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死妃の娘  作者: はかはか
第一章 追跡
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追跡 その7

「『死妃しひ』を知っていますか?」

 フォントーレスは、わざと声を低くささやくように言った。

 その瞬間、シロリオは目の前の森の民が一瞬体を強張らせたような感じがした。


「耳にした事はありますが……」


 死妃は、レフルスの一部の部族に伝わる伝統的な技から作り出される人間だと聞く。

 人間だと言うのは語弊があるかもしれないが。


 シロリオは、以前聞いた話を思い出しながら口にした。

「レフルスでは正妻の存在が絶対で、他の妻は、生まれがどこであろうと同じ地位になり、序列は付けられない。その為、子供も正妻の子供が相続し、正妻に子供がいなければ側室の子供の中から優秀な子を正妻の養子にして跡を継がせていると聞きます」


「そうです」

 フォントーレスは、同意した。

「レフルスの一部の部族の話ではありますが。正妻の地位は絶対で、他の側室は同等にしか見なされません。どんなに側室を気に入ろうと、正妻を上回る事は出来無いのです。という事は、正妻の子供が凡庸だったら、部族の将来が覚束おぼつかない。何と言っても、正妻の子が必ず跡を継ぎますから。つまり、問題なのは、正妻にあるのでは無く、正妻が産む子供の素質が前以て分からない所です」


 それは当たり前だ。

 だから、どこの家でも跡継ぎには頭を悩まされる。

「そこで、子供を産まない女性を作る事にしたと聞いてます。口にすると簡単ですが。自分の我が儘や嫉妬で問題を起こさない、子供を産まない女。そんな女を正妻にすれば、後は側室の中から優れた跡継ぎを好きに選ぶ事が出来る。問題は、その女はどこから連れて来るか。子供を産まない女はどこにもいない。だから、レフルスのその部族は、目的の女を自ら作った」

 シロリオは、そこまで言ってフォントーレスを見た。


 フォントーレスは、黙って聞いている。

 無言でシロリオに先を促した。


「……全ての条件を満たす女。その女は死者から作られた。どうやったかは知りません。ただ、その女は、見た目は普通の人間のように見えますが、中身は死んでいる。死んだ女に子供を産む事は出来無い。つまり、『死の女』。死の女を妻にすれば、死妃になる。死妃は子供を産む事は絶対に無い。これで、子供は側室しか生まれない。優秀な跡継ぎは選び放題。一族の未来は安泰です」

 シロリオは、ひとつふたつ頷くと両手を開いた。

「私が知っているのはそのくらいです」


「十分です。ザッケがレフルスを統一するまでは、レフルスはあなた方の記憶にすら残らない存在だったのですから、知らないのは仕方ありません」

 フォントーレスは、そこまで言って真剣な表情になった。

「死の女を生み出す技は、その部族の秘技として伝わっています。死妃を作る方法は、生きている女を使います。生きている女を永遠の眠りにつかせて、死の女として目覚めさせるのです。死者と同じ状態にさせるのです」


「女としての機能は失わずに、ですね」

 シロリオは、険しい顔をしながら言った。


「そうです。それが重要です。妻としての務めは果たしてくれないといけないですからね。子供は産まずに……」

 フォントーレスは、そこで口ごもった。

「普通は、そうなんです。その為に作られました」


 シロリオは、改めてフォントーレスに目をやった。

「『普通は』?」


「ええ」

 フォントーレスもシロリオの視線を受け止めた。

「この死妃の制は、数千年の昔から続いています。その間、死妃から子供が産まれた事はありませんでした。一度の例外を除いては……」


「一度の例外……というと」

 シロリオは、聞いてはいけないものを聞いてしまったかのように声を低めた。


「四百年前の事です。ある部族の死妃に子供が生まれました」


「それが一度の例外ですか」


「そうです。生まれてはならない子供です」


「それは、普通の子供ですか? つまり……、死人みたいな感じとか……」


「いいえ。普通でした。外見も中身もあなた方と変わらない普通の人間の子供でした」


「……奇跡ですか? 神の悪戯いたずらが起きたとか」


「では、ありません。死の女を作っていた職人がわざと子供を産む事が出来る死の女を作ったのです」


 シロリオは思わず身を乗り出した。

「え? 死の女なのに、子供が産めるように出来るんですか?」


「方法は分かりません。が、わざと生殖機能を残した死の女が作られた……」


 その技について何も知らない以上、どれ程難しい技術を使ったのかは分からない。

 しかし、実際に起きた事の異常さは理解出来る。

「……で、その子供が問題を起こしたのですね」


 フォントーレスは頷いた。

「その子供は、冥界の死者でした。その時から、我々森の民にとって、存亡を賭けた最悪の戦いが始まったのです」

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