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死妃の娘  作者: はかはか
第三章 捜索
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捜索 その18

 現ローゼンバル王家は、主流どころとは言えない家柄である。


 ふたつ前のジフ王家の時に分かれた家で、一時は、伯爵にまで身分を落としていた事もある。


 それが、シェザール王家の座を手にする事が出来たのは、ひとえに前マイハン王家のたったひとりの生き残りの王子が聖剣戦争中に暗殺された為だ。


 その時、流浪中のシェザール王族の中で、早々とまとまった戦力を保持して王に名乗りを上げたのが先代女王タルテア=ミッソリーネ=ローゼンバルだった。


 タルテアは、東方の貿易国家フィレルの後ろ盾を得て大船団を率い、ナパ=ルタの海を横切って一気に西方ロフィリ地方に上陸。

 この奇策で根拠地を確保すると、レフルスの反撃に苦労しながらも徐々に勢力を拡大していった。

 常に部下を思い遣り、戦には先頭に立ち、勇猛果敢な指揮振りを見せていたタルテアは、兵士や国民のみならず、他民族の人気も高かった。

 徒手空拳も同然の状態で乗り込んだシェザールが何とか形を整え、周囲の土着勢力を味方につける事が出来たのも、タルテアの持つ強い魅力の成せる技だった。

 その為、タルテアがトラ=イハイムへの帰還途上で命を失った時は、シェザールの民を始めとして、多くの人々に衝撃を与えた。


 タルテアの後を継いだのは、現女王ティアラフ=カレディアン=ローゼンバルである。

 タルテアの妹で、姉と違い、大人しく引っ込み思案な性格をしている。

 自分に自信が無く、何でも部下任せにしている。


 年齢は、二十六。他に兄弟は無く、近い身内もいない。まだ結婚していない為、もし、ティアラフに万が一の事が起きると、ローゼンバル王家は断絶になってしまう。


 現在のシェザール政府は、タルテアが残した自由で挑戦的な気風がまだ残っている。

 ティアラフは、姉を尊敬していた為、タルテア時代の高官達はそのまま残してある。

 その高官達としては、今の気風を変えたくない。ローゼンバル家が絶えてしまう事を恐れている者が多い為、事有る毎にティアラフに婚姻を勧め、相手を探すのに力を入れている。

 ただ、極度に人前に出ないティアラフである。本人としては、見知らぬ相手と会う事だけでも気後れするというのに、結婚などという事までとても考えられないのだ。

 大戦を生き抜いた高官達には、ティアラフに強く進言出来る人物が残っていない為、なかなか先に進めない状態にある。


「彼らが陛下を心配するのは当然の事です。もう少し、耳を傾けては下されませんか」

 セーブリーは、王宮に上がり、ティアラフに拝謁していた。


 ティアラフは、謁見時にも顔を出すのを拒否している為、見回りの世話をする女官や限られた高官以外とは御簾越しに会う事にしている。

 セーブリーも例外では無い。今も頭を下げたまま、御簾みす越しにティアラフに向かって声を掛けている。


「公爵殿のご心配も痛く感じております。ですが、私としては、今しばらく待って頂きたいと願うのです」


 女王が王家の血を受け継ぐとは言え公爵に対して敬語を使う。

 これは、公爵だけで無く、他の人間に対しても同じだった。


 幼い頃に聖剣戦争が始まり、大戦中レフルスや森の民に追われ、心の底に恐怖を植え付けられたティアラフは、容易に他者を信じず、自分を強く卑下しがちな人間に育ってしまった。

 その為、いつも自分が信じる人間にしか顔を見せず、王宮では常に御簾を使い、その背後に警備兵を付けている。


「私自身、大変情けなく感じているのですが、全く気持ちが前に進もうとしないのです。太陽が輝く日でも雲が空を覆う日でも雨が地面をしとつく日でも同じなのです。この私を信じ支えてくれる民の前にひと時でも顔を出して、感謝の気持ちを表さなければならないと分かっているのですが、指の一本、足の一歩も進む事が出来無いのです」


 セーブリーでさえ、聖剣戦争中にティアラフに会った事があるのは数回だけしかない。

 大戦後は、全く王宮深くから出て来る事無く今に至っている。

 女官に聞いてみると、御簾の向こうでも、すっぽりと黒い頭巾を被り、厚い着物を重ねているという。

 両親や頼り切っていた姉の死に打ちひしがれたとしても、行き過ぎでないかという声は広まっていると聞く。


 全く処置無しだな。

 セーブリーは、今日の所は下がる事にした。

 友人の伯爵に頼まれて進言しに来たものの、こうまで頑なだと攻め手が全く見えて来ない。


 接見の間の前には、横長の広い内庭がある。

 白皇宮は、官吏達が仕事をする『表の院』と接見の間や広間、王族の私的空間等がある『奥の院』に分かれていて、その間を内庭が区切っている。

 表の院と奥の院は、内庭を囲むように渡り廊下が伸びている。

 白皇宮の象徴である三つの塔は、奥の院の上に聳え立っていて、塔には王宮の使用人や限られた高官達しか足を踏み入れる事が出来無くなっている。

 大戦前は、もっと気軽に出入り出来たものだった。

 これも、ティアラフの指示によるものらしい。


 セーブリーでさえも、ティアラフに会える場は基本的に接見の間しか無い状態になっている。

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