1−22 星下のシルン
22話です!
今、僕たちがいる場所は、この街、コルメシオの比較的中心に近い場所だ。
忘れているかもしれないが、この街はすんばらしく高い建物がわんさか建っているのだ。
ただし、それは街の中心近くに集中していて、街の比較的外側には、一階建ての建物もたくさんある。
なぜ僕たちが中心近い場所にいるかって?
理由は二つ。
一つ目は、『買い物』のためだ。
コロシアム襲撃に必要なもの、具体的に言うと、僕とシルンの装備を買うためだ。
他に必要なものは、みんなが揃えてくれるらしい。
あとで、ご褒美としてもふもふしてあげよう!
.........今夜も、楽しめそうだゼェ〜.......。
いけないいけない。あんまり妄想していると、シルンに変な顔って言わr........。
「......変な顔.......」
れちゃった。
「......ちょ、ちょっと買い物が楽しみすぎて、にやけちゃっただけです!
決して夜のこととかを想像していたわけではないですよ!」
なんでだろう......。
これじゃほとんど答えを言っているようなもんじゃないか.......。
きっとあれだ。僕はアホの子だ。そうに違いない。
.......言ってて悲しくなってきた。
「.......そんなに....『私との』夜.....が、........楽しみ....?」
あぁ〜、そういえばシルンは、ものすごいポジティブな娘だった。
なら、この流れに乗るしかねぇ!
「はい!もちろんです!
ものすっごく楽しみです!!」
「......もう......アキラったら.........ポッ.....」
ちょろいぜ☆
.......あとで教会に行って懺悔してくる........。
僕たちがここにいる理由のもう一つを説明しよう。
こっちの方が『僕にとっては』、重要だ。
それは、街の中心に行くほど.........
.....デートスポットが増えて、豪華になるからだ。
つまり、僕がここにいる理由の大半が、シルンとのデートを楽しむためである。
許せ、みんな......。
これは、あくまで英気の補充だ。必要不可欠だ。
わかってくれ......キリッ。
「シルンさん、どこ行きますか?」
「.........ぷいっ......」
シルンがそっぽを向いてしまった。
「えっ!?ど、どうしたんですか、シルンさn..........あっ!
ごめんなさい、シルン.......」
ついついシルン『さん』と言ってしまっていたのだ。
「.......わかればいい........」
表情がにこやかなものに戻った。
機嫌を直してくれたようだ。
すっごい美人だ......。
ついついシルンの顔を凝視してしまった。
やばい!そんなに顔をまじまじ見たら、変だろ!
何か話題を変えて.......と?
「あ、あそことかどうですか?
えぇ〜と『鉄鋼クレープ』......なんて......」
ごめん、シルン。
なんかいい匂いがしたから適当に選んじゃった。
そこには、馬車の一部を改造して商品を出している店があった。
客は少ないようだ。空いている。
何だよ!『鉄鋼クレープ』って!
鉄鋼とクレープってイメージ違いすぎんだろ!
と、僕は内心ツッコミを入れていた。
「........アキラが.....いいなら.......」
シルンやさしぃい。
撫でてやろう。ナデナデ......。
「.........ん〜.....」
ご満悦のようだ。おっと、鼻血が......出てなかった。
でも、ちょっと気になる。『鉄鋼クレープ』。
見てみよう。
「へい!らっしゃい!!」
そう声を出したのは、頭に三角巾をつけた青年だった。
意外だなぁ〜。いつもの流れだと、変なおっさんが出てくるんだけどなぁ〜。
「あのぉ〜、ここってクレープの店ですよね?」
「ああ、そうだよ!
でも、単なるクレープじゃあないんだ!
ここでは、クレープに鉄鉱石を入れて焼いたものを出しているんだ!」
確かに店には鉄板が付いていて、今まさに、クレープが数個焼かれている最中だった。
「カリッとしていて、うまいぞ!
どうだい、おねぇさん!そっちのお嬢さんも買っていかないか?」
いやいやいや......。ちょっと待とうか、お坊ちゃん。
それは、カリッとじゃなくて、ガリッとするんじゃないのか?
ツンツン.....
シルンが食べたそうにこっちを見ている。
「二つ買います」
シルンの可愛さに負けた。後悔はない。
「まいど!!
うまかったら、みんなに広めてくれ!
俺は将来、絶対この商品で世界を取ってやるんだ!」
何かすごい目標を持ってらっしゃるのね......。
値段は、二人で40Wだった。安いのかな?まだよくわからない。
「わかりました。
みんなに広めておきます」
味はともかく、話の種にはなるだろう。
「そういうセリフは味を見てからにしてくれ!」
か、かっこいい、と思った。
よっぽど味に自信があるのかな?
僕も料理したらあんなことを言ってみたい。
「できたよ!ありがとうございました〜!!」
僕とシルンは、手を振って青年と別れた。
近くのベンチにがあったので、そこに座った。
もう夕方って感じだ。
「美味しいですね!」
「........ん.....美味しい.....」
外側の生地だけカリッとしていて、内側は普通のクレープでもちっとしている。
全然鉄っぽさがしない。
しかも、鉄分豊富.......本当に鉄鉱石入ってんのかな?
今度自分でも作ってみよう。そしてみんなに食わせよう!
僕がバナナクレープで、シルンがイチゴクレープを買った。
味の種類は、この二つしかなかった。
「........あ〜ん.....」
シルンが、口を開けていた。
そうか〜、シルンは僕の『白くてベトベトしたもの』が食べたいんだなぁ〜。
仕方のないやつだなぁ〜。
ほら、よく味わって食べるんだぞ〜。
「......パクッ.....」
シルンが.......食べた。
ゴクリ
僕は唾を飲み込んだ。
「ど、どうです?
