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よみがえる薬にご用心  作者: 滝元和彦
9/11

警部、超常研のオフ会に行く


 まだ午前10時過ぎだというのに、ファミレスの一角は人で溢れていた。警部は、超常現象研究会という怪しげな集まりにやってくる連中は、さぞかしへんな奴らなんだろうなと思っていたが、少なくとも見た目はごく普通だった。スーツにネクタイ姿の男性もいるし、若い女性の姿も見える。

 テーブルに座っていたメガネをかけた痩せぎみの男が立ちあがった。その男が軽いあいさつを述べると会が始まった。

 警部はとりあえず、隣りにいた40代くらいのサラリーマン風の男に声をかけた。

「私今日はじめて来ました。もう長いんですか?」

「そうですね、今年で5年目です」

 警部が聞きだしたところによると、この男はオフ会自体は2回目だという。会社には午後から出勤するので、ちょっと寄ってみたらしい。

「楠さんはどういう分野が好きなんですか?私はオーパーツ関係に関心があるんですけど」

 オーパーツ?なんだそれは?と心の中で思いながら、てきとうに、

「恐竜ですかね」

「恐竜?あれですねUMA(未確認動物)ってことですね。それでしたらあそこにいる若者が詳しいですよ」男は向かい側に座っている20代くらいの男を指さす。

「そ、そうです。ゆーまです。じゃあ後で話しかけてみよう」警部はしばらく桐生に話し相手をさせた。話が一段落してから、

「ところで、澤さんと片瀬さんって方を知りませんかね?」とたずねた。

「知りませんね」とあっさりと答えたが、男の隣に座っていた女性が警部に話しかけてきた。女性は40代前半くらいで、厚化粧で、ふくよかな体形をしていた。

「澤さんと片瀬さんの知り合いなんですか?」

「ええ、まあ」

「ここ最近、あの2人から返信がないんですよ。いろいろと会報をメールしてるんですけど」

 警部は事件をかいつまんで話した。もちろん、自分たちの正体は伏せておいた。

「そうだったんですか、それはお気のどくなことで」

「彼らがエリクサーを盗み出す計画をしてたとか、そういった話はしてませんでしたかね?」

「私には、そんなことは全く話しませんでしたね。話すとしても世間話が多かったですから。それにしても、片瀬さんは本当に気のどくですね。ちょっと前には、結婚を誓った彼女を亡くしてますし」

「彼女を亡くした?」

 女性は警部に近づいて、耳打ちするようにそっと、

「なんでも、医療事故だったみたいですよ。詳しいことは分かりませんけど、知り合いのお医者さんに頼んだんですって。でもうまくいかなかったみたいですよ」

「その知り合いの医者って、誰だか分からないんですか?」

「その話になると、片瀬さんは黙ってしまうんです。それも当然といえばそうなんでしょうね」

 警部は引き続いて、その女性と話したが、有益な情報は得られなかった。警部は席を移動することにした。いくつかのグループができている。どのグループからも、パワースポットだとかバミューダトライアングルだとか火星の人面岩とか、警部の聞きなれない言葉が飛び交っている。警部はUMAに詳しいらしい若い男の隣に座った。男は左隣の中年の男と話していたが、警部が横に座ると、ちらと視線を向けた。警部はてきとうに偽名を使った。若者は警部に一枚の写真を見せた。

「これは僕が旅行している時に、偶然撮れたペガサスの写真です」

 写真には空が写っていて、右上辺りに小さな影のようなものが写っていた。形を見ると、馬のように見えなくもない。警部はいちおう驚いてみせた。すると、バッグからアルバムを取りだして開いた。

「他にもこの手の写真はいっぱいありますよ」

 警部よりも桐生の方がアルバムに飛びついた。

「すごいですね。これなんかもしかしたらカッパじゃないですか。あっ、これはビッグフットかな」

「よくごぞんじですね。この種の動物は人によっては空想の産物とか言う人がいるんだけど、ぼくの考えでは、UMAは進化の主要な過程から外れた生物たちで…」

 UMAの話が盛り上がりそうになったので、警部は強引に質問をすることにした。

「そういえば、今日は坂上さんと高部さんの姿が見えないようだけど、どうしたんでしょうね」

「来てないみたいですね、彼ら仲良し4人は毎回参加してるんですけど」

 若い男は事件があったことを知らないようだった。警部はさぐりを入れてみた。

「なにかあったんでしょうかね?」

「どうですかね、ぼくは彼らとはそんなに親しくないからなあ。片瀬さんも澤さんも2人とも、心の傷を癒してるんじゃないかな」

「心の傷?」

 若い男は初対面の人間に話すべきかどうか、躊躇ちゅうちょしたが、

「片瀬さんが付きあってた女性が最近亡くなってしまったんですよ。彼女もここのメンバーだったんです。それで片瀬さんはすっかりふさぎ込んでしまったんです。もともと彼女は澤さんと付き合ってたんです。それが片瀬さんと付き合うようになって、結婚まで決まってしまったもんだから、内心2人には負の感情を持ってたでしょうね」

