14.その後の小山さん
小山さんに取材をさせていただいた後も定期的にメールで話を聞かせて頂いた。
15年11月から16年の2月までのやり取りの中から、取材後の小山さんの様子を書いてみたい。
第二次アカウント停止事件後。
10日間のアカウント停止処分から解放され、私の取材も終わってしばらくした11月の下旬ごろまで小山さんはRMTに手を出さなかった。
RMTと手塩にかけて育ててキャラクターにアウトカウントが1つ灯ってしまったのだ、無理もない。
2回目の点灯=BANなのでさすがに慎重になったという。
どうしても欲しい装備を買うために、売るものもめんどくさいとサブの家のタンスにため込んでいたアイテムたちを売りさばいてお金を作った。
しかしそれで調達できたゴールドは200万ほど。3年前(12年11月)なら全ての職業装備を買える金額だったが、ゲーム内のインフレがそれを許さなかった。
今(15年11月)の200万では小山さんが望むクオリティの装備を1つ買ったらなくなってしまった。
残金が0では心の平穏が保てない。小山さんは長いRMT生活のため持ち金が100万Gを切ると不安に苛まれてしまうようになっていた。
そこで、サブアカウントに持たせていたアイテムとグレン草原の土地などを売って500万ゴールドを工面した。
手持ちの金は増えたがわびしい気持ちになった。
そんなこともあって、この頃の小山さんは考えを変えることにした。
もうRMTはやらない。しかしRMTをしなければお金が手に入らない。しかしドラクエ10というゲームは好きだ。
そんなふうに考えを改め、装備のグレードを落としてもいいからドラクエを続けていこうかなと思い、日替わり討伐を初めて並んで買ってみたりもした。幸い手元には500万G残っているし強い装備も持っている。お金をしっかり貯めていこう。
しかしこの改心は1か月しか続かなかった。
12月の末にバージョンアップが来たのである。
バージョンアップはメインストーリーの追加もあるのだが、新しい装備も追加されることが恒例となっている。
このバージョンアップでは新防具が追加された。
ドラクエ10の防具には『セット効果』と呼ばれるものがあり、ある装備シリーズをすべてそろえると発揮される効果である。
例えば退魔装備のセット効果を発揮させるためには「退魔のぼうし、退魔の装束上、退魔の装束下、退魔のくつ、退魔のうでわ」の5つを買って装備しなくてはいけない。
強いボスのパーティー募集の場合、最新装備をセットで装備していないと誘われにくいこともあるので、プレイヤーたちは金策で貯めたお金を使って新装備をセットで揃えることになる。
このバージョンアップでも魅力的なセット効果を持った新防具たちが実装された。
しかし小山さんはこの誘惑に耐えた。
RMTをもうしないと決めた心は思った以上に強かったのである。
ところが我慢できたのは数日だけ。
このバージョンから実装された「邪神の宮殿」がとどめになった。
強敵2匹に8人パーティーで強敵に挑むこのコンテンツは、小山さんの心に眠っていたラムター魂に火を付けた。
▼強敵は多彩な状態異常攻撃をしてくる
全てを防ぐ耐性装備を揃えなくてはいけない!
▼弱い装備では通常攻撃で戦闘不能になるケースがある
耐性装備でも弱い装備ではなく、守備力も高くなっている最新装備が望ましい!
▼ピンチにアイテムを使うとパーティーの立て直しができる
せかいじゅのしずく等の高額な消耗品をじゃんじゃん使えば英雄になれる!
▼自分の活躍を7人が目撃する
最新の耐性装備で華麗に立ちまわれば究極の俺つええができる!
▼いろんな職業で俺つええ
邪神の宮殿は1~3獄まであり、参加条件が違うので複数の職業でチャレンジできる!
俺つええがしたい!→英雄になりたい!→高額な消耗品がほしい!→耐性装備がほしい!→最新の装備じゃなくちゃいやだ!→別の職業でもいくからちがう装備セットもほしい!
→高額消耗品と最新の耐性装備セット数種類がほしい!
人の欲望とは恐ろしい。
この望みをすべてかなえるには手持ちの金では到底足りぬ。RMTをしなくては……
だが、小山さんはすぐにRMTに手は出さなかった。
2015年→2016年の年末年始、小山さんは独自研究を始め、「最もリスクの少ないRMT方法」を研究していた。この時期こんなに勉強を頑張ったのは、母と二人三脚で消化した小学校の冬の宿題以来だった。
2016年になり、自分へのお年玉として小山さんはRMTを再開した。
使った金額はなんと8万円。
小山さんの希望で詳しいゴールド調達方法は伏せるが、RMT業者と取り引きするよりも割高な代わりに安全だという。
この8万円の効果は凄まじく、邪神の宮殿に必要な装備を揃えることが出来た。
ログイン中は邪神の宮殿に入り浸り、周回を延々と繰り返していた。
しかも難しいとされる2獄・3獄で未クリアの人の手伝いを無償で行っていたというからすごい。8万円の有償ボランティアである。
邪神の宮殿は毎月2回戦う敵が変わる。
使ってくる耐性異常も変わるので、それに見合った装備をさらに揃えなくてはいけない使命感が更に小山さんのラムター魂をゆすぶった。
結局2月も8万円を使い、一番お金がかかるといわれているパラディン装備に手を出したそうだ。上を見るとキリがないのは何の世界でも一緒だが、パラディンほど上の見るのを控えたほうがいい職業装備はないだろう。(パラティン装備はとにかくお金がかかる。)
小山さんは邪神や牙王で注目されたいがために、不要とも思われる高額な錬金装備を買いあさった。
今、自分は安全な取り引きをしているので、高額装備でドヤれるのが最高だと小山さんのメールには綴られていた。
しかし、これが最後のメールになってしまった。