1−3 異世界草原でのひと時
異世界突入です!
「......ん」
アキラの意識は、草原の上で覚醒した。
「やっと起きましたか」
声の主を探ると、数メートルの距離を置いてたたずんでいる女性がいた。
程よく凹凸があり、女性らしさがありつつも、凛とした佇まいや、先程聞いた声の感じからして芯の強そうな美人であった。
ただし、頭からは金色に近い茶色の耳、腰からは尻尾が生えていた。
髪も尻尾と同じ色で、短めに揃えられている。
じゅ、獣人だ!!
まさか起きたら目の前に獣人がいるとは思わなかった。
あの女神様(仮)もなかなか気さくなことするじゃねぇか!!
えぇ〜と......まずは挨拶.......。
「好きですッ!!付き合ってくださいッ!!」
マチガエチャッタナァー.....。
僕がそう言うとその女性は、まるで腐ったヴァナナを見ているような表情になった。
そして、
「.........やだ」
も、もう少しオブラートに断ってくださるとありがたいのですが.......。
『やだ』ってひどくない?
人生初の告白の返事がたった二文字で断られたよ!!
んん〜?
そういえば僕、この人とどこかであった気がする..........。
ピンポーンッ!!
「もしかして、桜さんですか?」
「..........ええ、そうよ。
見た目が全然違うのによくわかったわね。
さすが、私を執拗に追い回しただけはあるわ」
「うぅ......。その節は申し訳ないです。
そのせいで君は.......」
「今のところはその話は置いておいてあげる」
「ありがとうございます」
「それより、敬語を使うのはやめてくれない?
なんか違和感を感じるわ」
「...........僕は敬語でしか話せない呪いをかけられてしまったんです。
........しかも詳細不明な理由で」
後で、あの女神(仮)の顔面を殴る!
僕はそう誓った。
「......そのままでいいわ」
「ありがとうございます。
僕の名前は、アキラです。呼び捨てで構いません。
よろしくお願いします、桜さん」
「.........よろしく、アキラ」
ゆらゆらと桜の尻尾が揺れていた。ひとまず安心してくれたようだ。
安心させて、信頼を勝ち取り、後でもふもふさせてもらおう......グヘヘ。
「.........」
そんなことを考えている僕の顔を、桜は無表情でじーっと見ていた。
「......さ、さて、これからどうしましょう」
アキラは、慌てて話題を変えようと、無難な話を持ち出した。
そして、改めて周りの風景を見渡した。
周りには穏やかな傾斜の草原が広がっており、おそらく人が通るためのものと思われる、草が少し剥げただけの道があった。
「私はあまりこういった状況に詳しくないから、あなたに判断は任せるわ」
さっきのことは、見なかったことにしてくれるらしい。アリガタヤァ。
さて、本当にどうしましょう。選択肢を挙げてみよう。
1,適当に道を突っ走る
2,誰かが通りかかるのを待つ
3,桜をもふる
桜がこっち見ていた。わかったよ。3はなしの方向で考えよう。......本当にダメ?
「ダメよ」
うっそだろ、おい!心の声まで読むとか凄すぎだろ。獣人スペック高えェ。
まあ、冗談はやめて、二択か......自分の思考能力の低さが恨めしい。
1はハイリスク、ハイリターンだ。最悪めちゃくちゃな距離を歩かなくてはいけないが、その分、誰かが来るのを待たなくてもいい。
2はここで待っていればいいので、楽だが、いつ誰が来るかがわからず、不安である。
..........そういえば、獣人って立場悪いんだよね?なら、奴隷商人なんかにあっちゃったら、完全にアウトだよね?即奴隷、即人生真っ暗......。
それは困る。大変困る。
特に僕には羽がある。ここの生物に詳しくはないが、おそらく僕は稀少性の高い個体であろう。かわいいし、かっこいいし......。
......ナルシストじゃないよ......。
つまり、お偉いさんが目をつけて、メスだと勘違いして、夜の玩具として使われて.........
