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死妃の娘  作者: はかはか
第三章 捜索
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捜索 その26

「何だか、騒々しいわね」

 モアミは、突き刺さるような視線でシロリオを見上げている。

 しかし、言葉にトゲは無く、穏やかな感じがする。

「ねえ。お腹空いたんだけど」


 モアミがふて腐れた様子で言うと、シロリオは困り顔で言った。

「うーん。もう少し待ってくれないか。今、動物の血を用意するように言っているからな」


「だと良いけど。あたし、結構味にうるさいんだよね。新鮮なのじゃないと許さないからね」


「分かった分かった」

 言いながら、シロリオは安心していた。朝と違って、モアミが友好的に話してくれている。


「……と言いながら、どうせあいつらに止められてるんでしょ?」


「あ……、ん~、分かるか?」


「分かるよ。ウイグニーさんの事だから、部下に用意させたけど、あいつらはそれを許さなかったんだよね。まあ、あたしを恐れているんだから、当然だよね」


「でもな。森の民の中でもちゃんと話が通じる人はいるからな。幾ら何でも、モアミを餓死させる訳にはいかないから、近い内に持って来れると思う」

 名前を呼ばれて、シロリオは少し頬が緩んだ。


 モアミは、口をへの字にしながら肩を竦めた。

「まあ、期待しないで待ってるわ」


「悪いな」

 シロリオは、鎖に繋がれたモアミの手首と足首を確認した。


「大丈夫よ。こんなので擦り切れるようなやわな皮膚じゃないから」


 確かに、モアミの手も足も傷跡らしきものはついていない。

「ほんとだ。痛くも無いのか?」


「見てごらん」と言って、モアミは手早くシロリオの剣を鞘から抜いた。


「おいっ」


「何にもしないから、見てて」


 シロリオは、モアミから剣を取り上げようとしたが、モアミが例の悪戯っ子剥き出しの表情をしてシロリオに剣を取り返さない。シロリオは、仕様が無いと諦めた。


「ほら」

 モアミは、何故だか楽し気にシロリオの剣を自分の腕に当てると、思い切り押し付けながら引いた。


「ちょっと、待てよっ」

 それを見たシロリオは驚いて、慌ててモアミから剣を奪い取った。

「何をするんだっ」

 シロリオは、表情を変えてモアミを睨み付けた。


 しかし、モアミは、そんなシロリオの顔を見てケラケラと笑っている。

「そんなに慌てる事無いじゃない。ほら、見て」

 モアミは、にこやかにシロリオに向かって腕を出した。


 シロリオは、目の前に見せられたモアミの腕を見て驚いた。

 あれ程押し付けられたのに血が出ておらず、剣の跡が赤く残っているだけだった。


「……」


「勿論、普通に斬られたら怪我する事あるんだけどね。でも、ウイグニーさん達よりも皮膚が強いから、軽い傷で済む事が多いんだよね」


「だからと言って、無茶したら駄目だろう」


「あのね、ウイグニーさん。あたしを同じ人間目線で見ちゃいけないんだよ。あたしは、竜の娘なんだからね」


「モアミはモアミだ。俺達と同じ人間だし、その証拠にどこから見ても竜じゃないだろう。違うか?」


「……」

 モアミは、ちょっと拍子抜けの顔をして目を伏せた。


「あ、それからな。今日は、俺の親友を連れて来たんだ。朝、言ってただろ? 伯爵殺害の犯人を捜す手伝いをしてくれるんだ。それで、一度モアミに会って話をしてみたいって言ってるんだ。どうだ? 会ってやってくれるか?」


 モアミは、ひとつ大きな溜め息をついた。


「嫌か?」


「別に」モアミは、シロリオを見上げた。「ウイグニーさんは、一応あたし達の味方になるつもりのようだから良いよ」


「そうか。良かった。おい、ノイアール。入って来いよ」

 シロリオは、振り向いて入口に向かって声を掛けた。


 シロリオに呼ばれてノイアールが顔を出す。

 ノイアールは、入口に立つとモアミに笑顔を見せた。

 取り敢えず、自分が敵では無いという事を見せなければならない。


 モアミもノイアールをじっと見詰めた。

 隙があるシロリオとは違って、雰囲気が違う。確かに仕事が出来そうな感じを受けた。


「やあ、初めまして」

 ノイアールは、モアミが自分を確認した所を見て、部屋に入って来た。

「ウイグニーの友人のノイアール=ベニスンと言うんだ。宜しく」


 モアミは、一度シロリオに目を向けてから、もう一度ノイアールを見た。

「あたし、モアミ」


「話は、ウイグニーから聞いているよ。事件の内容にどうも不審な点があるという事だからね。そこから、調べてみるつもりさ。上手く行けば、君の無実も晴らせるかもしれない」


「別にどうでもいいけどね」

 モアミは、吐き捨てるように言った。


「モアミ。そう言うな」

 シロリオが諭すように言う。


「だって、そうじゃない。朝も言ったけど、あいつらはあたしの命を狙っているのよ。その殺人事件の捜査がどうなろうが知ったこっちゃないよ。どっちにしたって、あたしは殺されるの。まあ、あたしだって、只では殺さるつもりは無いけどね」


「しかしな、真犯人が見付かれば、ひょっとしたら、モアミ達の味方も出て来て、流れが変わるかもしれないんだぞ」


「見付かる前にやるつもりだよ、あいつらは。この街を虱潰しに探して、あたし達全員を始末するつもりさ」


「その事だけど……」ノイアールが口を挟んだ。「仲間の居場所を俺達に教えて貰えないか? そうすれば、君の仲間と話し合って、何か対策を取れると思うんだが」


「……」


「そうさ。モアミ、それが良い。絶対に他には漏らさないから、教えてくれないか?」

 シロリオは、前のめりにモアミに言った。


「それは……、言える訳無いじゃない」モアミは、目を逸らして、まだ剣の跡が残っている自分の腕を見た。

 モアミもシロリオを信用し始めているのか、仲間の事を思い出したのか。


 ノイアールは、さっきまで威勢の良かったモアミが一瞬で弱々し気な表情を見せた所に注目した。

 ノイアールの見る所、まだモアミは子供っぽさが抜け切れていないようだ。口を開けば、正直に自分の気持ちを言葉にするし、顔にも出易い。今、モアミがどういう気持ちでいるのかが容易に想像出来る。

 死の娘という運命を背負わされて、生まれてからずっと苦労のし通しだった事もあり、警戒心は強いのだろう。ノイアールを見るモアミの目は、まだ警戒が解けていない。だが、自分の心を操るすべは未熟なままだ。


 そういう正直な所と不憫さにシロリオは惹かれたのかな、とノイアールは思った。

 そして、確かに可愛い。

 ノイアールは、朝の女乞食の顔を思い出していた。

 顔を見たのは一瞬の事で、あまり覚えてない。

 同じくらいの年齢ではあるし、女乞食とモアミは似ていなくも無いな、と思った。

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