1−2 白い神様(仮)と黒い王様
二話目です!
この話だけ少し長めになっています。
「だが、断る!」
白い獣人の女の子は、一瞬の間も置かずに、拒絶の言葉を口にした。
.........どっかで聞いたことのあるセリフだなぁ〜。
「だがまあ、その状態でよくしゃべれたものだ」
アキラは、自分の現状について確認した。
先ず顔もほとんど動かせず、視界が固定されている。
他の部位も感覚だけが残っているが、動かせない。
それに体がものすごく重くて、だるい。
超強力な筋肉痛の症状みたいな感じかもしれない。
姿勢は、壁にもたれかかっているような感じになっている。
この状態で出た言葉のことを思い出すと、さすがに自分でもおかしくなってきた。
「ふふっ、いきなり私をモフれると思うなよ。
これでも、尻尾のケアとかには細心の注意をしているのでな」
そして、自分の尻尾に対する愛情の素晴らしさについて語ってきた。
毎日、室温と湿度はきっちり同じにしているとか、乾燥に強くなるクリームを欠かさず塗っているとか、尻尾サロンでは、プレミア会員カードを持っているだとか..........。
正直うんざりするほど語っていた。
尻尾フェチなのか?きっとそうだ。そうに違いない。ただし、自分の、な!
ていうか、尻尾サロンってなんだよ!尻尾の美容を整える、とか?それどこにあるんだよ!ここ真っ暗じゃん!風景とかないじゃん!
「あっ!ドアはここにあるぞ」
そう言うと、何もない空間の一部に指をかけるような動作をした。
それを引くように動かすと、青空と草原の広がる空間が広がっていた。
そして、閉じた。
「どうして.........わざわざこんな場所を作ったんですか?」
「えっ?だって、異世界に転生する時って.........
こんな感じになった方が、雰囲気出るだろ?
転生者のみんなが言ってたぞ」
あんた転生者と知り合いなんかい!
ていうか異世界転生なの?異世界転生されちゃってるの?俺?
「そうだ」
というか、心の中の声が聞こえているのかな?
「正解だ。
あと、あんたじゃない。そうだなぁ...........私のことは、神さm」
「却下です」
「えぇっ!?却下?なんでぇ〜?」
「だってそれでは、あなたのことを神様って、呼ばなくてはいけなくなるじゃないですか。
なんか言ってて恥ずかしくなります」
「で、でも、.......この状況になったら.......自分のことを.....神様って言っても問題ないって....みんなが......言ってたの............。
それで......頑張って、黒い箱とか.......作ったのに.......ぐすん.......」
ぐすんとか言っているが、『こいつ』泣いてないぞ!むしろ笑ってる!
「さ、さすがにこいつ呼ばわりはやめてくれ!」
「じゃあ、神様(仮)で」
「カッコ仮、取ろうか?」
神様(仮)がなんかいってきた。神様(仮)の眉が少しピクってなってる。神様(仮)がなんか怒ってる。神様(仮)が涙目になってる。神様(仮)が、..........
「そこまで言わなくても.........ぐすん.......」
嘘泣きやめい!
「チッ!」
舌打ちすんなし!ペッ!
「そっちだって、心の中でつばを吐き出しているではないか!」
ただ単に、心の中でペッて言っただけですぅ〜。つばなんて吐いてませぇ〜ん。
「このぉ!!」
いるよねぇ〜、すぐに逆ギレするやつぅ〜。
あ.......いやいや、訂正訂正。
確かに、心の中でつばを吐きました。申し訳ない。
だからさ、その手に持った、チェーンソーおろそうか!
「何か言うことは?」
ご......ゴメンナサイ(棒読み)。
「心がこもってない。それに口に出せ」
チィィ!!ペッ!
ギュイィィィン!!(チェーンソー)
「申し訳..........ありやっせんでしたぁ〜!!」
心の中で、土下座もした。
体は動かなったけど。
「仕方ないなぁ〜、そこまで言うなら、許してやらんこともない。
感謝するのだぞ。ハッハッハッハッハ!」
ほ〜れ、これだからお子様は、すぅ〜ぐ調子にのるぅ〜。
かんちゃちますよぉ〜。よちよちぃ。
ギュィン!!ギュイィィィィィン!!(チェーンソー)
ゲッ!!しまった。
こ、心の中読むのって、ずるくない?
体も動けないのに、どうしろと?
「さあぁ〜て、君の血はぁ〜.............
何色なのかなぁァァア!?」
「マジですみませんでした!!
誠に反省しております。なにとぞ、なにとぞ命だけは、お救いください!!」
多分、今、生まれて初めて、心の中から謝ってる気がする。
やっぱり、『命だいじに』だよね!
「全く、まだ軽愚痴を叩けるとは..........。
まあいい。なんでもいいから、話を進めせさせてくれ」
ふぃぃ〜。どうやら、首の皮はまだ繋がっていけそうだ。
アァ〜、メガミサマダナァ〜(棒読み)。
「そんなに、首が体とおさらばしたいのかぁ〜?
