四章 ~第二幕~
「なぁ?買い物するのはもうこの際良いんだけどよ?これ今どこに向かってんの?
服屋とかじゃねぇの?そこにあんじゃん」
結局逃げ切ることが出来ずにもう諦めがついた俺は、沙希と涼ねぇの後ろについて外町のメインストリートを歩いているのだが、二人は周りにある店に目もくれず進んでいく。
なんだ?てっきりそういう物を買いに行くんだと思っていたんだが、もしかして違うのか?そう思いだした俺に沙希が振り返って話しかける。
「透哉君ってこっち戻ってくる時に何も聞かなかったの?栫町の最近の事」
「あぁ。まぁこっちに連絡取ってた知り合いとかいなかったし、親はちょっとな」
正直あのクソ親父と世間話をしてる所なんて想像できない。あいつの口からは事務的な事とたまに挨拶を交わすぐらいでまともな家族の会話というものは無かった。俺も俺で話したいなんて思わなかったしな。
「それじゃあ透君の中の栫は6年前で止まっているって事よね?」
「うん、その認識で間違いないと思うけど?」
俺が涼ねぇの問いかけにそう返すと二人は見つめ合ってニマっと笑いだした。な、なんだよいきなり。いきなりそんな事してるとちょっと不気味だぞ……。
「えぇー、それでは透哉君。落ち着いてあちらをごらんください」
そう言ってかしこまった沙希が進行方向を指差した。俺は言われたとおりにその指の先に視線を向けると……。
「な、なんだぁありゃぁ!?」
そうその先には、遠目からでも分かるほどの巨大なショッピングモールがあった。
同時に何人通れるんだという入口、整えられた遊歩道、そして大勢の人々。先鋭的なデザインの外観は、田舎には不釣り合いという感想を吹き飛ばすほど主張している。俺としては場違い感がたっぷりな複合施設がそこにはあった。
「…………。……?」
あまりの斜め上っぷりに言語中枢がイかれて言葉が出てこない。俺はどこに帰ってきたんだ?ここは本当に俺が知っている栫町なのか?同じ名前の何処か違う場所じゃねぇのか?
「どう?驚いたっ?」
「透君ったら、笑えるぐらいに呆け顔よ?ちょっとそのままでいて、記念に残すから」
そう言いながら涼ねぇはいそいそと携帯を取り出して俺にカメラを向けてきた。
「やめんか!何の記念だよ何の!!」
俺は正気に戻り涼ねぇの暴挙を押しのける。この人隙あらば俺の事いじろうとするな。って、今はそれどころじゃなくて!
「な、なんなんだよアレ!なんであんなでっっけぇショッピングモールがこの町にあるんだよ!!規模がおかしいだろ規模が!あんなもん俺が前に住んでたトコでも見たことねーぞ!?」
明らかに大都市の、しかもかなり有名所な建造物と同等なレベルだ。間違っても6年前まで田んぼと茶畑しかなかったこの町にあっていい代物じゃない。
一体俺が栫を離れている間に何があったんだ?俺はもう困惑すればいいのか呆れればいいのかわからん……。本当に同じ場所なのか?気になってキョロキョロと周りを見渡すと、俺と同じようにポカーンとした顔をしているエリが見えた。
「な、なにあれ……?」
あぁ、まぁたしかにお前はこんなもんみたことはないわな。あれ、ないよな?その気持ちは分かるぞ、うんうん。とにかくそっとしておこう。俺も落ち着くには時間がかかりそうだ。
「ね、透哉君。とりあえず中に入ろ?絶対もっとビックリするからさ!ほら!」
「行きましょう?透君」
「あ、あぁ……」
そうして沙希と涼ねぇに連れられ、俺は自らその違和感の塊へと足を踏み入れたのだった。
「服屋さんはもちろんアクセ、靴、貸衣装……。服関係にとどまらずアウトドアやスポーツショップ。家具インテリアの店舗もあって、奥にはラーメン寿司ピザたこ焼きお好み焼き、そしてフードコートもちゃんとある。他にもおもちゃや駄菓子、変わったものだとプラモデル屋さんとか写真館とか。極めつけは映画館とスポーツジムも併設してる超巨大?なショッピングモール!それが"ウォールモール"だよっ!」
