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死妃の娘  作者: はかはか
第三章 捜索
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捜索 その10

「はあ~。父君のせいでその格好をしているのですな」


「いや、この格好はそのせいでは無くて……」


 すっかり意気投合してしまったシロリオとネスターは、監獄塔まで一緒に歩く事にした。


「母君も妹君も戦争で死んだんじゃね」


「はい。戦の常として仕方無い所です」


 ネスターは、神妙な表情でシロリオを見下ろした。

「シロリオ殿は、おいら達を恨んでいるのかいな?」


「家族を亡くした事ですか? いえ、先程も言いましたようにこれは戦の常です。もう諦めています」

 シロリオは、努めて明るく言った。

 この森の民が余計な気遣いをしないように。


「そうかいな。……そうだよな。今さら言っても仕方無いな」


 森の民は、冷静な印象が強い。冷静と言うか冷徹だとシロリオは思っている。

 その中で、ネスターは珍しく感情を表に出す方だ。これも人間社会での経験があるせいか。


「大丈夫ですよ。そんなに気を使わないで下さい。それを言うなら、ネスター殿も先の戦いでは多くの仲間を失ったでしょうに……」


「まあ、一緒だいな。こっちもあんたの人間をたくさん死なせた。あんたの方もこっちの仲間をたくさん死なせた。あんたの言う通り、お互い様じゃんな」

 そう言うと、ネスターはシロリオの肩を優しく叩いた。


 ただ、シロリオからすると、それは優しいなんてものじゃなかったが。


「所で、ネスター殿は死妃の娘追跡の為に呼ばれたという事ですが……」

 シロリオは、肩をさすりながら苦笑いで聞いた。


「ああ。そうなんだよ。死妃の娘とやらは力が強いから、このおいらしかいないと呼ばれたんだよ」

 そう言って、ネスターは右腕を上げて巨大な力こぶを見せた。

「おいらに敵う奴ぁ、森の中でもそうそういないかんな」

 自慢げにネスターは笑いかけた。


「あなた方は、死妃の娘の命を取るつもりでいるのですか?」


「う~ん。そうだよな」ネスターは、困った顔をした。「おいらは、そういうのは嫌いなんだけど、フォントーレスの兄者は本気みたいだけどなあ」


「それは、今捕まえている死の娘も同じですか?」


「そりゃ、当たり前だね。おいら達、森の民は死の子供を許す事が出来無いからな~」


「そうですか……」

 やはり、モアミも許されないのか。

 シロリオは、改めてモアミの厳しい運命を思わずにいられなかった。


「でも、おいらはそこまでしなくてもいいんじゃないかな~って思ってるんだけどなあ」


「え? ネスター殿は反対なのですか?」


「だって、昔の話だろ? 今の死の娘はなんもしてないがな。それなのに、追い回して捕まえて命を取るなんて、酷い話だと思わないかえ?」


「同感です」

 シロリオは、即座に同意した。


 これは意外だった。森の民ならば全てが死妃の娘を恐れている訳では無いのか。

 シロリオは、このネスターなら自分の話を聞いてくれるのではないかと思い始めた。

 幼い頃、人間と生活した事があるだけあって、話が合わない相手では無い。

 戦士でもあるし、フォントーレスもネスターの言葉なら耳を傾けてくれるのではないか。


 シロリオは、慎重に言葉を選びながら話した。

「ネスター殿のその意見は、とても正しいと思います。森の民の中でそういう意見を持つのは大変だと思いますが、それを貫くのは並大抵の事では出来ませんよ」


 シロリオに持ち上げられて、ネスターは、満更でも無い顔をした。


「確かに、今の死妃の娘が四百年前の災厄を引き起こした訳ではありません。スーシェルという娘だって、逃げるばかりで何かをしようという動きも見せていません。という事は、そういう欲望を持ってない可能性だってあります。その考えをフォントーレス殿はお持ちでは無いのでしょうか?」


 ネスターは、腕組みして頭をひねった。

「さあな。兄者は、小難しい事ばかり言って、何を考えてるのか良く分からんだい」


「恐らく、理屈では分かっていると思います。ですが、古くからの言い伝えに縛られてしまっているのではないでしょうか? あるいは、周りの意見に耳を傾けざるを得ない状況とか……」


「うん。おいらも四百年前の事は何回も聞いているかんな。やっぱり、正直死の娘は怖いよ。一度あった事が二度と起こらないとも限らないかんね」


「ですが、四百年前の悲劇は、レフルスの山奥の貧しい一族に生まれた死の子供が起こした事では無いですか。今の死の娘達は、普通にシェザールで暮らしています。そんな子供達が再び森の民に襲い掛かるでしょうか?」


 シロリオの問いにネスターは顔をしかめて考えた。


 シロリオは、さらに畳み掛けるように言った。

「逆に、死の娘達に安定した生活を提供する事でそういう攻撃的な姿勢が姿を消して穏やかになるのでは? 今のシェザールと森の民でもそうです。死妃の娘相手に手を結んでいるではないですか。少し前までは考えられなかった事が起きています。私とあなただってそうです。ちゃんと話し合う事で親しい気持ちが生まれ、友好的な関係を築く事が出来ると思います」


 シロリオの言葉を聞きながら、ネスターは何度も頷いた。

「ふん、ふん。成程ね。そういう事もあるかいな」


「ネスター殿にもご理解頂けましたか?」


「ああ。分かるだよ。フォルエナは、おいらの事をいつも馬鹿にしてるが、ちゃんと話を聞く事は出来るだい」


 成程。

 森の民の中でも、ネスターはそういう風に見られているのか。


 シロリオは、少し心配になった。

 そのネスターの言葉にフォントーレスは耳を傾けてくれるのだろうか。逆に言い負かされてしまわないか。


 しかし、出来る事はしておきたい。シロリオは、声に力を入れた。

「私のこの意見を是非、フォントーレス殿にも伝えて頂きたいのです。シェザールの人間である私よりもネスターからの言葉なら、フォントーレス殿も聞き入れてくれるのではないでしょうか」


「そうかもしれんかもな~」

 ネスターは、シロリオの言葉に心動かされていた。

「う~ん……」と言いながら、腕組みをして考え始めた。


「もし、それが出来たら、ネスター殿は死の娘と森の民の戦いに終止符を打った者として、後世に名前が残る事になりますよ」


 このシロリオの後押しは効いた。

 ネスターは、思わずシロリオを見ると「それだっ」と叫んで手を叩いた。


「おいら、今まで散々みんなに馬鹿にされ続けていたんだ。頭が働いて無いだの、図体ばかりで役に立たないだのって。でも、おいら達と死の娘が仲良くなる手助けをおいらがすれば、みんなの見る目が変わるだいの」


 簡単だな。

 こういう相手は、魅力的な餌を見せれば喜んで食らい付いて来る。


「そうです。それが出来れば、ネスター殿は、一躍森の民の英雄になれますよ」


 ネスターは、大きな顔に笑みを浮かべながら聞いていた。

「よし。今夜にでも兄者に言ってみるだよ。おいらに任せておけ」と、朗らかに胸を叩いてみせた。

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