表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死妃の娘  作者: はかはか
第二章 モアミ
27/151

モアミ その2

 シロリオは、フォンバーリを西棟の地下に連れて行った。

 地下独房は、螺旋状の狭い階段を下りた先にある。

 陰気なカビ臭い独房が細長い廊下に左右ふたつずつ向かい合わせに並んでいる。

 中を見ると、石造りの壁の隙間からは地下水が染み出していて湿気が充満し、寝ても起きても体が濡れた状態になるのは間違いない。

 その為、この独房に入れられた者は、ほぼ確実に激しく体力を消耗し、一年と持たずに生が尽きてしまうのだ。


 シロリオは、フォンバーリに振り向いた。

 松明に照らされた牢獄は、とても快適とは言えない状況を見せていた。

「御覧の通り、牢獄は大変狭く、鎖を取り付ける所もありません。娘を鎖から外してもよろしいでしょうか」

 元々、人間を投獄する事しか考えられていない。

 鎖に繋げる程の怪物を想定してないのだ。


「それは駄目です。鎖を外したら最後、娘は簡単にこの監獄から逃げ出します」


 予想通りだった。

 言われて、シロリオは考える振りをした。

「そうですか……。実は、二階の牢獄に尋問部屋がありまして、そこなら鎖を取り付ける設備があるのですが」

 シロリオは、素知らぬ顔で言った。


 シロリオ自身は、少女をこの牢獄に入れる気は無かった。

 少女に対して悪い気持ちを持ってないシロリオは、なるべく酷い扱いをしないようにと考えていた。

 取り敢えず、まずは自分達も少女を厳しく扱いのだという振りを見せておいて巧みに誘導する。


「二階ですし、部屋の前と階段さえ監視すれば簡単には逃げられないでしょう」


 フォンバーリは、そんなシロリオの気持ちを知らず、シロリオを見下ろしながら、しばし沈黙した。

「……仕方ありません。そこはもちろん警備は厳重でしょうね?」


 シロリオは、神妙な顔付きで答えた。

「もちろんです。うちの隊員を一日中付けますので心配は入りません」


「それでは心もとない。我が方からも監視を入れてもらいます。もちろん異獣も一緒に」


「我々が娘に便宜を図るとでも?」


 フォンバーリは、僅かに頬を緩めた。

「そんな次元で話している訳ではありません。娘を甘く見ないで頂きたい。奴からしたら、こんな建物、藁小屋わらごやと同じなのです。それに、あなた方が何十人集まろうとも相手になりません。ですので、この建物の周囲にも我々の仲間を配置させていただきます」

 フォンバーリは、先に立って戻り始めた。

「誤解を恐れずに言いますと、あなた方の警備を期待している訳ではありませんので」


 二階の尋問部屋は、牢獄とは違って尋問用の机や椅子、筆記具を収めておく棚等がある為、少し広めになっている。


 フォンバーリは、尋問部屋の木戸を見て顔をしかめた。

「この木戸は、鉄格子に代えられないですか」

 フォンバーリが木戸を動かしながら言った。


「改造するには数日かかりますよ。それに、鉄格子にしても、結局は藁小屋には違いないのでは?」

 シロリオは、嫌味っぽく平然と言い返した。


「確かに」

 フォンバーリは、シロリオの言葉の意味を理解してか知らずか、そう言うと、了解を得ぬまま木戸を力尽く引き剥がした。


「おいっ」

 驚いてアイバスが声を出すと、フォンバーリは言い放った。


「こんな扉。薄紙同然です」


「だからと言って……」

 憤りを隠さないアイバスをシロリオは手で制した。


「逆に廊下から直接娘を監視出来た方が良いです」


「どうぞ、好きにして下さい」

 シロリオは、アイバスに落ち着けと目で合図した。


「では、後でうちの者を連れて来ます」

 そう言い残すと、フォンバーリは去って行った。


 フォンバーリが見えなくなると、アイバスがシロリオに近寄った。

「本当にあいつらをここに入れるのですか」


「仕方無いだろう。でないと、娘を連れ去る勢いだ」


「そんな弱腰で良いのですか? 完全に足元を見られますよ」

 街に森の民を入れるだけでも認めがたいのに、向こうの良いようにされているようで不愉快になる。


「仕方無い。公爵は、妙に森の民を信頼している。ここで俺が文句を言っても聞く耳持たないし、意見が通る事は無いだろう」


「公爵は、何がしたいのですか? 私としては、あの公爵が一番森の民を毛嫌いしそうな感じなんですけど」


「俺も同感。だが、死妃の娘も確かにシェザールにとって恐怖になり得る存在だ。森の民にしか捕まえる事が出来無いなら利用してやろうという事だろう」


「方法としては、賢いとは言えないですね」


「あの……。よろしいですか?」

 そんな、ふたりの会話に部下の隊員が後ろから口を挟んで来た。


「どうした?」

 シロリオとアイバスが同時に答える。


「お願いがあるのですが。監視の担当者は、一日三回くらいの交代制にして頂きたいのです。森の民もそうですが、異獣のあの嫌な臭いが充満している所なんか、一日でも我慢出来ません」


 部下の言葉に思わずアイバスが苦笑した。

「確かに、それは想像したくないね」


 シロリオは、軽く溜め息をついた。

「分かった。好きなようにしろ。アイバス、お前に任せる。それと、どっかから、人ひとり寝れるくらいの板を持って来てくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