と、館内の入り口付近にあった案内図と説明文を読んで自慢げな顔を見せつける沙希。その顔は最近知った豆知識を友達にひけらかしてる奴みたいだった。要するに軽くうざい。
「はぁ、すっげぇな。もうなんでもあるじゃねぇか。むしろこんなに必要か?」
どうせそんなに人なんていねぇだろこの町じゃ、と思いきや館内には何処を見ても人、人、人。一体この町のどこにこれだけの人がいたんだと思うくらい賑わっていた。
「まぁ今日は祝日だから人が多いのは仕方ないわね。それを考慮しても多いとは思うけれど」
「こんなに人が集まるの、今の栫じゃここぐらいじゃない?」
俺達三人は入り口から館内を眺めて感想を零す。田舎田舎だと思っていたがこれじゃ田舎って言葉に失礼だな。と、いつまでもここにいても終わらない。
「とりあえず進もうぜ?俺もちょっと興味が湧いてきたよ」
「そだね」
そう言いながら俺達はとりあえず館内を見渡せそうな2階へ続くエスカレーターに乗った。そこから見える景色はなかなかのもので、本当に色んな店舗があるんだなと思う。
「はぁー、ほんとなんでもありそうだな。何から見るんだ?あ、でもいきなり女物の服とかカバンとか見るのはやめてくれよ?そこにいるだけで時間潰れそうだ」
「えぇー?なにそれ。そう言われるとやりたくなるなぁ。ねぇ千草ちゃん?」
「あら奇遇ね。私も全く同じことを考えていたわ」
二人はそんな事を言いながら目についた服屋にわざと入っていきおもむろに物色しだした。
あぁぁああ、くそー始まってしまったぞ。こうなってしまえばもう止められない。一体何時間費やされることになるのやら……。そう思っていたのだが沙希は一つ服を取っては戻し、また一つとっては戻して微妙な顔をしていた。
「……んー。なんか、あたしあんまり興味湧かないなあー。やっぱり」
「は?え、なに。おまえ女なのにそんなんでいいの?」
珍しい、という程俺も知っているわけでもないが。大概こういうのはみんな時間をかけてきゃいきゃいしながらあれこれ見るもんだと思ってたが。
「沙希はいつもそうね。かわいいのにもったいないわよ?」
「おまえ、そんなんだから男と間違えられるんだよ」
「ひどい!ひどいよ透哉君!あたし男じゃないよ!」
えぇー、と言ってもなぁ。絶対コイツもっと男っぽい趣味のほうが性に合ってるだろ。
「たしかにさ、こういうの見てるよりスポーツ用品とか見てる方が楽しいけどさ」
「やっぱ男じゃん。"マサキ"だよやっぱり」
「これは言われても仕方ないわね」
「やめてってば!!」
そう言ってからかいつつ笑い合う俺達。あー、涼ねぇはともかく。沙希とはどうしても時々、男友達と一緒にいる感覚になっちまうなぁ。見た目がこう、普通にかわいいからギャップ激しくてあれだが。
……てかこいつ外見はほんとに昔からは考えられないくらいかわいくなったよな。
「ったく、しゃーねぇーな。俺も付き合って一緒に見てやるから、少しは興味持てよ?」
「あら、透君にしては良いことを言うわね。見てもらったら?」
涼ねぇ、何気ない一言が心をえぐります。やめてください……。
「えぇ!?い、いいよ別に!」
「まぁ、格好だけでも女らしくすれば少しはマシになるだろ?」
「どういうこと?」
「…………さ、さて。どんなのが似合うんだろうなー」
必死に沙希から目を逸らし陳列されている衣服を眺める。
と、言っても俺に女物の服を選ぶセンスなんてあるはずもなく。そして冒険しようとも思わない。つまり俺の選択肢は。
「すいませーん、店員さーん」
「はぁあい。何かお探しですかぁ?」
俺が店員さんを呼ぶと、出てきたのはやたらねちっこい喋り方をする見るからにオネェな人だった。お、おぅ。なんか、すごい人が出てきたな。大丈夫か?
