四章 ~第三幕~
空けて翌日。俺はこれからの学園生活を過ごすことになる凪波高校、その職員室の前に立っている。
何故か制服が届いてなくて校門前で一悶着あったが、そこにいた恰幅な男の先生に案内してもらってここまで来れた。まぁ制服が違うことより気になる事があったので気に病むことはなかったのだが、それはいい。
案内してくれた先生は右奥の席に女の先生が座っているからその人に後は頼んでくれ、と言って校門に戻っていった。
あの口ぶりからするにその先生は俺の担任になる人なのだろうか。今回はちゃんとしないとなぁ。一応これから長い間お世話になる人なんだしな、その後にもクラスメイトとの出会いも待ってる。
なんだかんだ身構えてしまって少しばかり緊張してきた。俺がそうして職員室の扉の前で立ち止まっていると、不意に後ろからエリの声が聞こえた。
「――あれ?もしかして、キミも転校生?」
ん?なんでエリがそんな分かりきった事聞いてきてんだ?俺は振り返りながらその声に返事を返す。
「なんだよエリ、そもそもキミってなん……」
だがそこにいたのは宙に浮いているいつものエリではなく、凪波の制服を来た金髪のエリがいた。
「ンっ?エリってダレの事?ワタシはセイラだヨ?Nice to meet you!」
俺に挨拶を返してきた自分の事をせいらと言う女の子は屈託のない笑顔で手を振ってきた。
せいら?別人?確かに髪は薄い金髪だし目の色は薄いピンクだけど、その声はその顔立ちは俺がよく知っているエリそのものだ。心なしかちょっとだけ身長が高いかもしれないがそっくりだと断言していい。
そんな女の子が目の前で制服を着て地面に立って俺の目の前で挨拶をしている。
「……は?……んっ?いや、ちょっと待ってくれ。状況が理解できない。なんだ?なんでお前金髪になってんの?」
「ンン?ワタシ?ワタシはずーっと金髪だヨ?生粋のイギリス人でーす!」
「いやいや、イギリス人は"生粋"なんて日本語使わないから」
と、軽くいつもの如くツッコミを入れてしまったがどうやら本当に別人のようだ。じゃあその本人はどこ行ったんだと思い視線を横にずらすと、開いた口が塞がらないを体現しているご本人がそこにいた。よかった、コイツは浮いてるぞ。そうそうこれがエリだよ。
いつもの姿を見て少し安心したが、エリ自身はまだちょっと話せる様子ではないので。ひとまず俺は目の前にいるエリのそっくりさんと会話してみることにした。
「えっと、すまなかったな。知り合いにあんまりにも似てたからびっくりしたんだ」
「いえいえ、構わないんだヨ?きっとその子もワタシに似てキュートなんだね!」
「自分で言うのか、すげぇな」
すごい自身の塊、いやこれは天然なのか?まぁ嘘かホントかイギリス人って言ってたしそんなもんなのかな。
「じゃあ改めて自己紹介だね!ワタシの名前はセイラ=アンエリカ!見ての通りコテコテのイギリス人だヨ!気安くセイラとかセラって呼んでねっ!」
「だからさ、イギリス人は"コテコテ"とか"気安く"とか言わねーって。お前絶対中身日本人だろ?」
「あ、ばれちゃった?実は殆ど日本で育ったからイギリスとかよく知らないんだよね!あはは」
そう言って目の前のセイラはからからと笑った。はー、なんかエリと同じ顔がこれだけ明るく笑ってると変な気分だな。
「っと、俺の紹介がまだだったな。大神透哉、転校生だ。呼び方はなんでもいいぜ?」
「そう?んー、……じゃあトーヤ!」
っ……エリとおんなじ声で、まったくおんなじトーンで同じ呼び方をされたからビックリした……。まさかいきなり名前呼びされるとは思わなかったが、なんていう偶然だよ。
「お、おぅ。よろしく、えっと……セラ?でいいのか?」
さすがに名前を直で呼ぶのは気恥ずかったので略称なのか?こっちで呼ぶことにした。
「それで、セラはここでなにしてるんだ?あ、職員室に用事だったのか?」
「うん、まぁそうだヨ。多分トーヤと同じ用かな?」
「ん?」
その時職員室の扉が開いて女の先生が出てきた。その先生は俺達二人を見て口を開く。
「あ、もしかして転校生の大神君とアンエリカさん?」
「「はい」」
その問いかけに同時に反応する俺とセラ。
…………ん?
