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死妃の娘  作者: はかはか
第三章 捜索
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捜索 その28

「お、今夜の白月も綺麗だな」


 監獄塔を出ると、既に陽も暮れて、警備や兵士達の篝火かがりびだけが辺りを照らしていた。


 夜空を仰ぎ見ると、やや青みがかった夜空に白月が浮かんでいる。


「『白月に問う。想い人の由無し事を我に教え給え』ってな」

 ノイアールは、シロリオを見て笑みを浮かべた。

「ライテ=ライズだ。今のお前の心境だな」


 約百年前にジェニサを支配していた頃のシェザール文壇で名を成した詩人ライテ=ライズ。

 家族愛や恋愛に関する詩で若者の支持を得た。

 現在では、古典派の詩人として有名である。

 『白月に問う』は、彼が好んだ詩型で、穏やかな心の内面を誌に表す時に使った。


「自分からわざと捕まったって、本当だと思うか?」

 シロリオは、ノイアールの言葉を聞き流した。


「それは、本人しか分からない事だ。もしかしたら、そうせざるを得ない状況にあったのかもしれない」


「それじゃ、死ぬつもりかな」


「娘に聞け。そういう事は」

 シロリオが口を閉ざしたのを見て、ノイアールは溜め息をついた。

「とにかく、動いてみる。恐らく時間は無いだろうが、まず伯爵事件を俺なりに調べてみるつもりだ。死妃の娘探しは、部下に動いてもらうから、心配するな。どっちにしても、俺達の前に出る気が無いとなると、簡単には見付からんだろう。それよりも、事件の裏を明らかにしたい」


「事件の真相を明らかにする事でモアミは助かるのか?」


「分からん。分からんが、何かしら繋がって来るかもしれん」


「そうだな。じゃあ、明日から宜しく頼む」


「おい。何言ってんだ。そんな悠長な事言ってられないだろう」


「?」


「今から、伯爵が倒れていた場所に連れて行ってくれ」


 シロリオは、先に立って歩き出そうとしているノイアールを見て驚いた。

「今から? もう陽も暮れたぞ」


「それがどうした。松明を持って行けば歩けるだろ」


「聖剣門も閉まるぞ」


「お前なら、警備の通用門を通してくれるだろ?」


「まあな」


「よし、行こう」


 シロリオは、どんどんと先に行くノイアールを慌てて追い掛けた。


 ふたりは、シロリオの馬を連れながら、事件現場に向かった。


 道は真っ暗で、監獄塔から離れて行くと、ますます人気も無くなってしまう。

 内城壁沿いの貴族邸は、すっかり静まり返り、屋敷の窓から漏れる灯りや遠くから微かに聞こえる人声以外に耳にするのは、自分達と馬の足音しか無い。


「この辺りだ」

 シロリオが案内した場所は、横に七メタルの内城壁があるマイディー子爵家とラヌバイ男爵家に挟まれた丁字路だった。

「ちょうど、この道の真ん中に倒れていたらしい」

 シロリオが松明で照らした。

「俺も現場で確認した訳じゃないから、大体の位置しか分からんが……」


「それは仕方無いさ」

 ノイアールは、松明を掲げながら、ぐるりと一回転した。

「従者はいなかったんだよな」


「発見当時にはな」


「傷跡は首だけか?」


「ああ。首から血を吸い取られていたらしい」


「噛み傷?」


「それは、分からないな」


「まあ、噛み傷だろうな」


「どうして分かる?」


「もし、擬装ぎそうしていたとしても、ご丁寧に短剣で斬る馬鹿はいないだろう。それくらいは、誰でも気付くさ。だから、少なくとも噛み傷に見せかけている筈だ」


「成程……」


 ノイアールは、足元の石畳を軽く蹴った。

「血の跡は無かった?」


「ああ」


「足跡も無し」


「そうだ」


 次に、ノイアールは内城壁を見上げた。

「大の大人の死体を担いでこれを越えるのは大変だな」


「大変なんてものじゃないぞ」


「だが、あのモアミならやりかねない?」


「……ああ」


「マジか?」あのチビ女がねぇ。


「……お前は、モアミが犯人だと思うか?」


「思うか、言われてもな。さっき初めて会ったばかりじゃないか。それに、言っておくがお前も昨日会ったばかりだぞ」


「ああ、そうだな」


「確かに可愛かったな」

 ノイアールは、シロリオに意味有り気な表情を見せた。


「馬鹿言うな」


「お前は、ああいう可愛らしくて子供っぽいのが好きなんだな。そして、守ってあげたいという変な正義感を持ってるよな」


「『変な』言うな、変なって」


 ノイアールは、シロリオの拳を避けながら笑った。

「所で、伯爵の死体の処理を指示したのは誰なんだ?」


「あー、それは。……公爵様だな」


 ノイアールは、軽く眉を上げて見せて、シロリオの反論より先に口を開いた。

「だからと言って、公爵が怪しいという理由にはならない。ああ、確かにそうだよ」

 ノイアールは、松明で照らされた石畳を眺めながら呟いた。

「……ただ、問題は、これに絡んでいるのが公爵だという事なんだ」

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