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死妃の娘  作者: はかはか
第二章 モアミ
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モアミ その5

 フォンバーリは、ふたりの森の民と一頭の異獣を従えていた。


 シロリオは、その異獣を見て息を呑んだ。


 虎獣だ。


 三メタルはあろうかという体長に盛り上がる筋肉、赤い口から覗かせる巨大な牙。

 その岩石のような前足で叩かれるだけで人間は吹っ飛ばされるだろう。


 シロリオの後ろでは警備の部下達が怯えている。


 普通の虎を連れて来ても動揺するだろう。

 それが虎獣である。恐ろしいどころの話では無い。

 こんなのが近くにいたら、恐怖で命が縮まってしまう。


 シロリオは、慌てて両手を上げた。

「そこで立ち止まって下さい」


 シロリオは、階段横の空間を指差した。

 そこは、ちょっとした物置場所になっていて、使っていない椅子や机や古い家財道具に様々な拷問道具まで置かれている。

「おふたりは、そこにいて監視をお願いします」


「ここで?」

 フォンバーリが不満そうにシロリオを見た。

「ここでは部屋から遠いですが」


 部屋から階段までは五メタル程の距離があった。

 死妃の娘を相手に考えると確かに遠いかもしれない。


 フォンバーリの抗議に同意するかのように虎獣が唸り声を出す。


 しかし、シロリオは一歩も引きさがるつもりは無かった。

「私の部下の為でもあるのです。部下は、まだあなた方や異獣に慣れておりません。すぐ側にいられては、仕事に差し障りがあるのです」

 しかも、虎獣だ。自分だって一緒にいたくない。出来れば、目にしたくも無い。


「何事にも慣れというものがあります。その内気にならなくなりますよ」

 フォンバーリは、自分の感覚で話している。

 確かに、相手の気持ちになってみないと、この恐怖は分からない。


「その為に、まずはそこにいて欲しいのです。言われる通り、その内に慣れて来るでしょう。慣れたら、一緒にあの部屋の前で見張る事も出来ると思います」

 シロリオは、頑として許すつもりは無かった。


 フォンバーリは、シロリオの言葉を吟味するかのように、しばらく視線を逸らせていた。


 シロリオは、フォンバーリが何を言って来ても跳ね返すつもりでいた。


「……分かりました。我々とて無用な衝突は好みません。では、この場所を借りる事にしましょう」

 フォンバーリの言葉には、不満気な気持ちがありありと感じ取れた。

 それでも、フォンバーリは振り向くと指示を与えた。


 指示を受けた森の民のふたりは、早速居場所を確保する為に片付けを始めた。


 シロリオの後ろでは、部下達が安堵する様子が手に取るように分かる。


「この者達は、一日交代でここにいます。あなた方の邪魔をするつもりはありませんので、そちらは普段通りにして頂いて結構です」

 フォンバーリは腰に手を当てて、片付けの様子を見ながら言った。


「分かりました」

 シロリオも、重い拷問道具や棚やらを軽々と移動させるふたりに目を見張りながら答えた。


 しばらくして森の民と異獣が落ち着ける場所を確保出来たのを見たフォンバーリは、シロリオに軽く礼をするときびすを返して階段を下りて行った。


 余分な動作が無く、流れるような動きだった。


 シロリオは、そんなフォンバーリの後ろ姿を見送りながら、内心ほっとしていた。

 森の民と異獣を少女の側に置いたら、少女が落ち着かないだろう。

 少女の為にあまり監視を厳しくさせたくなかった。


 シロリオはフォンバーリを見送ると踵を返して尋問部屋に戻った。

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