「え、えっと。この子に似合う服を、選んで欲しいんです、けど」
まぁとにかく見た目はアレだが、服屋の店員であることは間違いないだろう。こういった事は本業に任せるのが一番いい――。
「――かぁっしこまりましたー!!」
「お客様見た感じではいぃーい感じに日焼けしてますねぇあぁ焼いている感じではなく自然にお外で焼けたカンジ!という事は普段外に出て活発に活動していらっしゃる?えぇそうでしょうと言う事は若干スポーティ寄りにしてかつかわいらしさが引き立つように――」
「え?え?え?」
「――とこちらのスカートにこれを合わせてあらぁかわぃいん!ではこちらの組み合わせと靴は普段どんなものをお履きに?えぇ分かりましたそちらも揃えましょう揃えさせて頂きますおしゃれは足元からですからねカラーを揃えるなら今流行になりつつあるこ――」
「……お、おう」
「最後にこちらからアクセを選んで頂いていえアタシが選びましょう選ばせて頂きますワンポイントは大事ですからねピアスよりはネックレスの方がいいですかいいですねぇそうでしょうともお客様でしたらこちらの方が断然かわいいですよえぇ間違いありませんともアタシの見立てが間違うはずがあり――」
「え?うん、へ?えぇ?」
「はーいではこちらで試着しましょうどぅぞぉー!!」
「あぁーー~~」
……物凄い早口で喋りながら、その店員は沙希を奥の試着室へ連れ去っていった。
後に残されたのはポカーンとした俺と涼ねぇ。なんというか、あの押しの強さ。
「ほ、本業はすごいな」
「えぇ、流石ね……?」
「ぅお待たせいたしました!終わりましたよぉー!」
「うぉっ、早いな!」
俺達が困惑している間に速攻で店員さんが出てきた。
「えぇえぇ、お客様が大、変、かわいらしいお方だったので今回!私、気合を入れさせて頂きました!」
「お、おぅ」
キャラ濃いなぁー……見た目もなかなかパンチ決まってるし、大丈夫かこれ?若干不安になってきたぞ。
「……ぇっと……」
その時、試着室のカーテンに隠れながら沙希が顔を覗かせてきた。やたらもじもじして一向にそこから出てこようとしない。
「ほっら!お客様!かわいいんですからもっと胸張っていいんですよ!ほらっ!」
「うわわっ!」
「あ……」
店員さんがぐいぐいっと沙希を引っ張り出した。そこに現れたのは、今まで見ていた沙希ではなく、昔見ていたマサキでもない。全くの別人がいた。
フリルがついたスカート、明るい色味のかわいらしい上着、主張しすぎないアクセサリー。かわいいの中に沙希らしい活発さが見える、控えめに言ってナイスなコーディネートだった。あまりの変わりっぷりに俺は咄嗟に言葉が出なくなる。
「かわいいわよ沙希。とっても似合っているわ」
「あ、ありがとう千草ちゃん……と、透哉君?な、なんかいってよぉ……」
「ぁ、あぁ。その……いいんじゃ、ないか?」
「え?……そ、そう。その、ありがと……」
二人揃って何故か照れくさくなってしまう。
「えぇえぇ!彼女さん大変似合ってらっしゃいますよぉ!」
「え!?あ、ちがっ!彼女じゃないです!ないです!」
「まぁたまたぁ!ラブラブしゃないですかぁ!」
「おぅ……そう見えるんですか?」
「えぇ!それはもう!」
そうなのか……なんだろう。意外にもまんざらでもない自分がいる。そう思って沙希が彼女になった所を想像してみる。…………まぁ、なんだ。悪くはない……な。
「も、もう!やっぱりだめ!この服はすっごくかわいいけど、あたしには似合わないよ!着替えてくるっ!」
ジロジロ見られて柄にもなく照れてしまったのか、そう言いながら沙希は試着室に戻ってしまった。制服に着替えなおすのだろう。新鮮で良かったんだが。
「あら、残念です」
「そうねかわいかったのに、もったいないわ」
「ハハ、また機会があったらお願いします」
店員さんにお礼を言うとまたどうぞと言って他のお客さんに対応しに行った。
沙希はまだ試着室に入っている。時間が掛かりそうだ。
「っと、涼ねぇちょっと離れていいか?俺今のうちにトイレに行ってくるよ」
「えぇ大丈夫よ。行ってらっしゃいな」
「すぐ戻るわっ」
そう言い残して俺は離れた。一人になった時にふと思ったのは、さっきの沙希可愛かったけど、やっぱりいつもの沙希の方が親しみあるなという事だった。
「……ふぅ」
「あんまりサキの事いじらないであげたら?」
「うぉっ!?おまえいたのか!?」
トイレから出てきたところで不意にエリから声がかかる。油断してるとほんとにコイツがいることを忘れちまうんだよなぁ。さすが幽霊だ。
「サキだってちゃんと女の子なんだから、もっとしっかり褒めたりしてあげなよ」
「あー、なんかまずったか俺?」
