ここに彼女はいない
人間一人がその人間に刻み込める思い出はどれくらいだろうか
一人の思い出は大きいものかもしれないし小さいものかもしれない
どんな人が大きな思い出をくれるのだろうか
家族 親友 愛した人
答えはいくらでもあるかもしれない
僕は愛した人を失い、その時から僕の時間は止まってしまった
冬の寒い日のこと、あの日は雪が降っていた。一段と冷えたその日は寒さに弱い自分にとっては最悪だったマフラーに顔を埋め「早く帰りたい」そんなことを考えながら家に帰る足を早めた
家に帰るバスの中、雪が積もった真っ白な世界を見ていた。前に雪が降ったのは二年くらい前だっただろうか。子供の頃なら雪を見て喜んでいたけれど今はそんな感情は薄れてしまった
ここは何もない所で、見渡せば田んぼくらいしかない、要するに田舎である。田舎と言っても茅葺の屋根の家が建ってたりはしない、ごくごく一般的な家が立っている。
人は家の中にいるのだろうか。子供も見えない。最近となっては雪を見て興奮する子供も減ってきたんだと少し残念に思う。バス停の前に女性が立っている。人がいないから本当によく目立ってしまう。白いコートに白いミニスカート、黒いタイツの女性。遠目から見たら風変りの女性、あんな服で寒くないんだろうか
そして彼女は思いのほか美人だった。大和撫子という所だろうか
自然と彼女に目が向いてしまう。でも無残にバスは彼女を引き離し、見えなくなってしまった。