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死妃の娘  作者: はかはか
第三章 捜索
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捜索 その8

 長い行列を待った後にシロリオの番になると、担当の警備隊員が拍子抜けしたような表情になった。

「ちょっと、ウイグニーさんじゃないですか」

 隊員は、シロリオの姿を上から下まで見回した。


「何ですか。そんな格好して。もお、普通に制服着て下さいよ」


「いやあ、悪い悪い。申し訳無い」

 シロリオは、反省しながら頭を掻いた。

 確かに、この格好は一度警備隊本部に戻ってからでも良かったな。

 いつもは、行列関係無く門を通っているし、その方がひとりでも警備の手を煩わせる事が少なくなる。


「例の事件の絡みなんでしょうが、今は、その関係で余計忙しくなっているんですよ」

 隊員がシロリオを通しながら言う。


「何だ。そっちにも影響があるのか?」


「ええ。ロクルーティ公爵が、もし異獣が暴れた時の為に警備は厳重にしなければいけないっていう事で、公爵の私兵を第二区の警備に手伝わせようという話になったんです」


 それは、聞いた。


「それを聞いたうちの副長が怒ってですね。第二区は、王都警備隊で十分だと言ったもんですから引っ込みがつかなくなってしまってですね、第二区の見回り回数の増加とか内城壁の警備強化とかで人出が足りなくなっているんです」


「あれ? 公爵の兵は今日入ったんじゃないか?」


「それですよ。それで副長激怒して、公式にラーエンス総督に抗議に行くって大騒ぎになってるんです。絶対必要無いから、出て行けって。そのせいで、公爵の兵は行き場が無くてそこら中にたむろってますよ」


「総督に抗議? それ、本気か?」


 ラーエンス。

 王都を中心とした中央総督府の長であり、シェザール王国内務卿、ロレス=フィクター=ラーエンス伯爵。

 若き天才。もはや伝説の人物となりつつある。


 父をシェザール、母をフィリアに持つロレスは、シェザールの民として育てられ、レフルス大戦中は、国を追われた家族と共に西の大河アメアス河まで避難した。


 シェザールの他の男と同じく、国家再興を願う父親が兵士として雇われた後、周囲のシェザール避難民と同じく極貧の生活を過ごしていたが、アメアス河が流れるロフィリ地方には、かつてシェザールによって生活圏を奪われたフィリアの民が多く移住していた事もあって、同じフィリア出身の母親は、その伝手つてで何とか職に有りつける幸運を手にした。


 知り合いの家族、老人や子供達が栄養失調で次々と命を失う中、最低限な生活ながらも生き延びたロレスは、フィリアの古老の知己も得て、フィリアの子供達が学ぶ私塾に通う事も出来た。

 大人しいながらも利発な子供だったロレスは、フィリアの学問だけで無く、シェザールの学問や兵学、経済学までも若くして身に付ける。


 その能力を買われたロレスは、十七歳にして、手の付けられない有り様だった避難民の管理監督を任された。

 ロレスは、共に学んだフィリアの若者達と協力して、現住の避難民の人数とさらに流入して来る避難民の人数を割り出し、必要な居住区の確保、収容能力を超えた避難民の強制移住と移住先の居住地の確保、居住区内の労働可能人数の割り出しと仕事の割り当て、食料や日用品等の物資の確保等を短期間で軌道に乗せる事に成功した。


 その手腕に目を付けたのが才女イシュメナだった。

 当時、シェザール軍は、ロフィリを拠点にレフルスと森の民と厳しい戦いを繰り広げていた時だった。

 シェザール復興政府の国王補佐兼宰相代理だったイシュメナが、ロレスを行政府に迎え入れると、ロレスはその才能を如何無く発揮し、占領地域の統治機構の構築、各種物資の輸送供給、地域内の円滑な移動等に大きく寄与した。

 これにより、シェザール軍は後方に気を取られる事無く戦いに集中出来たのだった。

 トラ=イハイム帰還後は、その多大な功績により、異例の早さでの伯爵昇進と内務卿就任を果たした。

 フィリアの血を持つ者では、シェザール史上最高の出世だという事で反発も大きかったと聞く。


 シロリオは、実際に話した事が無いが、寡黙で温厚篤実、自分の功をひけらかす事無く、質素堅実な人物だと聞いている。

 公平で差別の無い平衡感覚を持ち、決してシェザール優位の統治方法で無く、法律も裁判も中立を原則に掲げている為、特にシェザールに住む他民族の住人からの支持は高い。

 フィリアの民においては、自分達に近しいロレスがいる事から、安心して生活が出来ると認識しており、シェザール支配地でのフィリア人口の増加にも繋がっている。


 そういう人物である。おいそれと会える相手では無い。

 しかも警備隊の副長の身で隊長を頭ごなしに行動してしまえば大問題に発展しかねない。


 シロリオもアイバス相手に毎日のように不満を口にしているが、大体は精神的な発散なだけで終えているのが実際だ。


「まあ、僕らも話半分で聞いていますけど」

 そう言いながら、隊員も笑った。


 王都警備隊の副長は、比較的頭に血が上り易い。

 誰もが口先だけだと分かっている。


「俺も我慢ならない事は何度もあったが、さすがに総督に意見するなんてのは、さらさら考えなかったな」

 シロリオが笑いながら言うと、隊員も何度も首を縦に振りながら笑った。

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