「皆さん初めましてッ!転校生のセイラ=アンエリカです!果ては生国イギリスから遥々やってきた正真正銘のイギリス人でござい!皆々様、よろしくおねがいしなさってくだせい!だヨ!」
俺達二人が転入することになったクラスの教壇の前でツッコミどころ満載な自己紹介をかますセラ。その物言いはウケ狙いなのか、後に控えてる俺のハードルが上がるのでやめてもらいたいのだが。
セラの紹介を受けてかわいー、とかきれー、とかホントに外人かあれ?とかいう声が聞こえてくる。まぁそりゃそんな感じになるよな。
「えぇ、っとじゃあ大神君も自己紹介を……」
「あ、はい」
若干困惑気味な担任の柏原先生が俺に次を促してくる。まぁ何だかんだあったがセラのお陰で緊張はほぐれてしまった。後はいつも通り話すだけだな。
「転校生の大神透哉です。この町には6年前まで住んでいました。昔の事を知ってる人もいるかもしれませんが仲良くしてやってください」
そうして軽くお辞儀をして終わる。受けなど狙わない超無難な自己紹介だ。
「それじゃ大神君とアンエリカさんは窓側の空いてる席に座ってね」
「わかりました」
「はーい」
俺達二人はそう返事をして窓側の席に向かって行った。その途中に昨日も見た、そして今一番気になっている顔を見かけた。
「おま、沙希!お前もこのクラスだったのか?」
って、俺普通に話しかけちまったけど大丈夫だったのか?また変になってたら……。
「昨日ぶり透哉君!そうそう一緒のクラスだね!よろしくっ!」
あ、よかった。どうやらいつもの沙希らしい。再会してからの俺が知ってる普通の沙希の反応が返ってきた。本当に昨日のは一体なんだったのか。
「一緒のクラスと言えば、あたしの後ろ見てみて?懐かしい顔がもう一人いるよ?」
沙希はそう言って身体を傾けて後ろに座っていた生徒を見るように言う。そこにはなにやらセラより濃い金髪の整った顔立ちの男子生徒が座っていた。
懐かしい顔?俺にこんな知り合いなんていたか?
「フッ、トーヤ君。まさかこんな所で再会できるとは思ってもみなかったよ……」
イケメンはやたら含みを持った物言いで髪を掻き上げながら俺に視線をよこしてきた。んん?やたら因縁あるような言い方だが。
「すまん。お前誰だっけ?」
俺の一言に座りながらずっこける沙希と金髪(男)。
「「なんで透哉君はいつもそうなんだよ!!」」
転入したての教室に二人分の叫び声が響いた。
休み時間になって俺は教室の後ろの窓枠に身体を預けながら一息ついた。
新しい学校、新しい教室で受ける授業は何回か経験しているが、今回は結構新鮮だった。やはり故郷と思っている土地だからだろうか?それもあるだろうが今回の教室には幼馴染が二人もいたからか。
「どうだい?トーヤ君。新しい学校は」
「あぁ、悪かねぇな玲人」
外の空気を吸いながら景色を眺めていた俺の横に金髪のイケメン、玲人が近寄ってきた。俺の右斜前の席に座っていたコイツは何を隠そう俺の幼馴染だったのだ。
髪色のせいで気づかなかったけどな。髪色のせいで。
「なにか困った事があったらボクに言ってくれよ?ボクはキミの親友でライバルなんだからねッ!」
「……おまえまだそれ言うんだな。ハハ、懐かしいけどよ」
まぁ、こんな奴である。優秀なんだがちょっとおかしいところがあるのだ。
「おっと、すまない。ちょっと用事を思い出したので少し失礼するよトーヤ君」
「おう」
そう言いながら片手をあげてにこやかな笑顔を浮かべながら颯爽と教室を後にする玲人。ホント嫌になるぐらい様になってやがるぜ。俺はそれを半笑いで見送りながら窓を閉めて自分の席に戻った。
俺の席は窓側の列の前から6番目。1番後ろから2つ目の席だ。他の列は1列には6席なんだが、今回転校生が二人も入ったのでこの列だけ7席ある。俺の右斜め前に玲人が座っていて、玲人の前に沙希が座っていた。同じ教室だというのも驚きなのに、これだけ近くに座っていると流石に偶然を疑いたくなるほどだ。ちなみに俺の後ろには同じ転校生のセラが座っている。
セラ。セイラ=アンエリカ。俺と一緒にいる幽霊のエリとそっくりな人間。なにか関係があるのだろうか?子孫だとか?うーん、でも金髪だしなぁ。そもそもエリがいつの人間かも分からんし。
そんな事を考えつつその姿を探すと、エリは俺の近くで何かを睨むようにしながら一点を見ていた。ん?あいつがそんな顔をするなんて珍しいな。一体何を見てるんだ?…………俺の隣の、男子?
