8.隠ぺい工作
ラムターが自分以外にも多くいることを知り、安心した小山さんだったが、さらにRMTで摘発・処罰されるリスクを下げるための行動に出ることにした。
「やっぱり怖かったんですよ。だから私は運び屋を雇うことにしました。」
詳しい説明をしてもらった。
小山さんは13年の春頃に新しくドラクエ10を買ってアカウントを増やした。
もちろん複数アカウントになって金策の効率を高める気などはさらさらなく、
RMTの危険度を減らす運び屋にするためである。
小山さんなりにRMTについて考えた結果、RMT業者とメインアカウントが直接取引するのは危険度が高いという考えるようになった。
早い話が芋づる式、巻き添えのアカウント停止処分を恐れたのだ。
この考えに至ったのが、定期的にRMT取り引きする業者のキャラが変わったことである。
最初と2回目の取り引きのときに来ていた「ぁろむぅ」というキャラが、三回目の取り引きには現れず「おぅうぃ」にというキャラに変わり、それもしばらくすると「かぁるじ」という別のキャラに変わってしまう。
おそらく「ぁろむぅ」と「おぅうぃ」は永久アカウント停止(BANとも呼ばれる)になり、ドラクエ10の世界から追放されてしまったのだろうと小山さんは思った。どのような稼ぎ方をRMT業者が行っているのかは不明だが、強い敵のマップで素材を集めるそこそこのレベルに育ったキャラや、伝説・SS級の職人BOT、アカウントハックした強いキャラは業者にとってもBANされたくないのだろう。
なぜならゴールド稼ぎの中核を担っているためだ。
『主力キャラを温存させて、利用者に大金を渡すという危険な役割として運び屋というべきキャラを使っているのではないか?』
これが小山さんが何度もRMT取り引きをして推理した業者の内部事情である。
思い返すと運び屋のレベルはどれも低く、1ケタレベルのキャラもざらだった。
そんなキャラならば、いくらBANされても痛くもかゆくもない。
ここまで考えたところで急に恐ろしくなった。
レベル1ケタの業者キャラならいくらでもやり直しがきく。
しかし自分のメインキャラはどうだ?すでにかなりの時間とリアルマネー(この時点で約20万円)がつぎ込まれている以上、アカウント停止処分だけは絶対に避けねばならない。
もはや後戻りができないところまで来ていた。
業者と10回ほど高額ゴールドをやり取りしている自分はすでに運営マークされているかもしれない。
そして少しでもリスクを下げるため、業者を見習って運び屋アカウントを作ったというわけである。
今までの
『業者の資金稼ぎキャラ』
↓
『業者の運び屋』
↓
『小山さんメインキャラ』
から
『業者の資金稼ぎキャラ』
↓
『業者の運び屋』
↓
『小山さんの運び屋』←NEW!
↓
『小山さんメインキャラ』
にゴールドの移動経路が変わったわけだ。
この話を聞いて、ある都市伝説を思い出した。
アパート内の部屋で自殺や殺人があった場合、当然その部屋は空室になる。
大家は次にその部屋を借りる人間に、前の住民が不慮の死を遂げたことを通知する義務がある。だが、自殺が出た部屋を以前の家賃で借りる人間はおらず、大家は家賃の値下げをせざるを得ない。3割引や半額にしないと借り手がつかないのだ。10万の部屋なら7万や5万、場合によっては3万や4万に設定する場合もあるという。
しかし自分の落ち度でもないのに、年間数十万単位で損してしまうほどの値下げをするのが馬鹿らしいと思う大家が居てもおかしくない。
そんなとき、自分の知り合いに事故物件の部屋に1カ月だけ住んでもらう。
それから募集を行うと、自殺者の出た部屋でも前の住民(1ヶ月だけ住んだ知人)は問題なく住んでいたので、新しく借りる人に事故物件である告知の義務はなくなる。
こうして大家は事故発生前での金額で部屋を貸すことができるのだ。
「そんな感じですよ、僕のメインキャラへの防御壁ですね。もっと言うとトカゲのしっぽ切りです。」
自分のキャラを守り、RMTを続けるためにここまでの熱意を持って実行する小山さんに私は妙に感心してしまった。この熱意をまともなゲーム内金策に使うことはないのだろうか。
愚かしい質問ではあるが、私は『やばいと思った時にRMT止めようとは考えなかったのですか?』と念のため訊いてみた。
「ドラクエ10はRMTあってのゲームですよ、止めるわけありません。
毎日討伐に並んで3~4万もらうなんてアホらしいですよ。
1年頑張っても1500万ですか?
今(15年11月)の相場じゃ装備1セット買って終わりになっちゃいますって。
僕は討伐50匹時代にサマドン黄50引きましたけど、売らずに寝ましたから。」
予想通りの答えが返ってきた。
※日替わり討伐とは、1日1回だけ挑戦できる日替わりのモンスター討伐イベント。
経験値とゴールドを稼げるコンテンツ。金策として毎日行うプレイヤーも多い。
2016年4月現在の最高額は約4万G。
日替わり討伐リストは共有できるので権利を売ることもできる。
小山さんが昔引いたサーマリ・フォレスドン黄色50匹(通称サマドン)の依頼は5000Gほどで権利を売っても行列ができる位の人気だった。睡眠時間を削って売り続ければ1日で1000万Gも夢ではなかった。
盤石の体制を固めた小山さんであったが、とうとう運営からの処罰が下る時がやって来る。