お、お味は?」
「.......甘くて.......美味しい......」
『僕のもの』は、甘くて美味しいらしいです。
シルンに食べられちゃウゥ〜。
とまあ、冗談はここまでにして、
「シルンのやつも、僕にください」
「............あ〜ん........」
パクッ
普通にイチゴの味がした。シルンの味はしなかった。
「.........美味しい?......」
「はい、もちろんです!」
「......それは、......よかった......」
クレープを食べ終わり、シルンと道具屋に寄った。
特に何事もなく済んだので、買ったものだけを紹介させてもらおう。
○アキラ
刀、ハイポーション、マジックポーション。
○シルン
ダガー、ハイポーション、マジックポーション。
ね!何事もないでしょ!
基本的に戦闘補助の小道具は、11ちゃんズが揃える手筈担っているため、武器ぐらいしか買う必要がないのだ。
防具は?と思うだろうが、シルンのお店で買ったものは、冒険者用なので買い足す必要はない。
武器は、耐久性があるものを選んだ。
結構いい値段がしたので、いい感じのものなんだろう。
マジックポーションは、魔力を微量回復させるものだ。
戦闘中使うこともあるが、すぐには効果はないため、適度に飲み続ける必要がある。
買い物が終わり、もう帰る予定の時刻が迫っていていた。
星も見えてきて、もう夜って感じだ。
この街の中心部の周辺には、川のようなものが流れている。
中心部をぐるっと囲うように作られた、人工的な川だ。
現在その川の上の橋にいる。
「いやぁ〜、もう今日が終わっちゃいますね。
僕的には、もう少しシルンとデートしていたかったんですけどね」
「..........」
シルンが、複雑そうな顔をしている。
僕.......ちゃんとシルンって言ったよね?
「どうしたんですか?」
「...アキラは、本当に『計画』を実行するの?」
シ、シルンが『普通に』喋っている!!
ちょっとぎこちなさが残っているけど。
「シルンさん!いや、シルン、その.....喋り方が.......」
僕は、慌てながら口調について指摘した。
「...多分こっちの方が、本来の喋り方だと思う....」
それから、シルンが昔話を始めた。とは言っても、十数年前の話だけどね。
それによると.......
シルンの母親は獣王の一人らしい。
獣王とは言っても、現在存在する獣王の全ては人類に隷属関係にある。
そして、人間との間に生まれたのがシルンだ。
普通、生まれてすぐに獣人の子どもは奴隷となる。
しかし、母親の王の力である、『転移』の力を使い、王の権限と共にシルンは遠くに逃がされた。
とは言っても、まだ子供。
右も左もわからず、餓死しそうになっていた。
そこで、シルンが経営している服屋の以前の持ち主の獣人に拾われた。
この時点では、自分の母親が獣人の王であることは知らなかったが、自身の力が覚醒した時にどういうわけか、察せたらしい。
そのため、シルンはまだ未熟だが『転移』の能力が使える。
数年後、服屋の獣人は、病気で死んでしまったそうだ。
そして、年月が経ち、服屋を受け継ぎ、今に至る。
喋り方は、口調がたどたどしい方が奴隷らしさを醸し出し、獣王との関係性を疑われなくするためらしい。
今となっては、その喋り方の方がしっくりきているらしいが。
「...アキラは『計画』を、本当に実行するの?」
シルンがもう一度聞いてきた。
おそらく、獣王ですら人類に支配される世界で、
実質上の、獣人独立計画を実行するのかが聞きたいのだろう。
普通に考えて、実現不可能な目標なのだ。
だが僕は、間をおかずに答えた。
「はい!もちろんです!」
「....『計画』の内容に間違いはない?」
「『相手の事情に関係なく、
すべてのもふもふちゃんを僕の手中に収め、
もふもふする計画』です!!
これは未来永劫変化しませんし、僕が存在する限り続けます!」
アキラは、熱意に溢れる眼差しで語っていた。
「.......よかったぁ......」
シルンの口調が元に戻っていた。
やっぱりこっちの方が安心する。
「当たり前じゃないですか!!
僕がこれ以外の目標を持つと思いますか!?」
「......それは......ない......。
......やっぱり.....私のますたーは、.......アキラしか.....いない......」
「それも当たり前です!
シルンを何処の馬の骨わからんやつには渡しません!!
何処の馬の骨かわかっても渡しません!!」
「........ お父さんみたいな.....セリフ........」
「えぇ〜!
そこはせめて、『お兄さん』ぐらいにしてくださいよぉ〜!
もしくは、『夫』でもいいんですよ♪」
「......マイ....スィート....ダディ..........ポッ......」
「ありがとうございます........ん?
それって、やっぱりお父さんじゃないですか!?
そのセリフ言ったら、ファザコンじゃないですか!!」
クスクスッ....
シルンが笑っていた。
僕も笑った。
正直、シルンの身の上話には、一言も二言も言いたいことはあったが、
それと僕の計画の話は別だ。
僕は、実現可能かどうかで、目標を定めていない。
やりたいかどうかで決めている。
だから僕は、誰の前でも100年後も変わらず、この計画の内容を言うことができ、
それを行う意思があることを宣言できると確信している。
月夜の中、僕とシルンは笑いあい、少し賑やかな夜を過ごした。
そして、帰宅時間をはるかに過ぎていることに、僕たちはまだ気づいていなかった。
次回、バトルコロシアム開催するかもしれない!!.......です。
お楽しみに!!