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7.職人情報開示事件

「張り込みした後にもラムターの多さを実感する事件が起こったんですよ。

自分のフレンドに沢山ラムターが潜んでいたことが判明したんです。それも言い訳できないレベルで。」


バージョン1.2実装後、小山さんのフレンドリストは上限いっぱいの200人に達していた。

フレンドがいっぱいになるたびに小山さんはフレンドを容赦なく切っていった。

切るフレンドの条件はたった一つ。ステータスの弱い奴。攻撃力が自分より15以上劣るキャラを定期的に『選別』して、ふるいにかけていった。

エンジョイ勢・ライト勢は真っ先にフレンドリストから姿を消した。

小山さんはさらにフレンドを選別するため、強いキャラの集うフレンド登録会に顔を出すようになった。フレンド登録会は2ちゃんで主催されていて、参加には『爪装備で攻撃力●●以上』『ソーサリーリング回復1以上』など、一般プレイヤーにとってかなり厳しい基準が設けられていた。

一般プレイヤーにはきついハードルでも、RMTというドーピングを使った小山さんは簡単に乗り越えることができた。


「登録会に顔を出すと、さすがにステータスに自信のあるキャラが多かったですね。みんな結構強いです。私はここでもトップクラスでしたが、それ以上に強いキャラも居て驚きましたよ。悔しくて登録会が終わった後にRMTで更に強い装備買ったりしたもんです。」


2ちゃんの登録会のルールにはこんなものがあった。

・ログアウト時、指定された職業で酒場に預けること

・広場の情報をフレンドには公開すること。

これは互いのフレンドを効率よく利用するために定められた決まりで、

フレンドをサポート仲間として雇いたいときに強い職業を借りることができるようにするための措置だった。

もし、ログアウト時に弱く戦力にならない職業で預けているのがわかると容赦なくフレンドが切られたり、最悪2ちゃんに晒されることもあったというから恐ろしい。

酒場に預けた職業を監視するためのマイページ公開必須の決まりだった。

ところがこの登録会ルールが思わぬ形でラムターをあぶり出すこととなる。



しばし時が流れ、バージョン1.2が終わり、バージョン1.3が始まった。

新職業の賢者とバトルマスターにアストルティア中が興奮しているさなか、フレンド登録会のスレッドには激震が走った。

1.3大型アップデート情報に次のような項目があったことを殆どの人が見落としていたのだ。


>マイページの「つよさ」に、職人情報が表示されるようになりました。


何のことはない一文であるし、普通のプレイヤーにとっては『昔そんなアップデートがあったの?』というレベルの出来事だろう。

実際、新職業や畑システムの実装に比べると、全くとるに足らないものである。

しかしラムターにとってこの変更は死活問題だった。


以前の章で、最強クラスの装備をしている小山さんがフレンドにRMTを疑われ、金策方法を尋ねられた時の言い訳を覚えているだろうか?

小山さんは「職人をしている」と答えた。もちろん嘘である。職人などは自分の性にあわないとすぐにやめてしまった。

ところが今回のアップデートで新しく表示されることになった小山さんの職人レベルの欄にはしっかりと「D級職人」と書かれていたのだ。これがフレンドから丸見えとなってしまうというのに!


※職人のランクは、伝説、SS、S、A、B、C、D、E級に分かれている。

職人で沢山物を作った人がランクがアップしていく。

当然職人で稼いでいる人は必然的にランクがSS級、伝説級になっている。

小山さんのように即飽きてD級どまりの職人は★3はおろか、★1の装備を購入するゴールドを稼ぐことはできない。


D級職人がなぜ最新鋭の装備で身を固めることができるのか?

勘のいいフレンドは間違いなく気付いてしまう。

こいつ、ラムターだと。

小山さんに最大のピンチが訪れた。


「職人未経験なのに大金持ち、どうみてもラムターですよね。

でも自分が晒されるようなことはなかったですよ。

なぜかというと、そういうプレイヤーが思った以上に多かったからなんです!

つまりフレンド登録会に想像以上の数のラムターが参加していたんで、私のキャラが話題になることはありませんでした。」

小山さんもこの騒ぎにすぐに気が付き、自分の広場を非公開にしてからフレンドのマイページをチェックして回った。このあたりがぬかりない。

そして目を疑った。登録会でフレンドになった強プレイヤーの中に職人レベルがDやEの連中がごろごろいるではないか。小山さんと全く同じパターンである。

職人で荒稼ぎをしないと100%入手不可能なレベルの高額かつ強力な装備を身に着けている連中ばかりだった。中にはバージョン1.3で登場したばかりの強力装備を早速セットで購入しているものや、D級なのに「廃職人です」とフリーコメントに書いているプレイヤーまでいた。


「あの時は腹抱えて笑いましたね。強い奴らはほとんどラムターじゃねえかって!

私は証拠隠滅のために貴重な元気玉を使って職人レベルを大急ぎで速攻上げて、また何食わぬ顔で広場公開しましたよ。」

小山さんの職人レベル上げは採算度外視で行い、出来あがった微妙な装備はバザーに流さずその場で捨てることを繰り返した。もちろんこの資金源もRMTのゴールドであることはいうまでもない。装備の見栄だけではなく堅実に稼いでいる証拠の職人レベルすらRMTで上げてしまうのは何という皮肉だろう。


「今はそんなにわかりやすいラムターは少なくなりましたけど、まだいるんじゃないかな。自称廃職人の実際低級職人が。

それにこれは持論でもあるんですが、本当に職人でゴールド荒稼ぎしている人って自分の装備にあまり頓着なかったりするんですよね。バリバリの強装備じゃなくて売れ残った微妙なのを自分で使ってるって人が多いような気がします。」

これには思わず同意してしまった。

私のフレンドの中にも間違いなく億単位で稼いでいる廃職人さんが数名が居るが、彼らの装備は決して強くはない。そもそも新装備に切り替える時期が遅いのだ。

バージョンアップ日にフレンド欄の彼らを見ると、ストーリーには目も向けず、ずっと自宅にこもってで新装備づくりをしている。

バージョンアップ当日に出来た★3の新装備をバザーで売ることはあっても、自分で身につけることはまずあり得ない。

納得した私の顔を見て、小山さんは得意げに言った。


「だから言ったじゃないですか、ラムターは意外と多いんですよ。キミーさんのフレンドにも怪しい人はいませんか?」


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