「そんなことがあったんですか」警部はそれほど興味がないようなトーンで答えた。桐生はその間、ずっとアルバムを眺めている。

「あっ、これは小さなおじさんじゃないですか」

 警部は桐生をほっといて、他のグループにも話を聞いていった。収穫はなかった。4人の存在すら知らないか、顔と名前を知っている程度だった。警部は桐生の隣に戻ってきた。

「そろそろ行くか」

 桐生はアルバムに夢中になっていたので、警部に肩をたたかれてびっくりして振り返った。

「あっ、UMAだ!」

「誰がUMAだよ」


 警部は車に戻って来る途中でコンビニに寄り、コーヒーを買ってきた。桐生はアイスココア。

「おまえ、コーヒー飲めないのか?」

「飲めないことはないんですけど、やっぱりこれが好きですね」

 警部はエンジンをかけた。車内に異様な音楽が流れだした。異国情緒たっぷりの音楽。

「楠さん、これはなんですか?」

「ははは、これはインドミュージックだ」

「インド?」

 確かにインド料理店で流れているような音楽だった。

「それにしても、おまえはアルバムばっかり見てたな」

「話はちゃんと聞いてました。聞いてて1つ思いついたことがあるんです。片瀬さんの彼女が最近、医療事故で亡くなったんですよね。それと、澤さんは爆発で亡くなる前に、あるミスで悩んでいたそうじゃないですか。澤さんって医者ですよね。なにか関係があると思ったんです」

「関係?」

「これは本当に思いつきなんですけど、片瀬さんの彼女の手術を担当したのは、澤さんなんじゃないかって」

 警部のコーヒーを飲む動きが止まった。ゆっくりとコーヒーを飲みこむ。警部は胸ポケットから電子手帳を取りだした。小津崎から聞いた澤の病院の情報を見る。

「電話で聞くのもなんだから行ってみるか」

 警部はナビをセットして、ハンドルを握った。

 警部の運転する車がA市総合病院に着いたのは、それから1時間後だった。警部は車の中で、携帯から病院に電話をして事情を説明していた。2人が入口に入ると、白衣を着た中年の看護師が近づいてきた。警部は彼女に警察手帳を見せた。

「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」看護師は左右に伸びる廊下を右に曲がって歩いていった。途中にある待合室は患者でごった返していた。看護師はそのまま直進して、あるドアの前で足を止めた。ドアの上方には院長室と書かれている。看護師は「失礼します」と言ってドアを開けた。

 室内には、60代くらいの白髪の男性が立っていた。顔には神経質そうな表情が現れている。

「先ほどお電話したものですが」警部は警察手帳を見せようとする。

 院長は手帳に視線を向けることなく、2人に椅子をすすめた。

「まあ、お掛け下さい」

 警部は携帯で話したことを繰り返して説明した。その間、院長は表情を変えることなく黙って聞いていた。聞き終えると腕を組みながら、しばらく思案にふけっていた。

「確かに、うちには澤英太という者がいて、その手術を担当したのは事実です。本人は手術がうまくいかなかったことを悩んでいたようだが、あれはミスというものではないというのが我々の見解なんです。手術には最善を尽くしても、うまくいかないケースがあるんです。今の医療の限界というんですかね。それを、手術がうまくいかないのは全部、医者のせいだと言って、訴える人が増えてまして。遺族の気持ちも分からないではないですがね」

「ちなみに、どういった手術だったんですか?」

「彼女は妊娠していたんです。自然分娩の予定だったんですが、急きょ帝王切開に切り変えたんです。ですが、母子ともに亡くなってしまいました」院長はテーブルにあるカルテのようなものを見ながら答えた。

「妊娠してたんですか、父親は誰なんです?」

「空欄になってますね」

 警部は手術の件とは別に超常研のことや、エリクシールでの爆発事故について知ってるかたずねた。院長は何も知らないと答えた。それから、澤についてたずねてみると、彼は事故死する直前まで勤務していたらしい。彼は真面目で、勤務態度もよかったようだが、彼の手術で彼女が亡くなってからは、人が変わったようにふさぎ込んでいたようだ。

 これ以上聞くことがないので、警部は院長に礼を言って部屋を後にした。廊下に出ると、人がいないのを確認して、

「やっぱりおまえの言った通りだったな。片瀬の彼女はここで死んだんだ」

「そうですね」桐生は浮かない顔をしている。

「どうしたんだ、元気がないぞ」

「なんでもないです」桐生は、院長の話があたかも自分の身に起きたようなショックを受けていた。

「暗い話が続いたからな。気分転換でもするか」

「どうせ、ボウリングでしょ」

「ははは、オレをボウリング狂みたいに言うなよ。カラオケだよ、オレの勝負歌は…」


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