察していると、


 ピクリ......。

 アキラ(推測)の耳と尻尾が動いた。

 そして、寝ぼけたような顔で起き上がった。


「...........ん」


 どうやら日の光がまぶしいようだ。

 とは言っても、もう傾き始めてはいるが。


「やっと起きましたか」


 私は話しかけた..........。

 



******************




 それから、いろいろなことがあった。

 結論から言うと、今の所はアキラと協力することにした。

 ある程度は、事故に関して責任を感じているようだったからだ。

 

 アキラは、モコモコしたものが狂おしいほどに好きらしい。

 気づかないようにしているつもりかもしれないが、デレっとした表情で私の尻尾とかを見てきている。

 正直気持ち悪い。

 だがそれ以外のことに関しては、行動が面白く、見ていて飽きない。

 ........今の所は、命までは奪わないであげることにする。


 



ーシルンたちと会い、冒険者襲撃事件の後ー


 私は未だにアキラとともに行動している。

 そして、どうやら私は.........



 アキラが好きらしい。


 やっぱりアキラと一緒にいると楽しい。

 意味不明なことはたくさんするが、嫌がることは絶対にしない。

 .........絶対ではなかった。

 シルンや11ちゃんズに対して無理やり迫った時は、武力行使(暴力)を行うこともあった......。

 

 好きになった最も大きなきっかけは、冒険者襲撃事件だろう。

 アキラは襲撃の時、ボロボロになりながらも戦ってくれた。

 怖かった。

 そして痛かった。

 そんな時に力を使い、私たちを守ってくれた。

 かっこいいと思った。


 そんな姿を見てから、私は自分の『過去』でさえどうでもよくなってしまった。


 アキラは私のことどう思っているのかな?

 アキラは今何してるかな?

 アキラはどんな異性が好みなのかな?

 そんなことばっかりを考えるようになってしまった。


 にもかかわらず、エンゲージをしなかったのには理由がある。

『王』は『メンバー』に絶対命令権があるからだ。

 つまり、もしアキラが


「桜さん、『命令です』。

 僕のそばに寄らないでください」


 こういったら、二度とアキラには近づけない。

 私はそのことを想像してみた。


 悲しい、寂しい、辛い........。

 そんな感情が溢れ出して私は胸が苦しくなった。

 とてもじゃないが耐えられない.......。


 だから私はアキラがそんな人ではないと思いながらも、エンゲージをしなかった。

 アキラの心変わりが怖かった。

 そして何より、私はアキラに対して暴力をふるってしまっている。

 他のみんなのことは大事にしても、私だけは捨てられるかもしれない.....。



ールートベルト・バトルコロシアムの日の二日前ー


 私はアキラに対しての態度に揺らぎが生じていた。

 甘えたい.......けど、エンゲージはしたくないから甘えすぎてはいけない......。

 こんな感情だった。


 でも、ついつい我慢できずに、夜一緒に寝ること((みんなで))を約束した。

 アキラとの夜.......。

 想像するだけでワクワクした。

 もしもアキラに、エンゲージをして欲しいって言われたら断れないかもしれない....。


 怖いけど、でもアキラのメンバーにならなってもいい!


 私は覚悟を決めて、(アキラ)を待った。



 .........アキラが時間になっても帰ってこない。

 まさかルートベルトに捕まってしまったのでは?

 それとも何か他の事件に巻き込まれたんじゃないか?


 私はすごく心配した。

 すごくすご〜く心配した。

 宿の入り口でずっと立ったまま待っていた。

 あまりにも遅いから、探しに行こうと決意した瞬間だった。


 アキラが『シルン』と『手をつないで』、『ニヤニヤしながら』帰ってきた。

 

 私の中でいろいろな感情がごちゃごちゃになった。

 その中で特に大きな感情は、安心と怒りだ。

 安心は、アキラとシルンが危険な目に遭っていないことに対してだ。

 怒りは、約束を破ったことと、シルンとイチャイチャしていることに対してだ。


 安心はした。

 だけど行動に出たのは怒りの方だった。

 怒りは『拳』に変身(トランスフォーム)した。

 

「遅いじゃないっ!!」


「ち、違うんですグベホァッ!!!」


 ........アキラにまた暴力をふるってしまった。

 アキラに嫌われるかもしれない。

 そう考えたら、自分の感情がわからなくなっていた。

 そして感情の赴くまま、アキラに甘えて(どついて)しまった。




ー次の日ー


 アキラがふさぎ込んだ。

 布団にくるまって出てこない。

 シルンや11ちゃんズが必死で慰めていたが、顔を見せてくれない。

 やりすぎちゃった、テヘッ☆

 で済む話じゃない!

 

 だから私は、アキラに誠心誠意謝り、尻尾や耳を触らせた。

 乱暴される覚悟もしていたが、すっごく優しかった。

 あまりの気持ちよさと、『嬉しさ』で涙が出た。

 

 そして私はアキラが大好きになった。


 


ールートベルト・バトルコロシアム開催日ー


 私とシルンがアキラと合流すると、

 アキラがルートベルトに押さえつけられていた。


 シルンの武器(ロケラン)によって一度は救えたが、すぐに私とシルンはやられてしまった。

 

 炎の魔法で全身に傷を負ったが、それよりも、アキラの『手助け』が全然できなかったことが嫌だった。

 自分の無力さが恨めしかった。


 理由は不明だが、ルートベルトは私たちを回復させた。

 そしてアキラを走って追いかけていった。


 少しの時間が経つと、歩けるようになった。

 だからすぐにアキラのところに向かった。

 ルートベルトは強い。

 アキラが私の力を求めているかもしれない。

 そう考えると、早足になった。


 そして案の定、手助けが要るような状況だった。


 アキラの近くにい(役に立ち)たい!!


 私はその一心で、アキラに駆け寄った。

 そして、


「アキラ......お待たせ。

 


 .........エンゲージ!」


 

 自分の覚悟(エンゲージ)を口にしていた。




獣人月歩のサブタイトルの一部を変更しました。

度々申し訳ない!


ポケ◯ンみたいなネーミングになってしまいましたが、数字だけだとつまらないと思ってしまいました!


ただ今度は統一感がなくなってしまい.......


サブタイトルって難しいですね!


次回、コロシアム編完結か!?

アキラはいつまでルーちゃんを抱いているのか!?お楽しみに!!


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