1−31 獣人月歩 7
31話です!
「炎柱!!」
ルートベルトの声がバトルドーム内に響いた。
その言葉をもう何度聞いたかわからない。
「......ハァ.....ハァ......ハァ......」
僕はまさに満身創痍といった状態だ。
お腹には剣が刺さり、ドレインを多用して体力がもう底をつきかけているのだ。
ほとんど気力だけで、ドレインを続けているような感じだ。
けれども、魔晶石の中の魔力は貯まる気配が見えない。
おそらく消費量と供給量が拮抗しているのだろう。
「........アキラ、もうやめたほうがいい。
僕は医学に関してはそこまで詳しくはないが、
君の出血量は、本来死んでもおかしくない量になっているよ。
『切り札』はもうないのだろう?
なら大人しく僕の言うことを聞いてくれ、アキラ」
「.......だいじょうぶ.....です....。
もう少しで、......勝てます.........」
現在僕は、ルートベルトを翼と腕で拘束し、魔晶石の暴発による自爆による勝利を狙っている。
僕はジャッジメント・レイ以外の魔法が使えず、ジャッジメント・レイも発動できない。
魔晶石は、許容量を超えた魔力量を蓄えることはできず、無理に溜めようとすると、中の魔力が一気に溢れる。
これを魔晶石の暴発と言う。
ルートベルトの体内の魔力を与え、イユの時のように暴走させる手も考えたが、魔晶石の魔力の干渉でうまくできない。
その上、ルートベルトは、ほとんど魔晶石の魔力で魔法を放っており、魔力は実質無尽蔵だ。
なら、状況は絶望的か?
いいや、違う。
..........と思う。
なぜなら僕は、『切り札』をあと二つ用意していたからだ。
そして、そのうちの一つの用意ができたようだ。
「「「「「「「エンゲージ!!!」」」」」」」
バトルドームの外から大きな声が届いた。
観客席の上には、たくさんの獣人達がいて、一斉にエンゲージと叫んでいた。
そして、白い光が僕と獣人達の間を行き来し、鎖のような形なってから消滅した。
「マスター、お待たせにゃ!!」
11ちゃんズの団員全員が揃って観客席上に登場した。
どうやら、作戦は成功のようだ。
後で褒めてやろう。
『切り札』の一つは、僕のメンバーの大幅増加による能力アップだ。
この大会には、200人以上の獣人の奴隷が集まっている。
『王』はメンバーの数、質に応じて強くなれるという便利な能力がある。
獣人が100人集まっても倒せない相手でも、獣人の『王』とそのメンバーの獣人99人ならどうなるかわからないのだ。
問題なのは、獣人たちの説得なのだが、ルイたちがよくやってくれたようだ。
ただ..........
「男だぁ〜.......本物だぁ〜......グヘヘヘヘェ〜.....」
「おさわり自由.....おさわり自由.....おさわり自由......」
「.......早く.......『ヤ』りたい......えへへぇ〜......」
などなど、怪しげな言葉たちが発せられていたのはどうしてだろうなぁ〜?
........もしかしたら、もっとピンチになってない?
どちらにしても、『今』は助かる。
体の奥から力が湧いてくるような感覚がある。
「ありがとうございますッ!!
必ずこの恩は返しますんで、安心して待っていてください!!」
僕は大声で獣人たちに叫んだ。
すると、
「「「「「「「キャァァ〜!♡!♡」」」」」」」
ハートまじりの黄色い声援が返ってきた。
よくアイドルが登場した時に聞こえるような声だ。
う、うれいいのだが.........少し恥ずかしい。
その瞬間、殺気のようなものを感じた。
ル、ルーちゃんが......オコオコになっていらっしゃる.......。
「『僕の』アキラにおさわり自由だってぇ〜!?
いい度胸じゃないかッ!!
ならばよろしいッ!!SENSOUダッ!!」
そう言って、観客席に魔晶石を向けようとしていた。
「だ、ダメです!!落ち着いてください、ルートベルトさん!!」
僕が羽、腕を使って拘束を強化し、ルーちゃんの腕を動かないようにした。
「もう.....アキラったら.....そんなに僕を求めるなんて.....。
僕はなんて罪な『女』なんだろう?」
今、『女』って言っちゃったよ!!
やっぱりルー『ちゃん』だったか!!
それと、セリフがわざとらしい!!
最後にいたっては棒読みだし!!
でも全く力を弱めてくれない。
「ル、ルートベルトさん......そのぉ....力を弱めてくれませんかねぇ?」
「いやだねッ!!
.......でも、もしアキラが僕のことを.......その.......
『ルーベル』と呼んでくれたら......考えてあげるよ......」
僕はなんとなく、そうしてあげたいと思った。
「ルーベル......手の力を抜いてください」
「は、はいぃ........」
そう言って全身の力を抜いた。
可愛い......とか思ったり、思わなかったりした。
だが、今は敵同士!!
このスキを見逃さない僕ではない!!
........後で、本当に教会行って懺悔してくる........。
「『天界の壁』!!」
僕は全力で周りの魔力を取り込み始めた。
「ア、アキラっ!?
卑怯だぞ........いや.....卑怯です....。
少し待て.......いや、待ってください......」
ルーベルの語尾がおかしくなっていた。
「今は敵同士です!!
僕はルーベルの敵なので、手加減は必要ありませんよ!!」
正直まだ疲れが十分に残っており、今すぐに横になりたいが、気力で我慢中だ。
とは言っても、以前とは段違いに力、魔力などの能力が上がっており、魔晶石にすごい勢いで魔力が溜まっている。
「そうか.....わかった!!
僕も本気で抗わさせてもらうよ!!
炎柱ッ!!」
どうやら調子を取り戻したらしい。
........変なこと言わなければよかった。
急に魔晶石の魔力の溜まり方がゆっくりになったが、それでも少しずつ溜まってきている。
「フンヌゥッ!!フンヌゥッ!!フンヌゥッ!!......」
僕は、詠唱とかを忘れて、ひたすらに魔力を魔晶石に送っていた。
「フレイム・ピラーッ!!フレ・ピラーッ!!フレピーッ!!.......」
ルーベルは詠唱をだんだん省略して、最後には、柿のた◯の愛称みたいになっていた。
でも、その破壊力は馬鹿にはできず、周りの地面にはクレーターのようなものがいくつもできていた。
しかし、そんな状況も長くは続かなかった。
突然、僕の視界がグラグラし始めた。
とてつもない吐き気、脱力感を感じ、息が上がってきた。
おそらく力の使いすぎで、体がおかしくなっているのだろう。
「....ハァー....ハァー....クッ!!」
それでもなんとかドレインを続けていると、
「アキラ......お待たせ」
桜の声が僕の背後から聞こえた。
「........エンゲージ!」
桜が、何かの決意をした表情で言った。
アキラは、『天界の壁』の略称ををアブソーブ、ドレインのどちらでもいいと考えているらしいですよ!
次回、桜編!!
桜の暴力の秘密とは!?お楽しみに!!