アアアアアァァァァァ〜〜!!!
いやだいやだイヤだ!
まじでそれは勘弁してくれ。
「アキラ......人の匂いがする......。
あと動物の匂いも.......」
桜が鼻をクンクンさせて教えてくれた。
かわいい......。
そうじゃない!
つまり、獣人を連れた奴隷商が接近中ってことですよね、わかります。
.......ヤバい。
どどどどどどどうしよう!?
そうだ、隠れよう.........あ、無理だわこれ。周りめっちゃ開けてるもん......。
........うぅ〜.......
この羽がいけないんだ!あと耳!尻尾!
引っ込め!引っ込んで!引っ込んでください!引っ込んでください、お願いします、なんでもしますからぁ〜!
ポンッ
そんな音がして、耳、尻尾、羽が消えた。
よっしゃぁ!オラァ!
そして、いつの間に近づいていたのか、馬にまたがった奴隷商人........
ではなく、ただ単なる行商人のおっちゃんがあらわれた......。
で、ですよねぇ〜。
イヤイヤ慌ててねえしぃ〜。これっぽっちも動揺なんかしてねぇし〜.........。
......すみません。めっちゃ慌ててました。
まあなんであれ、こうして人と出会えたし、結果オーライってことにしましょう。
.........そうしましょう。
「あの、すみません。少し道をお尋ねしてもよろしいですか?」
「んん〜?冒険者ってわけじゃなさそうだけど......。
どうしたんだい、おネェさん?どこに行きたいんだい?」
おネエさんじゃねえよ!お兄さんだ!
見た目から性別判断しにくいのは認めるけど!
「プッ!.........ククク..........」
そこ!桜さん!笑ってるの聞こえてますからね!
まあ、落ち着け。ここはクールにいこうじゃないか。
改めて質問質問っと。
「ええっと、ここから一番近い街です」
「あぁ〜。それならコルメシオだね。
それならあっちだよ」
「どうもありがとうございます」
「よくわからんが、気をつけるんだよ〜」
「はい、では先を急ぐので」
そう言って、手を振り桜とともに歩き出した。
「後で尻尾とかのしまい方教えなさいよね、おネェさん」
「ムゥ〜。そんなこと言う人には教えません」
「ごめんごめん。でもまあ確かにすっごく綺麗で、女の人っぽいけど、
それとはまた別に、男としても.....その........かっこ...いい....よ」
ははぁ〜ん。これは早速デレて来ましたね。もうひと押しでもふもふさせてくれそうです。
頑張りましょう!エイッ!エイッ!オー!
「そ、そんなことより!早く尻尾のしまい方教えなさい!」
桜は尻尾を逆立ててる。
おっと、これはまずい。恥ずかしさのあまり逆ギレされておられる。
「わ、わかりました。でも、どうやって出すんでしょう?
ん〜......。えいや!」
ぽふっ
そんな音がして、再び生えてきた。
どうやら特定の部位に意識を集中させて、イメージさえすれば、出し入れが可能らしい。
出し入れの瞬間がどうなってるかは、乙女の秘密です。
桜に教えたが、できないようだった。
「あなたの教え方が下手くそなのよ!」
そう言ってすねてしまった。
こうゆうところも可愛いなぁ〜。もふもふしたいなぁ〜。おっといけない。早く姫様のご機嫌を取り戻さなくては。
そのあと、桜の機嫌を直して、話をした。前よりもくだけた感じで話ができて、楽しかった。
そうこうしてるうちに、街に着いた。
街の名はコルメシオ。世界各国からいろいろなものが集まる商業都市。
もちろん獣人の奴隷もたくさんいるのであった。
桜ちゃんの服装はアキラと同じですが、首輪が青、アキラは赤です。
ペアルックです。
桜は160、アキラは170ぐらいの身長です(耳抜き)