四章 ~開幕~
『七不思議を聞いたことがあるかい?』
また……あの声が聞こえる。
前にも一度聞いたことがある。あの時も同じような事を言っていたような気がする。相変わらず意識は朦朧としていて、ここがどのような場所なのかはっきりしない。
暖かな闇に包まれながらも、血液の様になにか温かいものが「自分」の中を巡っている様な……。前の時はこんな感覚はあっただろうか?それすらも覚えていない。
『学園という多感な年代の人間が集う場所で生まれる、さまざまな怪異。そしてそれを元に、あるいはまったくの想像でまことしやかに囁かれるウワサ、怪談、怪奇譚』
この声は「自分」に語りかけているのか、それともただ独白を聞かされているだけなのか。今回も他に為す術はなく、だが不思議と不快な気持ちは浮かばず、そのまま声を聞き続ける。
ただ前回よりは幾ばくか意識がはっきりしているようだ。この前は感じられなかったが、この声の感情を少しだけ読み取れた様な気がした。
これは……親しみ、だろうか?愛情……?
この声は「自分」に向かって親しげに語りかけていたのか?だけど、その思いの方向性は感じられても、大きさ、深さが読み取れなかった。
『怪異と言っても存在する七不思議の大半が全くのデタラメだろう。この世に"幽霊"なんてものは存在しないのだから。――だが、もし本当に七不思議が真実だとすれば?それは一体どんなものなんだろうね?』
まただ。この声はまたこちらを試すように、何かを確かめるように問いを投げかける。
そんな事を聞かれても分からないとしか言いようがないし、何の得にもなりはしない。……のだが、これは前の時も言い返そうとした事だ。全く進展がない。
前の時?確かに同じことを考えた。じゃあ何回同じことを考えたんだ?
このやり取りを声と「自分」は何回繰り返したんだ?
その疑問と共にまた意識は急激に遠ざかる。
移ろい、揺らいで、瞬き、消える。
あぁ、今度思い出した時に今回の事は覚えていられるのであろうか。
もしかしたらなにか大切な事を忘れているのではないのだろうか。
この響く声は知っているのであろうか。
「自分」が、一体何なのかを――。
そうして眠る。長い眠りに。今回もまた、あの響く声を子守唄にして。
『七不思議を聞いたことがあるかい?』
繰り返し繰り返し紡がれる声は出口を探して彷徨う迷子のようだった。




