表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死妃の娘  作者: はかはか
第三章 捜索
33/151

捜索 その1

「という事は、あの娘は死妃の娘ではありませんね」


 フォンバーリの言葉にシロリオは驚いた。


「それは、どういう事ですか?」


 モアミと話し終えたシロリオが監獄塔を出ると、ぼんやりとした月明かりの元、フォンバーリが森の民達に指示を出していた。

 モアミが監獄から逃げ出さないように監獄塔の周囲に森の民を手配している。


 シロリオが振り返ると、森の民が異獣と共に担当場所に移動しているのを監獄塔の衛兵や看守達が怯えながら遠目で眺めていた。


「死妃の娘の名前は分かっています。つまり、テルファムの王女ですが。長女のスーシェルと次女のオーシャです。あの娘の名前がモアミとなると、テルファムの娘では無いが、別の死の女から生まれた子供だという事になります」


 シロリオは、涼しい顔で言うフォンバーリに思わず詰め寄った。

「ちょっと待って下さい。そんな話は聞いてませんが……」


 苦労して追いかけ捕まえた相手が死妃の娘で無い。

 聞き捨てならない話だ。


「もちろんです。私も初耳なので……」

 フォンバーリは、指示に従う森の民達の様子を見ている。

「まあ、知らないより知って良かったです。オーシャは、あの夜以来、竜の巣で隔離されているので、我々もスーシェルだけを捕まえれば良いと思っていました。もし、そうなっていたら、大変な事になっていました。そのモアミという娘がひとり残り、自由に動き回っていた可能性がありましたね」


 シロリオは平然と言い放つフォンバーリを見て、苛立ちを覚えた。

「本当に、他に死の子供がいる事は知らなかったのですか?」


 フォンバーリは、シロリオの気色ばんだ顔を見ても、ひとつも表情を変えない。

「我々に入っていた情報では、死妃の娘の他にふたりが街に入っています。ひとりは、死妃の娘が生まれた時から側にいる乳母だとは分かっていました。ですが、もうひとりについては何の情報もありませんでした。それが死の娘だという確証は無かったのです」


 国王警備隊の特別編成も今夜で終わりだと思っていたシロリオにとっては衝撃的な事だった。


 ロクルーティ公爵の私兵は、既に統率不能の状態になっている。

 普段はトラ=イハイムの郊外での生活を余儀無くされている為、ここぞとばかりに任された街の警備もおざなりにして、欲望の赴くままに下町で飲み食いに明け暮れ、賭博に興じ、女遊びに勤しんでいる。


 その分、国王警備隊への皺寄しわよせが部下達を疲弊させていた。

 公爵へ訴えても聞き入れられる事は無いだろう。逆に自分の管理不行き届きを責め立てられるのが落ちだ。

 それだけに、今夜の追跡劇には期待するものが大きかった。

 大きかっただけに、フォンバーリの言葉には愕然とした。


「まだ、スーシェルはこの街に潜んでいます。モアミとやらがいたのがその証拠です。それに、あの娘を捕まえる事が出来たのは幸いです。竜の血族は、仲間意識が強いので、恐らく娘を取り返しに来るでしょう。そこが狙い目です」


「この監獄塔を固めているのも、その為ですか」


「あくまで、これは娘の逃亡を阻止する為でした。おかげで、逆にノコノコとスーシェルが飛び込んで来た所を捕まえる望みが出て来ました」


「それなら、街での捜索は……」


「そちらも止める訳にはいきません。ただ、監獄塔の警戒もしないといけないので、規模は縮小せざるを得ませんね。森に追加の派遣を依頼しても何日もかかりますし、この調子で行くと、それまでには決着しているでしょう」


 それを聞いて、シロリオは少し安堵した。街中を動き回る森の民の数が減るなら、今よりかは国王警備隊の負担が減るだろう。


「あと残るはひとり。そのスーシェルという娘だけなのですね」

 シロリオは、念を押して聞いた。

 後から何人も死の娘が現れて来られては終わりが見えない。


「……情報に寄れば、あとひとりです」


 フォンバーリが返答するまでに少し間があった。シロリオは、その間が気になった。

「何か、他に気になる事でも……」


「いえ。何もありません。気にしないで下さい」


 フォンバーリが、微かに視線を外したのをシロリオは見逃さなかった。

 何かある……。

 しかし、何か隠していたとしても恐らく口を割らないだろう。


 シロリオは、最後に聞いてみた。

「ところで、伯爵殺人の犯人はモアミだと思いますか?」


 フォンバーリは、シロリオの質問に興味無げな視線を見せた。

「それは、あなた方が調べる事。我々には関係ありません」


 随分勝手な事言うな。大体、そっちが死妃の娘が犯人だと言い出したんだろうに。

 とは、口に出せないシロリオだ。

 つまり、犯人探しはしたくない。犯人を特定されたら困る、とも受け取れる。


 シロリオは、先程のモアミの言葉を思い出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