表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死妃の娘  作者: はかはか
第三章 魔都トラ=イハイム
151/151

魔都トラ=イハイム その4

 城壁を乗り越え街に降り立つと、住人はすっかり寝静まって人間の姿はどこにも見当たらない。


 だが、ユイナの目には、人間のいなくなった往来を我が物顔に走り回っている他の生き物が見えていた。

 密集している木造の建物のきわから黒目蜥蜴くろめとかげが顔を出して一メタル程の長い舌をむちのように振りかざしている。

 屋根のてっぺんには、大型の牙蝙蝠きばこうもりが三羽たむろして、捕まえたばかりの獲物を奪い合っている。

 元気一杯の小鬼ダイチャがけたたましく行き来し、闇鴉やみからすが暗闇に目をこらし、集団で襲い掛かる標的を探している。


 昼間とは違い、夜が闇の獣達の天下に切り替わるのは、スカル世界の町の宿命である。

 例え、どれ程森から遠くとも、彼らはこの地上のあちこちに身を隠す場所を探す事が出来る。

 町が大きくなればなる程、建物が入り乱れ、狭く暗い隙間は闇の獣達にとって、住み易いねぐらとなる。

 だから、人が寝静まった夜は、静寂が支配する世界では無く、その生き物達が支配する人工の森と化すのである。

 人間達は、獣達の暴れる音や振動を感じ、どこからともなく聞こえて来る遠吠えや金切り声を聞きながら恐怖に包まれた夜を過ごしているのだ。


 ユイナは、目の端を過ぎ去る闇の獣達を無視しながら目や耳を最大限に利かせていた。

 どうやら、見た所、森の民や異獣は街中まで入ってはいないようだった。

 さすがに森の民が街中をうろついては刺激が強過ぎると考えたのか、今の所は街の外に拠点を作るだけで済んでいるようだった。


 まずは、その件については心配する事無いようね。

 ユイナは一先ひとまず安心した。


 『ある違和感』を除いては……。


 人間には捉えられない微かな感じ。

 竜の感覚を持ってしても、ようやく嗅ぎ分けられるかどうかの『暗黒感』……。


 一度、経験した事のある底無しの沼のような寒気がユイナを襲う。


 あの化け物だ。


 ユイナは、一旦立ち止まって呼吸を整えた。

 すぐ近くにいるという訳では無い。

 だが……、この皮膚にまとわりつくような感じ。


 間違い無い。

 『奴』は、この街に入り込んでいる。


 ユイナは、軽く溜め息をついた。

 これは、厄介な事になる。


 森の民は、スーシェル達がトラ=イハイムに向かっている事を知って魔獣をこの街に仕込んだのであろう。

 最早、竜の子を始末するには、あれを使うしかないと悟ったのだ。


 これは、魔獣に襲われる前に魔術師を見付け出し、さっさとこの街からおさらばしないと、危険な事になる。


 ユイナは、手近にいた黒目蜥蜴を瞬殺で捕まえると、素早くくびりり殺して首に噛みついた。そのまま、蜥蜴の新鮮な血を吸い取る。

 牛や羊と違って味は落ちるが、爬虫類系はどんな環境でも存在する為、貴重な食材になる。

 スーシェル達は、食べ物に困った時は爬虫類を探した。血を味わった後の肉の部分はメルが食べる役目になっている。


 何か手を動かしていないと、あの黒々とした物体に取り込まれそうな感じがしていた。


 簡単に勝てる相手では無い事は承知だ。

 だからと言って、魔術師探しを諦める訳にはいかない。


 ユイナは、落ち着いて深呼吸をした。


 朝になれば、スーシェル達がトラ=イハイム入りする前に宿を探さなければならない。

 まずは、街をひと通り見回りながら、どこかねぐらを探そう。


 ユイナは、血を抜かれて細くなった蜥蜴を放り投げると、軽くふた蹴りで住宅街の屋根に飛び上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