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死妃の娘  作者: はかはか
第四章 疑念
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疑念 その9

 シロリオは、突然その名を出された為、思わず心臓が高鳴ってしまった。

 だが、それがどうして謀反に繋がるのか。


「今直ぐにラーエンス総督に報告に行くのは良いんだが、それでは、あの娘の命が危ない事には変わりない」


「……ああ」

 セーブリーの謀反の件は、死妃の娘とは別件だ。例え、セーブリーが捕まったとしても、モアミは関係無い。


「公爵の謀反が成功するには、幾つか条件がある。資金もそうだが、一番必要なのは、王宮を攻める為の兵士だ」


「公爵様とレイトーチ伯爵の兵……」


「そうだ。普段、トラ=イハイムにいるのは国王直属の警備隊と守備隊だけだ。本来、私兵の入城は禁止されている。それが可能となったのは何故か?」


「死妃の娘だ」


「そう。四百年前、森の民を壊滅状態に追い込んだ死の子供が、死妃の娘がトラ=イハイムに入り込んだという話。まあ、どれだけ政府の上層部が真剣に受け止めたか知らないが、公爵からの強い働き掛けにより、死妃の娘対策が正式決定され、森の民が街に入り込む事になった」


「そして、その森の民から街の人を守る為に公爵様の兵を使おうとしている……」


「そう言う事だ。大体、大戦中逃げ腰だった公爵がこういう時だけ率先して自分の兵を使うと思うか? もし、兵が死妃の娘に被害を受けたら、真っ先に自分に振り掛かってくるんだぞ」


 確かに、シロリオもそこは違和感を持っていたのは嘘では無い。しかし、森の民が街に入って来るという一大事に忙殺されて、深く追求出来無かった。


「まあ、それを王都警備隊が撥ね付けたのは幸いだったな」


 シロリオは、そこでノイアールが言いたい事に気付いた。

「それなら、フォントーレスは、公爵様の謀反を知っていた?」


 ノイアールは、「そう」とシロリオに指を向けた。

「間違い無いだろう。公爵と森の民は、互いの目的の為に手を結んだんだ。どちらが先に声を掛けたのかは分からないがな。まあ、俺が思うに、今まで悶々と不満を募らせて来た公爵が、森の民から死妃の娘の件を伝えられて謀反の実行を決意したという所か」


「ちょっと待て。それなら聞くが、普通貿易船は、一度港を出ると半年や一年は戻って来ないぞ。しかし、死妃の娘が街に逃げ込んで来たのは最近の事だ。計算が合わないじゃないか」


「よく気付いたな。さすが」ノイアールは、大袈裟に表情を作る。「だから、この計画は、最近立てられたものじゃないって事さ」


「ほんとか?」


「ああ。……実はな、この船に乗り込む前にも言ったが、俺はお前が警備隊の副長になれた事がどうにも引っ掛かっていたんだ。だって、そうだろ? 副長は、警備隊の全権を任されるに等しい職になるんだ。そこに裏切り者の子供と言われていたお前が収まったんだぞ。幾ら誰もが嫌がる仕事とは言え、大国シェザールにそこまで人材がいない訳じゃない」


 シロリオは、正直に頷いた。


「という事は、この計画は以前から考えられていた可能性がある。街に森の民を入れる事を聞いても、抵抗しない人間を国王警備隊の副長に置きたい」


「俺か……」



「そう。それから……。いいか、ここは気を悪くしないで良く聞いて欲しいんだ」

 ノイアールは、真剣な表情になって、シロリオを見詰めた。

「……恐らく、お前は捨て駒だ」


「な……」


 その言葉にシロリオは、絶句した。


 そのシロリオにノイアールは両手を上げて宥めながら言う。

「いいか、いいか……。森の民を街に入れる件、公爵の兵を街に入れる件、何れも普段なら有り得ない事だ。政府の上層部は、自分に関係無い事だから、何とか言いくるめられるとしても、実際に現場で携わる人間としては、そんな厄介な事を押し付けられたく無いに決まってる。何とか伝手つてを頼って、止めさせようとするかもしれない。そこで、公爵『側』は考えた。公爵の言い成りに動く扱い易い人間はいないか。……『ちょうど、いるじゃないか。失敗して処分を受けていなくなっても痛くない人間がひとり』」


