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死妃の娘  作者: はかはか
第四章 疑念
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疑念 その7

 海に落ちた敵の死体を引き揚げている間、シロリオは他の船倉の場所を部下に探させていた。

 ノイアールによると、他に密輸品が隠されている可能性があるらしい。


「あれが、お前を追い掛けていた敵か?」

 小舟で死体を収容している様子を見ながら、シロリオがノイアールに聞いた。


「ああ。恐らくな」


「恐らく?」


「そう言うな。相手の正体は分からなかったんだ」


「だとしても、もう少し注意してくれれば良かったんだ。そうすれば、あんなに苦労する事無かったのに。俺なんか、もう覚悟してたんだからな」


 口を尖らせて言うシロリオの肩をノイアールは軽く叩いた。

「俺も同じさ」


 そこへ、アイバスがふたりの元に走って来た。

「船倉の場所が分からないので、気絶していた商人に聞こうと思いましたら、唇を噛み切って死にました」


「何っ?」

 シロリオは、ノイアールを見た。

 そこまで覚悟していたとは……。


 ノイアールも表情を曇らせている。


 商人は、貴族や兵士とは違い国や雇い主に忠誠を誓うような存在では無い。只、依頼を受け、契約をし金儲けの為に働く。そこに、義理や人情を挟む商人は、商人とは言えないとも言われている。


「そこまでして、秘密を守るのか……」


 シロリオの呟きにノイアールが答えた。

「という事は、只の商人では無いな。誰かの下で働いていた事になる」


 ノイアールは、言外に公爵の存在をほのめかしている。しかし、シロリオは、まだセーブリーの関わりを信じるつもりは無かった。

「仕方無い。俺達で探すしか無いな。行こう」

 ノイアールは、シロリオを促すと、先に立って船内に向かって行った。


 シロリオ達は、一階毎に丹念に調べて行った。それぞれの部屋の大きさを確認し、どこかに隠し扉でも無いか見て回る。


 下に進むにつれて、船内を漂う臭いはいよいよ酷くなっていった。

 最下層になると、皆、布を口に巻いてなるべく臭いを避けようとしていた。


「ここが一番下です。見ての通り、使われてない樽や予備の装備品等で雑然としてます」

 アイバスがふたりに説明する。


 そこには、区画割りされてなく、だだっ広い空間が広がっていた。天井が低く、身を屈めないといけない所に様々な道具が所狭しと置かれている。


「やはり、普通の密輸船だったんじゃないか?」


 シロリオが言うと、ノイアールは先に立ち、床を調べ始めた。


「さらに下か? 有り得ない話じゃないな」


 ノイアールもシロリオを見て頷いた。

「ここをぶち割ってみよう」


「よし。アイバス、何人か呼んでくれ」


 シロリオが言うと、ノイアールはそれを止めた。

「いや。俺達三人だけでやる。アイバス、他の者は近付けるな」


 シロリオは、驚いた。

「どういう事だ?」


「その方が良いのさ」

 ノイアールは、理由にならない理由を言う。


 アイバスは、ふたりの顔を見比べてしばらく迷っていたが、シロリオが頷くと、他の隊員を上の階に上げて、工具を手に戻って来た。


 床を破壊する作業は難しく無かった。

 二、三度強引に床を叩き割り、人が通れるくらいの穴を開けると、ノイアールの予想通り船底に別の船荷が隠されているのが見付かった。


「これだ、これだ」と、ノイアールが楽しそうに覗き込む。「さて、何が現れるかな」


 ノイアールが船底に下りると、シロリオも燭台を手に後に続いた。


 そこも天井が低く、満足に直立出来無いくらいのだだっ広い空間だった。

 そこに船荷が一杯積み込まれている。只、その量は、先程の船倉にあった量の半分にも満たないが。


「……成程。これは大っぴらに出来無いな」

 既に手近な船荷を破り開けたノイアールがシロリオを招き寄せた。

 そこには、袋の中に白い粉が一杯に入っていた。


「麻薬だ……」シロリオは、粉を少し舐めて呟いた。


「そう。恐らくこっちにある荷物は全て麻薬が入っているんだろう」


 シロリオは、同じ印が側面に描かれている船荷を見回した。全部で十数個はある。


「これだけでも莫大な利益になるぞ」

 シロリオは、ノイアールの言葉に頷いた。


 トラ=イハイムも巨大都市だけあって、あちこちに闇市場があり、麻薬に侵された多くの人々が廃人として打ち捨てられている。

 シロリオも警備隊を率いて麻薬の摘発に力を入れているが、麻薬は莫大な利益を生む。そのほとんどに貴族階級が絡んでいる為、横槍が入る事が多く、上手く行かないのが現状である。


「麻薬取引に手を染めている事が分かれば、即縛り首だ。奴らが必死になって逃げたのも、マタレバという爺が自殺したのも頷けるな」


 シロリオは、思わず唇を噛んだ。

 これ程の量を取り引き出来るのは、余程の資金を準備出来る実力者になる。それと同時に、この量ならば、一回だけで莫大な利益を生む。

 シロリオの脳裏に公爵家を飾る数々の美術品が思い浮かんだ。まだ、余裕の無い生活に苦しむ庶民達を横目にぜいらした調度品。


 しかし、シロリオは頭を振った。まだ、セーブリーの仕業だという確たる証拠は無い。


 そこへ、船倉の奥から戻って来たノイアールが真剣な表情でシロリオを手招いた。


「アイバスは、ここにいてくれ」

 ノイアールの指示に頷くアイバス。


 シロリオは、少し不安になった。ノイアールがそこまで人を避けるような事は滅多に無い。

 アイバスと視線を交わすと、シロリオは、ノイアールの後に続いて中腰で奥に進んで行った。

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