んん〜?」
あぁ〜、あなたはなんとお美しいのだろうか。女神様とはあなたのことだったのか。
「ふんっ!それでいい」
心頭滅却、心頭滅却、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、ナンマンダァ、ナンマンダァ...........。
「...........まあ、良しとしよう。
まずこれを見ろ」
そう言って、女神様(仮)は、大きな鏡を指ぱっちんで出した。そして、ドヤ顔した。
いや、.............そういう演出いらないから。
そういうと、残念そうな顔をしていた。
鏡の中を見てみると...........
黒みがかっている濃い紫の肩にかかるぐらいの長さの髪、
薄い赤紫と黒のオッドアイ、
そして、髪と同じ色の耳、尻尾、
そしてモコモコに毛が生えた翼を持つ、
人の面影を濃く残す生物が映っていた。
「これが、お前の新しい体だ」
イヤッフィィッ!!獣人だゼェ!!
しかも女だ!!
なおかつ美人!!
異世界ライフ楽しめそうだぜ!!
.........でも待てよ。本当にこれが俺の新しい体なのか?
この女神サ〜マが嘘言っている可能性もある。
どうにかして動かせないかな?
........おぉ〜!顔の表情自由に動かせる。ひとまず顔筋だけは、自分のものだな。
「何をやってるんだ。まったく.....。
それに、その体は男だ」
なん......だと!
「.............マジですか?」
「マジだ。
これにも訳がある。
話をできるだけ手短に話すぞ。よく聞け」
僕は、事故によって死亡。その後、この体に転生させられた。この体は、特殊な獣人のもので、「王」の権限を持っているらしい。
「王」とは、自分の配下を集め、支配する者のことだ。僕はその「王」になれるらしい。
この世界では、人類種が圧倒的優勢である。と言うのも、勇者を召喚しまくり、魔物や、魔族を狩りまくり、安定した生活基盤を築き、異世界の知識を利用し、すさまじい性能の道具を量産したからだ。
さらに、魔族を追い出しただけでは飽き足らず、他の種族も征服しだした。
そこからは早かった。あっという間に、他種族の王のほとんどを属王(服従させた王)として、配下にした。
他種族から、財、人、技術を奪い取り、人類種はさらに発展した。もはや、誰も人類種に刃向かうことができなくなってしまったのだ。
そんな中、最も立場が弱いのが獣人種だ。身体能力は高いが、技術力は高くなく、人類種としては利用価値が奴隷以外に見いだせなかったのだ。従って、時代が進むにつれて立場が弱くなっていき、次第に人類からは「モノ」として扱われるようになった。
そんな状況が200年余り続いた現在......
獣人種は、女だけの種族となった。これは、男である価値がほとんどなくなり、女である方が待遇が良かったが故の進化であるとするのが一般的である。
このことから、いかに獣人の扱いがひどいかは容易に想像がつくだろう。
このことを憂いたこの女神様(仮)は、以前から「異世界人獣人化転生計画」を行っていて、実際に何人もの転生者をこの世に送り出しているらしい。しかし、皆挫折するか、途中で死亡するかのどちらかで、成功していないんだそうだ。
そこで偶然見つけたのが、アキラであり、「こいつなら挫折はありえないし、面白い性格をしてるから、掛けてみるか」と考え、ありったけの力で転生させたらしい。
..........最後に、一人称が「僕」になっているのは、女として扱ってもらったほうが都合がいいことが多々あるから、「僕」ならギリギリごまかせるだろうという配慮だそうだ。
ただし、思考の中までは、統一されてはいない。
まあ、でも統一されてないと違和感感じるから、統一する方向で行くけど。
ボクっ娘(嘘)に違和感ない人間がどこにいるんでしょうね〜?
その配慮.........いる?
「面白いからって言ったら、怒るだろ?」
...........くそが!
「ほらみろ、言わんこっちゃない」
中性的な容姿(明らかに女性よりな見た目)も同じ理由だそうだ。
他にも、何気に口調が敬語になっていたり(頭の中はその限りではない)、自分の名字が思い出せなかったり、その他もろもろあるそうだが、説明は省くそうだ......。
拒否権もないそうだ......。解せぬ。
「とまあ、こんなもんだ」
説明が足りない部分があるよな?
「.........」
無視してきやがりました!コンチクショウ!
「........最後に、一応言っておく。
アキラ一人の力で、獣人種が救われるとは考えていない。
だから、そこまで気負わずにこの世界を満喫してこい」
最後にいいこと言った風になってるが........女神様(仮)の顔を見てくださいよ。
ドヤ顔ですよ!ドヤ顔!
後ろにドヤァ〜って文字が見えるくらいの顔してるよ!
「............」
気まずい沈黙が少々。
まあでも、いろいろわかったし、気負わなくていいそうだから気楽だ。
「そろそろ実際に行ってもらうが準備はいいか?」
女神様(仮)は、尋ねた。
「もちろんです!」
僕は答えた。本当に敬語しか言えなくなってる.........。
そんなことより、早く生獣人を見てみたい!
そんな気持ちでいっぱいになっていた僕は、異世界生活が待ち遠しかった。
次の瞬間、自分の中から光が溢れ出して......
アキラは、再び意識を失った。
「早く...........『私』を...........
助けてくれ、アキラ...................」
ちなみに、今のアキラの服装は首輪+ボロい服です。
ちなみに次回はヒロイン候補が出てきます。
お楽しみに!