 シロリオは、茫然と話を聞いていた。

 それが本当なら、公爵が自分を拾い育ててくれたのは、あわれみや優しさからでは無く、使い易い手駒を保管しておくという狙いからだった事になる。


「その通りに、お前は第三区に森の民だけで無く、公爵の兵を入れる事も見逃した。只、公爵側としては、第三区では王宮まで遠いと思ったんだろうな。その後、行先を第二区に変更したんだ。公爵にとっては、王都警備隊の反発という恐れていた事が起こったがな。まあ、それが普通の感覚だが……」


「じゃあ、俺は必要な人材じゃないか? ……言い成りになってくれるなら……」

 シロリオは、言いたくない単語をひねり出すようにして言った。


「実は、俺がそれに確信したのは、さっきの暗殺集団の襲撃があったからだけどな」

 ノイアールは、構わず先を続けた。

「あいつらがタンバルを殺したのは間違い無いだろう。でないと、俺を襲った理由が無い。割符を奪い、公爵の計画に気付く恐れのある俺を抹殺しようとした。もしかしたら、クオーキー伯爵の件もあいつらの仕業かもしれない。そして、あまつさえ、お前にも手を掛けようとした……」

 ノイアールは、ひとつ息をついた。

「あいつらには、お前が誰か分かっていた筈だ。あの商人も見破ったんだからな。どんな服装をしていたとしても、公爵で育てられ、国王警備隊副長になっているお前を誤って殺す事は万にひとつも無い。所が、それを殺そうとした。つまり、言える事はただひとつ。最早今となっては、お前は公爵にとって必要では無い存在だという事なんだ。お前は、謀反の仲間に入れる予定に無い。公爵が認めた相手以外が秘密を知ってしまうと命を失うという事なんだ」


