【閑話休題】
業火が国を覆っていた。
各地で罪人が磔にされ、赤い炎が罪人を飲み込んで行く。
まだ、幼かった僕は、叔父叔母に手を引かれ、村の広場でその光景を見た。
真夜中に燃え上がる火の粉は、家々の屋根に飛び、天に舞い上がり、村人の心を歓喜と高揚の色に染めていた。
皆が口々に叫んでいた。
「悪魔よ、去れ! 竜の呪いよ、消え失せろ!」
村の神官が両手を大きく広げて高らかに『喜びの祝い言葉』を唱えている。
村長も鍛冶屋のお爺さんも車夫のお兄さんも水車小屋のおばさんも恍惚とした表情を浮かべて炎に魅せられていた。
僕は、その熱気と怒号と悪意に押し潰されそうになり、叔父と叔母の手を引っ張りながら、早く帰りたいとせがんだ。
しかし、叔父も叔母も険しい表情をしながら、逆に僕をけしかけるばかりだった。
今思えば、何故そこに父母がいないのか、よく分かる。
すぐ横にいた姉がどうして両手を固く握りしめていたのかも。
父と母は、よく病で臥せっていた。
病になるのは、決まってこの『天神の祝祭』が行われる日だった。
叔父と叔母が父母に対して、何度も説得をしていた事を覚えている。
姉が母とふたりだけで深刻な表情をして話していた事を覚えている。
きっと、叔父と叔母は、僕達の事じゃなくて自分達の事を心配していたんだ。
姉だけで無く、僕まで邪教に染まってしまったのが知られたら、一家どころか一族に累が及んでしまうと。
でも、その心配は、後で当たってしまった。
この時、僕の家の天井裏に竜の護符が隠されている事までは叔父も叔母も知らなかったんだ。