「いや、まぁ多分あの子そんなに気にしてないとは思うけどね」
ふむ、そんなに駄目だったかな。
「……というか、なんか妙に沙希の肩持ってないか?おまえ」
「え?そう?」
「あぁ、なんかそんな気が……というか、おまえって沙希の事知ってたのか?」
「いやぁー?知らないよ?気のせいじゃない?」
……あやしい、というか白々しい。なぁーんか沙希の事意識してるような気がするんだよなぁ。まぁどうせこいつの事だから、話したくないことは話さないんだろうけど。
「んー……まぁいいけどな」
「ほら、さっさと戻った戻った」
「はいはい」
そう言われてながら俺は先程の店まで戻ってきた。中に入って沙希と涼ねぇが何処にいるのか店内を見回していると、なにやらおかしな声が聞こえてきた。
「――キャハッ、なにこれぇー!ちょぅカワィイんですけどーー!?」
「――――――はぁ?」
「マジヤバイー!ウチこれちょぅオキニー!!ヤバぃーwwwこのァクセとかもマジヤヴェ、MY!これMYー」
そこにはこの町で聞くにはあまりにも場違いな言葉遣いで奇声をあげる、沙希によく似た女生徒がいた。
あぁ?なんだ?こいつ、沙希か?ホントに?別人じゃなくて?なんでこいつこんな聞いてるだけで頭が痛くなるような発言してんだ?ふざけてんのか?よくよく見ると近くには頭を抱えた涼ねぇが佇んでいた。俺はそちらへ近寄り声をかける。
「ごめん、えっと。涼ねぇ?あいつは、沙希でいいのか?あいつ何やってんの?突然演技の練習でもしだしたの?」
「待って、私も目を離してて何故こんな事になっているのか分からないの。ただ沙希は演劇部でない事は確かね」
どうやら控えめにいってもおかしくなっているようだった。
「おい沙希!ふざけてないで行くぞ?」
「はぁ?ナニあんた、ナンパですかー?ウチあんたみたいなブサイクお断りなんですけどぉー↑」
俺が声を掛けると沙希?はまるで汚いモノを見るような目でこちらを見て、挙句人様のご尊顔を罵ってきやがった。誰がブサイクだコラァ!?
「まじでなに言ってんだ?おまえ大丈夫か?」
「ちょっとナニこいつぅー、マジキモィんですけど、MK!こいつMK-。っーかぁっちイッテょね!ウチこう見えて忙しいんですからー↓。ヤバイ!」
「あ、おいっ!」
聞いていて耳と頭が痛くなるような声で喋りながら沙希は離れて行ってしまった。呆気にとられて置いて行かれてしまった俺と涼ねぇ。なんだ?一体どうしちまったんだあいつ?
「なぁ涼ねぇ、今のなんだったんだろ?」
「さぁ、まるで人が変わってしまったみたいね。……私不安だから追いかけてくるわ」
「あ、あぁ……」
そう言って涼ねぇは沙希を追いかけていった。俺はと言うと、何故か不思議と追いかける気にならなかった。今は頭が追いつかなくて動きが鈍くなってしまっている。そうしてると横にたエリが視界に入った。
「なに、今の……」
「あぁ、エリも見てたか?あれ」
「うん、見た。見たけど……あんなの、今まで見たことないよ」
「俺も初めて見たぜあんな事言ってる沙希は」
「そうじゃなくって!」
「あん?」
「……いや、なんでもない……」
エリはなにか言いかけたが、結局言わずに黙ってしまった。何が違うんだろう。確かに人が変わってしまって普段とは全然違うが。
ん?人が変わる?最近なんか聞いた様な……。
「………………人が、変わる……七不思議?」
「え?」
不意に、口をついて出た言葉にエリが反応した。
「いや、昨日……沙希と久しぶりにあった時にあいつ。"簡単に人は変わらない、七不思議じゃあるまいし"って言ってたんだよ」
「なに、それ?」
「いや、俺もその時はなんだよそれって聞き逃してたんだが、今のあいつの変わりよう。人が変わったみたいだったろ?もしかしたら、まぁそんなことあるのか分からねぇが。その七不思議とやらのせいで、あいつ人が変わっちまったんじゃねぇか?」
我ながらアホな事、荒唐無稽な事を言ってるとは思うが。さっきの変わりようは普通じゃなかった。ふざけてる様子でもなかったし、なにより俺の事なんか知らないと言ったあいつの目が嘘ついている感じではなかった。
…………それに。
「そう……だね。もしかしたら、そう……なのかもしれない」
ここに不思議代表な奴がいる。だったら七不思議なんてものがあってもおかしくない。よな?あんまりそういう事考えたくないんだが。
「なぁ、普通七不思議って言ったら学校、だよな?」
「うん、そうだね」
「…………だとしたら原因は学校にあんのか?」
俺は明日から通うことになる凪波高校に対して早速不安を覚えた。今回の学園生活は、どうやらおかしな事になりそうである。