「だけど、まだ、あの暗殺者達が公爵様の命令で動いているかは明らかになってないじゃないか」

 シロリオは、それでも言い返してみた。

 まだ、暗殺者が公爵の手下かどうかは分かってない。


「自信を持って、そう言えるか?」

 ノイアールは、強く言った。


 シロリオは、知らずに拳を握り締めていた。

 簡単には信じたく無い事ではあるが、ノイアールの言葉がいちいち胸にストンと収まって来る。

 シロリオは、公爵の為ならば、この身を捧げる覚悟でいた。だから、今回の仕事も全力で取り組むと決めていた。この仕事を上手く収めて、公爵に認めてもらおうと思っていた。


 それが、全て無駄だったと言うのか……。


 シロリオとてシェザール貴族の端くれである。父の犯した許されない行動から逃れる事は出来無い。いつか、父の汚名を晴らす。それがシロリオの本心だった。

 なのに、謀反の片棒を担がされる事になるとは……。

 例え、セーブリーの計画が上手く行き、その手柄で自分が引き立てられたとしても、自分は嬉しくな。逆に、親子で国に混乱を招いたという罪悪感に襲われてしまう。


「いいか。時間が無い。聞いてくれ。ここからが本題なんだ。最後に残されたお前の希望を叶える為の話なんだ」


「もう、俺に希望なんか無い……」


「ここで、さっきの話に戻るんだ。モアミを助けたいだろう?」


 そのひと言にシロリオは反応した。

 そうだ。自分達の欲望にあの子を巻き込んでしまった。今、モアミは死の危険に脅かされている。今なら、まだ間に合う。

「そうだ。モアミを牢屋から出してやろう。モアミなら、森の民の包囲も抜け出せるだろう」


「いや、そうじゃない。そんな事をしても、あの娘に掛けられた疑いは晴らす事が出来ない。伯爵殺害の犯人として、いつまでも、我々からも追われる羽目になってしまう」


「じゃあ、どうすればいい?」


「いいか、第二区に仲間を入れる事が出来たのは、レイトーチの兵だけで無い」


「森の民も監獄塔の警備を理由に入って来た」


「そうだ。しかし、奴らは、モアミを尋問する素振りも見せないじゃないか。つまり、監獄塔の警備は、只の理由付けで、本音は第二区に森の民を入れる事にある」


「森の民も謀反に加担するという事だな?」


「そうだ。公爵やレイトーチの兵だけでは成功するか分からない。何せ、戦いという戦いの経験は、それ程無いからな。そこで、公爵は、森の民も謀反に協力させる事にしたんだ。森の民と異獣なら、王宮の城壁も易々と乗り越える事が出来る」


「そうか……」


「つまり、森の民は謀反の共犯だ。……いいか、お前がやる事は、その証拠を見つけ出すんだ。シェザールとしては、クオーキー伯爵殺害の犯人だから死妃の娘を捕まえようとしているんだ。あの娘を捕まえたんだ。そこで、公爵と森の民が共犯だという証拠さえ見付けたら、その罪は晴らされる。クオーキー伯爵は、謀反を起こす計画のひとつとして殺されたとな。なにせ、伯爵を殺した犯人が死妃の娘だという事で、その死妃の娘を捕まえる理由で森の民が街に入って来たんだ。シェザールとして、あの娘を牢屋に入れておく理由が無くなれば、晴れて自由の身だ。それこそ、大義名分この街に住む事だって出来るんだぞ」


『そんなの誰でも仕込める事じゃないの。ひょっとしたら、森の民があたし達を犯人にする為にしてるかもよ』

 シロリオは、モアミが言っていた言葉を思い出した。

 犯人は、暗殺集団の可能性もあるが。

 その通りになった訳だ……。


 ノイアールはシロリオの肩を掴んだ。

「そうなれば、お前もいつでもあの娘に会う事が出来るんだ」


 シロリオは、ノイアールを見た。

「ここの存在を他の者に知らせたくないのも、その為か」


「そうだ」

 ノイアールは、笑顔で頷いた。

「その証拠を見付け出すまで、俺達が公爵の計画を知った事は隠さなければならない。お前は、明日の朝、素知らぬ振りで公爵に今夜の事を報告するんだ。暗殺集団の事も船の関係者に襲われたと言え。いいか、お前の度胸が試されるぞ。公爵には、相当な策士がついているのは間違い無い。でないと、あの馬鹿公爵ひとりで、今回の計画を考え出すのは無理だからな。もしかしたら、俺達の動きを察知して、謀反を急ぐかもしれない」


「危ない橋だな……」

 しかし、シロリオは、その話に乗る決心がついていた。謀反の計画を知らせる事よりも、モアミの解放を何より重視していた。

 モアミを逃がすだけで無い。無実を晴らし、出来る事ならこの街に住んでもらい、そして……。


「ああ、そうだ。全てが上手く行く為には、この数日が踏ん張り所になる。それに、例えお前が上手く出来たとしても、公爵を騙しおおせるとは思えない。あの公爵の事だから、お前に対する疑いは晴れないだろう。だから、またあの暗殺集団が襲い掛かるとも限らない事は忘れるなよ」

 ノイアールが真剣な表情でシロリオを見詰める。


 シロリオも同じく真顔で頷いた。


「さあ。ここらで上に戻ろう。あまり長くここにいても、他のみんなに何かあると思われてしまう」


「そうだな」

 それに、考える時間が欲しい。シロリオは、あまりにも多くの情報に頭の中で整理出来ていなかった。


 ふたりが床の破れ目から顔を出した所で、見張りをしていたアイバスがシロリオに言った。

「死体を引き揚げたようです。確認をお願いします」


「お、その事を忘れてた」

 後ろから、ノイアールが言う。


「分かった。アイバス、それとこの穴をその辺りの物で隠すから手を貸してくれ。あと、分かっているだろうが……」


「この船倉の事は、他言無用ですね。任せて下さい」

 シロリオの言葉を遮って、アイバスは片手で丸を作って見せた。

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