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9.第一次アカウント停止事件

小山さんのRMT生活はなんと1年半以上にも及んだ。


つまり初めて購入した12年の11~12月頃から14年の6月まで何事も起こらなかった。

運営はほぼ毎月公式サイトのトップページにRMTの処罰対応実績を掲載していて、RMT利用者(主に業者)に積極的で厳正な取り締まりをしているとものだと思っていたが、これほどの期間なにもなくRMTを利用できているプレイヤーがいたとは驚きだった。

小山さんはコンスタントに購入を続け、リアルマネーで毎月約3万円をRMT業者に支払い、ゴールドを買っていた。


RMT業者にとってドラクエは人気のタイトルであるらしく、常時数十社以上がドラクエ10のゴールド販売を行っている。

小山さんは各業者の相場をチェックし(RMT相場ランキングサイトがあるという)、安い業者から安い時に買う方法を学んでいった。

RMTにも相場があり、大型アップデート前後は基本的に高くなるので、他のプレイヤーがスカスカと騒いでいるときに大量購入していたという。


例外的に高騰するのが1月下旬~2月上旬。

この時期は中国の旧正月にあたるため、RMT業者のゴールド調達と販売が滞るため一気に高騰するのだという。

海外からのアクセスが禁止されているはずのドラクエ10になんらかの方法で接続し、活動を続けているのだ。

アストルティアにある全ゴールドの何%かは中国産だと小山さんは言う。


小山さんがRMT取り引きした業者の数は合計5社にものぼり、さまざまな取引方法も体験した。

初めての取り引きのように待ち合わせ場所での直接受け渡しや、自宅に設置したモーモンバザーにまほうの小ビンや皮の手袋といった100G以下のアイテムを並べ、それぞれに100万G、200万Gといった法外な値段を付けて業者に買ってもらう方法など。

ところが、小山さんは普通の取り引きが面倒になってきた。

●時●分に某駅に向かったり、いちいちモーモンバザーにアイテムを並べることすら面倒になったのだ。

人というものはどこまでも自堕落にできているらしい。


そこで安値で気に入っていたLというRMT業者と郵送取り引きをするようになった。

郵送取引方法は継続して購入する分には良い方法だと小山さんは語る。

まず購入申し込みと支払いをし、Lの郵送係(運び屋)とフレンドになる。

直後、小山さん(の運び屋)郵便受けに購入した300万Gが届いているというものだ。

この取引方法の利点は、自分が受取の場所に行く面倒から解放されたことと、リアルマネー支払い直後にゴールドが届くという点だった。


「バザーで掘り出し物を見つけたとしますよね。すぐにLのサイトから申込してコンビニで支払うんです。

そうすると運び屋の郵便にLからゴールドがすぐ届く。運び屋の便利ツールから掘り出し物を落札。

ここまででかかる時間が約30分ですから、ほしいものはすぐ確実に手に入れることができました。

しかし人気商品はとりこぼすこともあるので、メインとサブには常時かなりの額のゴールドを持たせていましたね。」


しかしこんな小山さんにも運営からの処分が下される時がやってきた。



2014年6月。

すでに冒険の舞台はレンダーシアに移り、バージョン2.2が始まった直後。

ピラミッド7層に現れた強敵用に新装備をメインキャラで買っていた小山さんは、所持金が心もとないことに気が付いた。

しかしすぐ運び屋のサブにまだ1000万G持たせてあったことを思いだし、

メインに送金するためサブでログインしようとするとログインができなかった。


ログイン後、いつもなら世界地図が表示される画面は黒くなっていて、

そこに黄色い文字で


『このスクウェア・エニックスアカウントは

現在サービスの提供停止となっております』


という表示がされていた。


何のことか理解できなかった小山さんが、自分のサブキャラにアカウント停止処分が下ったという事実に気づくまで1~2分かかった。

サブの作成時に登録してあったメールアドレスには10日間のアカウント停止処分を伝えるメールが届いていた。

処分の日時を見ると、気が付いた前日の夕方にはサブのアカウントが停止されていたようだ。


「いや~な汗が流れましたね。処分受ける前はBAN上等!って気持ちでやってたし、運び屋のサブキャラだけが処分を受けてメインキャラは無傷ですからノーダメージで、自分の目論見どおりと言えばそうなんですけど、ショックでしたね。」

その日から、小山さんのドラクエ10ログイン時間は激減した。

怖かったのが理由である。

RMT開始からこの日までメインキャラにつぎ込んだリアルマネーは40万円を軽く超えていた。

買ったゴールドの総計も億の位まで達していた。

そこまでの金と膨大な時間を使った愛用のメインキャラに運び屋と同様の処分が下らないか一気に不安になってしまったのだ。


「お金はそんなに痛くないんですけど、時間とゲーム内の人間関係が破綻するのが怖かったんですよ。毎日ログインしてたフレンドが急にインしないと不思議に思いますよね。それこそ廃人クラスに何時でもいるような人がぷっつりいなくなるわけですから、フレンドの中にはこの時怪しく思った人も多いんじゃないかな。」

ゲームにログインしていない時でも、便利ツールからメインキャラが無事かどうかをチェックしていた。ツールのマイページが開けるたびに安堵した。

10日後、運び屋のサブがログインできるようになった日、一番にしたことは運び屋のキャラクター削除だった。


「運び屋キャラは停止を食らった時点で間違いなく運営にマークされましたからね。だからキャラクターをまるっきり削除しました。そのアカウントも2度と使っていません。だから運び屋キャラのゴールドやアイテムが没収されていたのかわからないんです。すぐに消しちゃいましたから。たしか1000万Gくらい持っていて、草原6番地にも住んでいたけど、しょうがないですよね。」

しかし、キャラを消したことで小山さんのモチベーションは急降下していった。


「金策の手段がなくなってのでモチベが下がりましたね。ピラミッド7用の装備買っている最中に運び屋がいなくなってしまいましたからどうにもならなくて。

装備セットを全部そろえる前に行きたくないですし、買うお金はないし。急に面倒くさくなってそれからしばらく休止してました。」

小山さんの口にした金策とは、もちろんRMTのことである。

装備を買ったり冒険をするために必要な送金が業者から途絶えたことで小山さんのドラクエへの情熱もまた途絶えてしまい、これ以降半年以上の休止に入ることになる。


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