(……おい、おいエリ。どうしたんだ?なにかあったか?)
俺はホントに囁くぐらいでエリに声をかけた。こんな小さな声でもエリには聞こえるのだ。
「……え?あ、ごめん。なんでもないよ」
(……?おう……)
エリは結局煮え切らない返事をして気にしないように首を振った。
なんだろう。本当に珍しいな。こいつになんかあるのだろうか?別に普通の奴に見えるけどなぁ。まぁいいや、ちょっと話しかけてみよう。そう思って俺は隣の男子に声を掛けた。
「よ、隣になったけどよろしくな?大神透哉だ」
「あ、はい。よろしくです。僕は小山正と言います」
いきなり声を掛けたから軽く驚いていたけど隣の奴はそう言って名乗ってくれた。
「いや、この学校って勉強結構進んでるんだな。軽くついて行けなくて大変だぜ。小山は勉強できるのか?」
「え?いえ、どうしてですか?」
「いや、だってメガネしてるし」
「別にメガネをしている人が皆勉強できるとは、限らないと思いますけど……」
「え?そうなのか?」
勉強出来る=メガネだと思ってたんだけど違うのか?あ、でも玲人は勉強できそうだな。違う所アホだけど。そういや涼ねぇもできそうだ。なるほど確かに言うとおりか。
「ま、まぁ、僕はどっちかと言うと出来るという方に入るかもしれませんが……」
「そうか、すげぇな!俺なんて勉強できる気がしないぜ。まぁそもそも勉強しないんだけどな!」
「あの、だからついて行けてないんじゃ……」
「おい!やめろ言うな!」
奇跡的にこの学校に編入できたんだ!なんで入れたかも自分で分からねぇんだ!そして、勉強なんてつまらないものしたくないんだ!あぁ、考えたくもない。
「……っく……はは、はははは」
俺がそうやってげんなりしていると小山が小さく笑いだした。
「おいひいでーなー笑うなよー」
「いや、ごめっ、くっ……あははは……だ、だって、はははは」
「いいだろー勉強できなくてもー、勉強だけが全部じゃねぇしさぁ」
「そっか、あははっ。そうだね、うん」
俺の言葉に笑いながら返事を返す小山。なんだ、良い奴じゃんこいつ。
「ってか、今みたいに敬語じゃなくていいぜ?俺も使えって言われても使えねーし。あと、正って呼んでもいいか?俺基本的に男は下の名前かあだ名で呼んじまうから、違和感があってな。俺の事も透哉って呼んでくれていいぜ?」
「はい、いや、うん?わかりま……わかったよ透哉君。よろしく!」
そう言った正はいい笑顔で返事してくれた。そのタイミングでチャイムが鳴る。
「おっと、もう次の授業か。準備しねぇと」
そうして教科書やら筆箱やら出していたら消しゴムが転がっていってしまった。
あぁ、めんどくせぇ。と一瞬思ったが、俺の前の席。前から5番目の席に座っていた女の子が拾ってくれた。
「あ、助かったよ。サンキュな。あ、大神透哉だ。あんたもよろしくな」
俺は拾ってくれたお礼と、軽く自己紹介をする。
女の子は俺に消しゴムを手渡しながら小さく笑みを浮かべて名前を教えてくれた。
「ワタシは御堂 鳴。よろしく、大神君」




